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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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 朝。日が昇り爽やかな日差しが差し込む頃合い、さすがに未だに少し暗いながらも、人々は朝早くから活動を始める。特にこんな異世界においては電灯などの類はなく、比較的夜は早く眠るもの。朝日とともに起き、日が沈み暗くなれば眠る、そんな生活は珍しくもない。それゆえに朝から起きる者は多いが、決してそのすべてが朝っぱらから活動するというわけでもない。職業柄昼から仕事という者もいるし、朝と言ってもまだ暗い時から活動するのではなく、少し日が昇ってから活動する所もある。

 まあ、そこは各人各職によってまちまちといったところだが、朝になるとそれなりに裏通りにも人が出てくる。ロップヘブンは決してそれほど大きな街とは言えず、スラム街というほどに酷い場所はないが、それでも裏通りにはいろいろと事情があったりする人間や捨て子のストリートチルドレンがいたりと様々な人間がいる。そしてそんな場所にいる存在であるがゆえに、危険には敏感で朝も早く起きて活動しなければ色々と危ない。そうして起きてきた様々な人間たちだが、その日は少し妙な雰囲気……いや、変な状況だった。

 裏通りにあるとある建物はそれなりに人が詰めて活動している場所だが、そこはチンピラや少しロップヘブンで裏の人間として活動しているような人間が集まっている。それゆえに色々と活動し、朝でも少々人の行動する気配があり賑やかな場所だったりする。しかし、そこが実に静かだというのが奇妙である……いや、それ以上に。建物の前になにやら人影があるのが一番奇妙だ。普通ならばそんなところで人が誰かを待ったりはしないし、かといってその建物の前に人が見張りをするのも変な話、いや、近づいてみれば余計に奇妙さはわかる。

 何だろう、と思い近づいた人間は、そこに立っている男に頭がないことに気づく。そして、その服装や格好からそれはそこの建物の中で一番偉い人間だということがわかる。彼を見たことのある人間はまあまあいる。体格と服装だけで完璧に判断できるわけではないが、そう判断せざるを得ない状態だ。まあ頭がないので誰かを身代わりにそうした、と言われればそれまでだが。

 それを見て、叫び声をあげる人間が出てきて、そして話が広まり裏通りがざわめき立つ。また、裏通りから外へ、普通の街並みへと話が拡散していく。そしてその噂とは別に、立たされていた男の体に張り付けられていた文章もまた奇妙な物で、その話も広まっていく。

 内容はこうだ。『我らに手を出したこの組織を我が剣にて滅す。以後ゆめゆめ手を出すなかれ』難しく……というほど難しくもないが、要は『やられたからやり返した、報復行為だよ。他の奴らは手を出してくんなよ。』という感じの文章である。もっとも、だれがそれをやったかわからないのであまり文章の意味がないような気もするが。

 そして、裏通りのそれとは別に、ギルドの前には大きな箱があった。土で作られた固い大きな箱。それにも張り紙が張られており、ギルドに出向いてきた職員がその大きな箱と張り紙を見て一体どうしたことかと驚く。張り紙の内容は『この街の裏組織を潰して手に入れた金をお前たちに渡す。この街の発展のために使い寄与せよ』という内容だった。こちらも誰がやったかわからないが、裏通りの話が広まるにつれそれと総合してその裏通りの裏組織……というほどでもないが、小さな町の裏側の組織を報復行為で何者かが潰し、そこにあったものをギルドにこの街のために使えと渡してきたわけである。ギルド側としてはいろいろと困る話なのだが、両方の話が噂話として広まってしまい、その話を隠すことはできない。ギルドでそのすべてを勝手に使うことはできず、ギルドは街の偉い人にそのお金を持っていき、そのことについて話すことになった……らしい。

 ちなみに、お金に関しては勝手に使ってもいいのでは、自分の物にしてもいいのでは、と思う者もいないわけではなかった。しかし、裏通りの話を考えると下手なことをすると報復されるかもしれない、と考えると変なことはできない。そういうことで諦められ、大人しく街の発展に使おうという形になったそうである。


「ってーことがあったらしいっす」

「そうか」


 と、そんな本日の朝から起きたことを噂として聞いてきたフーマルが公也とヴィローサに伝えた。とはいっても、フーマルはその噂話に関して、一体だれがなぜどうしてどうやってそんなことをしたのかはなんとなく推測がついている。先日のことを考えれば、確実に公也が動いてやっただろうという予測はつく。もっともその話を聞いても公也もヴィローサも特に気にした様子はなかった。


「いったい誰がそんなことをしたのかしらね?」

「さあな。まあ、変に手を出さなければ安全だろう」

「……そうっすね」


 結局のところ、悪いのは相手方である。公也に手を出さなければ公也も潰そうとはしなかっただろう。公也は決して善人とは言えないし、正義の味方と言える存在ではない。自分の与り知らぬところで何が起ころうとも、特に自分が関わることがなければ無視するものだ。まあ、見える範囲であったり、その存在を察知したりすれば、どちらが悪人かはっきりわかるような状況であれば、手助けをしたりすることはあるかもしれない。善人でも正義の味方でもないが、逆に悪人でも犯罪者でもない……いや、犯罪者ではあるのか。まあ、極悪人の積極的に犯罪をしたがる存在ではない。多少精神的にあれな異常者ではあるかもしれないが。


「しかし、お金は全部貰っていかなかったんすか?」

「金に困っているわけじゃない。報復分も合わせて慰謝料分くらい貰えればそれでいい。俺みたいに襲われたけど無事、っていうやつらばかりじゃなくて襲われて全部奪われた奴もいるだろう。それはここの街の人間のはずだ。その分は返すべきだろう?」

「…………よくわからない考えっすね」

「キイ様の考えることが簡単にわかってたまるものですか。だってキイ様ですもの。誰にも思いつかない、誰にもできないとても素晴らしいことをいつでもやってのける、この世界で唯一の私の王子様だもの。当たり前でしょう?」


 ヴィローサのわけのわからない発言はともかく。公也としてはこの街の人間から奪われたものまで自分の物にする気はなかった、というだけだ。これが旅の途中で出会った山賊のアジトにあった、とかなら全部貰っていくかもしれないが、街に戻ってきた人間から奪っただろう物は流石にその街に返すべきだと思ったというだけである。まあ、その中には彼らが行った何らかの活動で得たものもあったのかもしれないが、そこはあまり興味もないし気にしても仕方のないこととして全部まとめて置いていくことにした。

 もちろん少しくらい……というにはそれなりの額だが貰っていっている。公也の言う通り、慰謝料分、報復に費やした苦労分くらいのもの。


「さて、前日の仕事の精算にいくぞ」

「……どたばたしてたから忘れてたっすけど、そういえば昨日はギルドに行く前に帰ったっすからねえ……そうっすね、とっとと終わらせた方がいいっすね」

「こんなところでフーマルと噂話で盛り上がるよりは楽しい物ね」

「酷くないっすか!?」


 ヴィローサのフーマル弄りはともかく、本日も変わらず仕事……を受けるかはともかく、受けた仕事の完了報告はしておくべきである。そういうことで三人は少し騒がしいどたばたとしていた冒険者ギルドへ出向くのである。



※本当は人誅とか書きたかったがこの世界に該当する語彙がないので長ったらしくなった。

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