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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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 冒険者という職業、彼らには様々な仕事がある。街中での様々な雑事、近隣の魔物退治や獣の狩猟、あるいは薬草などの採取など、その役割には様々な意味があり、それぞれいろいろな形で役に立つものである。その中で見張り……それも、街からある程度の範囲まで出向くような見張り仕事がある。これは主な役割は魔物の観察である。


「どうだ?」

「特に変わんねえかな。っていうか、俺たちがこういうこと調べてもよくわかんねえって」

「まあ、そうだけどな……」


 魔物の分布、去年はあっちにいた魔物がこっちに移動した、こっちにいた魔物があっちに移動したなど、調査の時期に関してはともかく、現状どこにどういった感じに魔物がいるかの分布を調べること。これは通常冒険者がやるような仕事ではないだろう。役割としてはどちらかというと研究者や学者、それも魔物の生態を調べる者、が主だろう。魔物だけでなく獣も調査の範疇だが、重点を置くべきは魔物である。

 魔物はこの世界の生物の中で通常の生物の摂理とは違う性質を持つ生物。その特殊性ゆえに、魔物は以前いた場所から大きく移動することは珍しくもない。特に魔物の中でも特殊な放浪魔と呼ばれるような存在のことを知っていれば余計にそれを理解できることだろう。もっとも、それを冒険者に理解しろ、と言ったところで酷な話だ。冒険者の主な仕事は魔物を倒すこと、であり魔物のことを調べそれについて詳しくなることではない。もちろん魔物自体のことに詳しくなれば得られる素材、相手の弱点、狩猟を行う上での捜索が簡単になるなど、様々な点で利点があるが、冒険者はそういったものは知識としてよりも経験としての部分で得ることの方が多い。また、単純に調査で学んでも、そこで冒険者が学べることも多くはない。彼らは頭で考える知性派ではなく、どちらかというと体育会系の人間が多い。

 ゆえにこういった依頼を出したとしても、あまり得られる情報は多くなく、だいたいどこにどの魔物がいるか大まかに調べるというのが基本である。まあ、本気で調査をするつもりであれば依頼など出さず自分で調べる。その場合冒険者を護衛として依頼することの方が多いだろう。冒険者に調査を頼むのは本当に大まかな範囲で、だ。そこで異変があればより詳しい調査を学者や研究者の方が行う、という形だろう。


「ん? あれ、こっちなんかいなくなってるか?」

「ああ……そういえばそうだな。でも、他は変わってないよな?」

「だけど前にほら、山が消えたって噂があっただろ。あれで変わったとか?」

「そういえばそんな話もあったな」


 この近隣では、山が一つ消えたという話があった。もちろん噂話なのだが、それは本当にあった話として言われており、実際それによって道が拓けそこを通って人が移動することも考慮されていたりする。新しい道の開通、となると仕事として道作りの依頼が入ったり、また商人も新たなルートの開拓ということで行き来が増える。商人の行き来が増えればそれに伴い街もにぎやかに、依頼の数も増えるだろう……ということで冒険者たちにとっては良い話だ。


「まあ、実際どうなのかは知らねえけど」

「そうだな。普通に考えればそんなことあるはずがない」


 まあ、その話が真実ならば、だ。それに消えた原因が不明な場合、恐ろしくてその道を使おうと思わない可能性もある。調査し、安全が確認されるまでは相応に時間がかかることだろう。


「でも、これそっちの方だっけな……」

「んー? たぶん違うよな。もうちょっと向こうで調査をしてみるか?」


 その消えた山の話、その話の内容の山のある方向とはまた別の方向での魔物の消失……それに関して彼らは疑問に思い、とりあえずその近辺を調べてみようと考えた。一応彼らとしてもこの依頼はちゃんとした依頼だ。多少手抜きはしてもいいのだが、それで何かあれば面倒くさいし、腐っても冒険者、依頼に対し相応に真摯になるべき、という謎の自覚があったからかもしれない。あるいは、直感的に何かの危機を感じていたからかもしれないが……ともかく、彼らはそのいなくなった魔物のことに関して少し調べてみる気になった。

 そして、その原因が大暴れしているのを彼らは遠くから見つけたのである。


「グラアアアアアアアアアッ!!」


 簡素ながらも、骨で出来た柄を掴み、その先に巨大な石斧がついた武器を使っている存在が魔物の群れを蹂躙している。群れと言っても、それはこの世界では最も数の多いゴブリンである。そもそも魔物の多くは多少の集団は作ってもそこまで群れるということはない。まあ、ある程度の範囲に幾らか住んでいる、ということはあるが、大規模の群れということはあまりない。ただ、ゴブリンは違う。ゴブリンはそれこそ人間のように社会的に動き、大きな群れ、集団を作る。

 そのゴブリンたちは恐らく自分たちの住んでいた場所を守るために出てきたのだろう。でなければ自分たちに無双する怪物相手に立ち向かうはずはない。流石にただ遭遇しただけならば逃げるだろう。しかし、己の所属する集団の危機ならば、その危機に向かい立ち向かうことは珍しくもない。もっとも……その相手が、強大な放浪魔であり、それゆえに一方的な蹂躙を、殲滅を、破壊を受けている。

 冒険者たちとしてはゴブリンの集団がいなくなるということは実にありがたいことであるが、代わりに自分たちの住んでいるところの近辺に放浪魔が来ている、となると逆に困る話になる。放浪魔とゴブリンの集団ならばまだ後者の方が対処がしやすいからだ。数は力だが、弱い無数の力と強大な単一の力ならば、冒険者たちの集団は同じ数で対抗できる弱い無数の力の方がやりやすい。それに放浪魔は上位の冒険者でなければ倒せないような強さを持っていることが多い。それゆえに、この状況を確認した彼らはすぐに戻ることを決意する。


「おい、帰るぞ」

「あ、ああ……魔物がいなくなった原因、もしかして……」

「恐らくはあれだろうな。潰されたか、逃げたのかはわからん。だが、それよりもまずはあれについて伝えないと……」

「そうだな……でも、うちの街にあんなのに対抗できるのいるか?」

「…………最悪、多少の被害は避けられないかもな」

「げっ……」


 放浪魔を相手にする場合、その放浪魔が向かう方向にある町全体で対抗するようなことは珍しくない。それで大きな被害を出してでも倒すか、あるいは小規模の被害だけで相手を逃げさせるか、それともそもそも放浪魔が街に近寄らずに去るか、それはその時次第である。彼らのように魔物の観察を行う仕事はこういった放浪魔の発見を目的としているものでもあったりする。まあ、放浪魔はその強さゆえに、観察してその存在を確認する前に彼らに近づき、襲ってしまうことも珍しくない。ゆえに彼らはある意味幸運であったともいえるだろう。

 もっとも……同時に彼らは自分たちの情報を残してしまっている。遠目で観察することによって放浪魔が感じた視線、ある程度見えるところまで近づきその場に残った匂い、今回は問題のなかったものの、会話をしたという情報。迂闊に放浪魔に近づき、その場に情報を残し逃げ帰る……そうしてその場に残った情報を放浪魔が得ることで、放浪魔はその相手がどこに行ったかを把握することができてしまう。多くの獣が匂いで獲物を追うように、放浪魔もまた、それらの情報から情報を残した何者かを追う……そんなこともあるのだ。

 ゆえに、彼らの残した情報から、放浪魔は確実にロップヘブンへと到達する。街が滅ぶような危機、この世界ではどこにでも転がっているような珍しくもないことである。



※山が消えたことは未だに噂話。そもそも調査が難しい。現実的ではない。なのであまり詳しく調べられていない。ただ事実として山がなくなったためそこからの移動がある。

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