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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
十章 人造白魔
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16



「まさかあれが倒されるとはな…………」


 公也たちが白い魔物を倒した状況、その状況を見守っている存在がいた。それは公也たちと白い魔物が戦っている現場よりもかなり遠い場所からその様子を見ていた。ヴィローサやメルシーネ、公也も感知能力は高い。ある程度近場にその気配があれば気づく。また魔法による察知を行っていれば現場にまで届くような察知手段を使っていれば察知しただろう。

 しかしその存在が行っていた現場の監視手段は遠視……言うなれば遠眼鏡の魔法といえるような魔法である。皇国で公也が言葉の伝達を行った時のような広範囲、全域に作用するようなものではなく自分の視力にしか作用しないような魔法である。それであれば察知されるようなことはない。


「ただの冒険者に倒されるような強さではなかったが……いや、誰がどう見てもただの冒険者ではなかったな。なんだあれ? 連れている獣人はともかく、もう一体の方はなんだ? 獣人か? いや、あれがもっていたのは竜の翼だ。竜か? 竜が人間に従うか? それは流石にないだろう。そもそもあの人間もおかしい。あれが逃げるくらいの判断をするような人間だと? 本当人間かあれは?」


 公也たちの戦闘はかなり目立つ。まあ竜の翼を持つ人間らしき存在が空を飛んでいて、目立つ白い魔物が戦っている現場だったのだから見える場所から見ていたのならばそれはもうはっきりわかりやすく何かしているのが見えることだろう。そしてその竜の翼を持つ人間、あきらかに普通の人間はない少女の存在はかなり奇妙に見えるだろう。いや、そもそもいわゆる竜人という存在はこの世界でもほぼ見られるものではない。獣人やエルフはいるが竜人というのはまず見られない。いるかもしれないしいたかもしれない、見たという話もないわけではないが……まず一般に知られる存在ではない。しかもそれが空を飛んでその存在を主張しているわけだから余計に目立つ。

 そして公也もまた異常にみられるだろう。今回の白い魔物はCランク冒険者相手でもそれなりに戦えるものだ。しかし一般的なCランク冒険者の強さは単体での強さではなく基本的にはチームでの強さ。それもあの白い魔物がたった一度戦うだけで判断した……ところまでは見てないが、白い魔物がほぼ完ぺきに逃げを打っている時点でまともな強さではないということである。その様子を見ていたわけだからその強さの異常性がわかる。


「……まさか倒されるとは。あれが倒されたとなると問題だぞ……作り直すのも手間だし、あれが持っていかれるというのも困る……どこにデータが行くかわからん。いや、この国にあれの存在が知られること自体大問題だ……まあどこの国に知られても問題なことには変わらんか。やっぱり倒されたことが問題だな……しかしこの国にあれだけの手練れはいたか? 知っている限りの強力な冒険者の中にあんなのがいた覚えはないんだが……」


 彼は一応キアラートで活動していた都合上多くの冒険者のことを知っている。実力のある冒険者、Cランク以上の冒険者は多くの場合知名度が高く有名になりやすい。キアラートは戦力となり得るような冒険者はそこそこ、冒険者が多い場所よりは少なく冒険者を危険視するならば活動しやすい場所である。まあそれでもいないわけでもないしそこまで少ないというわけでもない。ただその存在の多くを彼は知っており、それらの行動を把握したうえで魔物の運用実験を行っていた。

 しかし今回公也が来た。公也の存在はこの国においてはそこそこ有名ではある。しかし貴族、冒険者、その二つが被さったうえ戦争の功労者、城持ちなど多くの情報が錯綜し、そもそも下の人間に公也のことの多くは知らされていないということもあってその存在は把握しきれないものとなっている。一応冒険者ギルドや貴族関連、ある程度情報収集能力の高い組織ならば情報を持ってはいるが彼の組織はそういった情報を集められなかった。

 一応は彼の所属する組織も公也の活動の結果追いやられたわけであるがそれを行った存在には興味を持たなかったし、公也の存在は道案内以上のものではなく彼の所属する組織を追い詰めたのはキアラートの魔法使いということになっている。そういった各所のいろいろな状況の複雑さもあって公也のことは知りえなかった。ゆえに今回魔物を倒される結果となった。

 彼にとって、彼の所属する組織にとっての問題は魔物が失われたこと。その魔物の情報流出もあるが魔物自体結構なコストのかかっているものだ。なんだかんだで強力な魔物を生産するのには必要なコストは大きい。そして今回それが一冒険者風情に負けたということもあってこの情報を持ち帰れば確実にこの魔物の作成は頓挫することになるだろう。


「……まああれは上手くいけばいいという期待があった程度だ。魔物の動きに関しての制御は難しかったからな」


 しかし彼らの組織にとっては白い魔物が失われるのはそこまで大きな問題ではない。一応ある程度の試作品が複数残ってはいるが今回の結果でそれ以上の作成は行わない。そもそも彼らの組織には魔物よりも人の形をした存在を作る方が得意である。公也の解決した悪霊の群体が出現した事件、その時に見つけられた組織にあったのは人型の人造生物、ホムンクルス。アンデルク城にいるウィタ、そういった存在が彼らの組織の一番作成能力の高い人造生物になる。

 魔物は今回作ったはいいがコストは高いし戦闘に使うための思考、行動ルーチンも人間より組みにくく、そもそも特殊な能力もなく運用しにくい。もちろん命令を聞く強力な魔物と言うのは優秀ではあるが、それを作るくらいならば同じだけのコストで作れるホムンクルスを用意し武器や防具を持たせ戦わせるほうが優秀だと考えられる。なんだかんだで数の力、連携の力は強い。ホムンクルスに心を持たせ精神を育てる実験はあまりうまくいっていないが魔物よりもはるかに行動ルーチンの作成はしやすい。そういう意味では今回のことは彼にとっては別に問題のないことだと考えられるものであった。


「しかし……突き上げは食らうだろうな。まあしかたない。引きどころを見誤ったのは間違いじゃないかもしれんしな」


 だが問題がないからといって魔物が倒されたことが良しというわけでもないだろう。公也が来る前に魔物を連れて運用はうまくいった報告すればそれはそれでよかった。いつまでという期限があったというわけでもなく何時でも戻れただろう。ある程度の成果自体は出せたのだから。


「まあいい。戻るか……まったく、ここから行くとなる遠いんだよな」


 現在彼のいる組織は遠い。キアラートから国を一つ挟んだ向こう側である。彼らはキアラートで追われてからそこにまで逃げるしかなかった。まあキアラートの隣に同盟国がありそちらにいるとキアラートから追手がかかる危険もあって余計に、である。それに彼らの技術は国にとっては戦闘に関与するかのうせいのある大きな脅威。それが欲しいという国は現在戦闘を行う可能性のある国、戦争が起きる可能性のある国。なぜ彼らはキアラートにその技術を売らなかったのか。まあ彼らの技術、魔法を含む技術にはアンデッドの作成も関わっていたからだろうと思われるが。今はアンデッドなしで国からの支援蟻での活動中である。

 それがどういうことになるか。キアラートで魔物を戦闘運用する実験を行っていることなど、実情としてはかなりきな臭いところはある。現時点でどうなるか、それは見えない。だがあまりいいことにはならないだろうという推測はできる。

 そうしてキアラートの国境で起きていた事件の元凶はキアラートから姿を消す。もっともそれについてはキアラート側では把握できることではなかった。



※獣の動きと人の動き、人間が作るものにどちらの動きを組み込みやすいかと言えば、当然人間と同じ動きになる。

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