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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
十章 人造白魔
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15



「大丈夫か?」

「な、なんとかっす……」

「怪我はなさそうだな……多少のダメージなら自然回復で問題はなさそうだし」


 フーマルは致命打を与えた白い魔物からの攻撃を受けたものの、ダメージ自体は大したものではない。体当たりに近い一撃だったため吹き飛ばされ結構な打撃や衝撃ではあったがそれくらいだ。これが爪などによる怪我であればともかく、衝撃などのダメージならばそこまで回復する魔法は必要ない。


「終わったのです?」

「フーマル最後ぶっとんでたけど油断したの?」

「いや、あれは防ぎきれないっすよ……」

「怪我もなさそうで元気な様子なら問題ないのです」

「……扱い悪いっすねー」


 女性陣二人からのフーマルの扱いは悪い。相手が公也ならもっと心配しただろうか。


「フーマルはキイ様から心配してもらえるでしょ。それだけで十分じゃない」

「いや…………まあヴィローサさんならそれでいいっすけどね」

「一応心配はしているのですよ? でも別に特に問題はないのですよね」

「う……まあそうっすけど」

「話が横道に逸れるからそこらへんで終わりな。それよりこいつだが……」


 公也が話を遮り魔物の方に視線を向ける。白い魔物は倒れ伏している。おそらくもう動く様子は見られない……死んだふりでなければ。もちろん白い魔物がそこまで考えた動きを見せるとは考えられないが、確実に殺したとは言い切れないかもしれない。


「これは確実に死んでいる……と見ていいな?」

「確かめたらいいんじゃないっすか?」

「必要ないのです……ヴィローサ?」

「ん……まあ特に反応ないから大丈夫そうではあるわ。不安なら毒を入れるけど?」

「いや、こいつは持って行って死体を見せる必要があるだろうから大丈夫だ」

「持って行くっすか……」

「完全に新規の見たことない魔物だからな。それに話に合った魔物がこれかどうか、というのは実際に生き残った人間に見せないとわからない。討伐証明を行う部位も不明なわけだし」

「それに新規の魔物ならその生態を調べる必要もあるのです。仮に作られた魔物だとしても同じ判断が必要なのです」


 白い魔物はこれまで見たこともない、どこかで出たという話を聞くこともない魔物。突然変異の特殊な魔物か、それともその動きから何者かに作られた魔物であるかもという推測が正しければ人造の魔物である可能性が高い。前者、特殊変異した魔物ならばまた発生する可能性は低いかもしれないが同様の魔物の発生も考えある程度その情報はあった方がいいだろう。しかし一番危険なのは後者、人造の魔物であった場合。その場合はより死体の存在、その生態、情報が重要なものとなり得る。


「人造だとすると誰が作ったかが問題になるな……どこで作られたか、も」

「……確かに誰かが作ったとなるとやばいっすね」


 フーマルでは力負けするくらいに強い身体能力を持つ魔物である。これが他の冒険者ならば……負けないにしても怪我を負う危険もある。Cランク冒険者でも逃げられる可能性は低くない。まあそういう強い魔物は時折見かけることもあるだろう。しかし魔物の強さよりも、これが作られた魔物であるということが問題だ。いや、子の魔物を作ることができる技術が問題である。しかも今回の魔物の場合命令を組み込んだ、魔物を作った側がその行動パターンを設定した可能性があることも問題だ。行動パターン自体は単純で多様性も低く、また自己判断もそこまで高いものではなく思考能力もない、生物としてはあまりにも機械的過ぎてどうしようもない者であったが、重要なのは思考パターンを設定できるということ。

 作った側が自由に魔物の行動を制定できる。例えばその組織が自分たち以外の人間を対象にし攻撃することを制定した場合、魔物は無差別に人を襲う危険な存在になり得るだろう。そしてそれを無制限に作ることができるというのも厄介な話になる。もちろん魔物を生産するコストの問題はある。しかしそれは逆にいえばコストの問題が解決した場合大量生産ができるということになる。作るノウハウがあるという時点でかなり厄介なことになる。

 魔物の情報からその大本を探ることはできるか……というと怪しい。魔物がどれほど知識、記憶を持っているかがわからない。そもそも公也が暴食でその情報を得るには魔物は希少すぎる。死体を提供するからといって頭を丸ごと持っていくのは流石に難しい。できる限り丸ごとを提供しなければだめだろう。まあ戦闘中に失われたというのであれば仕方ないとみられるかもしれないが……公也では手を出せない情報を頭部から得る可能性もあり得る。公也の暴食と魔法の研究者が研究する場合、生物の研究者が研究する場合では得られる情報がまた違ってくるだろう。公也の得られる情報はあくまでそれその者が持つ情報でしかない。


「……足だけはもらっていくか。生物の情報は得たいし」


 切り落とした足だけは自分が回収する。他の部分は提供する、そういう形にしようと公也は決める。今回のは魔物退治の仕事であり別に魔物の素材を持っていく仕事でもないし、その情報を得ることが目的でもない。とはいえある程度情報はあった方がいいので死体は持っていくのだが。重要なのは倒したことであり今後の被害が無くなること。現状への対処が仕事の内容である。


「でもこれで終わりなのです? 他にはいないとみていいのです?」

「……どうだろうな。いるかもしれない……人造なら他にいる可能性もある。ただ、それに関しては今はあまり考えても仕方がないと思う」

「どういうことっすか?」

「証明できないから。一体しかいないのか、それとももっとたくさんいるのか。現状での判断ができない。だからとりあえずこれを渡していったん仕事は終わり、という話にしておきたい。まあ今後被害が出て実はまだ終わっていなかった、ということもあるかもしれないが……それはまたその時だ」


 魔物が出てきた場合、その魔物を一体退治すればいいのか、それとも群れを退治すればいいのか。普通はそれは前提として先に言われているだろう。しかし今回はそれが不明だった。一体だけだなのか、それ以上いるのか、そこがわからない状態だったわけである。ならば仕事の内容として被害をもたらしている魔物の退治はどの時点で終了と判断するべきか? それは基本的に相手側と自分側の同意によるものとなるだろう。本来なら相手の方から数を提示して然るべきである。相手の方ですら判断できない相手をこちらで判断して対処しろというのはかなりの無茶振りだろう。まあ何も言っていない以上その無茶を押し通せないわけでもなさそうであるが、今回の場合貴族対貴族での仕事だ。一応公也は冒険者として来ているが立場は貴族、なにせここはキアラート。公也も貴族としての立場を利用できる。

 公也自身は決してこれで仕事を終わらせて楽をしたい、という目的で終わらせるつもりではない。ただ無意味にこの場所に拘束され自由に行動できないのは困ると考えているから終わらせたいだけである。もしもう一度同じ魔物が出て複数いた、対処してくれと言われたらその時は行ってもいいとも考えている。今回は足だけだったが魔物全部を食らうことができればもっと得られる情報は増えるだろう、そう思うところなのだからむしろ複数いてほしいとまで重いたくなる。

 まあ結局現状では不明であり、死体もいつまでも抱えたままでいるわけにはいかない。謎の魔物とは言え生物である以上は腐るだろう。ならば早々に持ち帰り見分してもらい、これで仕事が終わりなのかどうか、出て居た魔物がこれでいいのかどうかの判断をしてもらう方がいい。その後まだ仕事をするべきなのか、それともこれで終わりなのか、あるいは一時的に終わりとみなすのか、それに関してはまた別に判断するべきものである。


「それじゃあ運ぶか……っと」

「うわ……大丈夫っすかそれ?」

「重さ的には問題ない。っていうか建築のときに運んでいる石材とかよりも軽いぞ?」

「比べる物が違うのですよ。わたしも手伝うのです」


 建築時などに石材などを運ぶ力を持っていた公也にただの魔物の死体程度、大きさがそれなりに大きい者でも、筋肉いっぱいで重かろうとも大した違いはない。とはいえバランスの問題などもあるだろう。メルシーネが手伝おうと言ってくるが公也は断る。


「いや、メルは安全の把握を優先してくれ。襲われたら面倒だからな」

「了解なのです……ちょっと竜の気をだしておけば寄ってこないと思うのですけど、警戒はしておくのです」

「キイ様の肩にとまれないー」


 ヴィローサが魔物を運ぶ公也の側に入れないで困っている。腰などに張り付くのもうざったい、邪魔になりそうなので流石にヴィローサも自重しているようだ。肩ならいいのか。そこは少々疑問に思うところである。


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