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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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 一瞬で死体、およびまだ生きていた男たちが消える。この世界では命の価値は公也の元々いた世界とはかなり違い、価値が低い。とはいえ、そう簡単に日常的に人が殺されるような世界というわけでもない。冒険者という職業をしていれば仕事中に身の危険などは多々あるものの、それでもそう簡単に仲間が日常的に死ぬようなことはない。そして、それこそ街の中で人が死ぬようなことが頻発するようなこともないわけである。

 しかし、今回公也たちを襲ってきた男たちはあっさりと、それも一瞬で、そのすべてが消された。それはどう考えても日常的には有り得ない。死体もそうだが、生きていた男たちもいたはず。果たしてそれが消されて生きているか? そんなはずはないだろう、そうフーマルは思った。フーマルにとって、今回起きた出来事、およびその後始末として消された事態は理解の範疇外である。公也の魔法……と思うしかない状況であるが、果たしてこれが魔法で出来るものかとも思ってしまうほどに異常だ。まあ、フーマルは魔法について詳しくないため、可能性として魔法であるのが一番可能性が高いだろうとは思っているが。


「……………………」

「さて、とりあえず問題は解決……していないわけだが」

「そうね。襲ってきたのは馬鹿でどうしようもないのしかいかなかったけど、裏に何かいるのでしょう?」

「ああ。そっちをどうにかしないとだめだろうな」

「また襲われちゃうものね」


 フーマルが起きた出来事に言葉も出ない状況にいる中、公也とヴィローサは特に普段と変わりないように対応している。ヴィローサも暴食の能力に関しては理解しており、その能力によって男たちが生死にかかわらず消されたということはわかっている。消したのは公也であるわけだから男たちが消えたことに何も思うことはない。三人の中、男たちの行動および公也たちの動きに対応できず何もできなかったフーマルのみが現状に適応しきれていない。


「……………………」

「フーマル」

「っ! な、なんすか!?」


 特に咎めるというわけでもなく、脅しをかけるような意図もなく、ただ普通に……現状には明らかに即さないような、普通な声で、公也はフーマルに声をかけてきた。まるで普段通りかというようだが、どう考えてもそんな反応をする場面ではない。しかし、公也は普段通りだった……それが逆に恐ろしいと感じるほどに。


「俺やヴィラは普段からこういうことができる人間……と妖精だ。殺すことに躊躇はしないし、自分に襲い掛かってくる敵に対しては容赦はしない。その力は普通の冒険者が持っているようなものではなく、異常と言ってもいいくらいの強さで、余裕をもって十人ほどを簡単に殺せる」

「…………そうみたいっすね」

「恐ろしいと感じるのは当然だし、そんな人間に近づきたいと思う者は少ないだろう。それに、こういったことをしていることがばれれば怪しまれるし危険視もされる。今なら、フーマルはまだ俺たちとそこまで仲がいいとは言えないし、俺たちも自分たちのことはお前に教えていないからどこかに行った所で大きな問題にはならない。それこそ俺やヴィラのことを詳しく知られれば情報の隠蔽もあるからどうにかしなければいけなかったかもしれないけどな」

「う…………」

「離れるなら、今が機だ。どうする?」


 公也やヴィローサという存在はとても危険な存在である。その存在、特にヴィローサは妖精ということもあり狙われる可能性は高い。襲ってくる存在の危険という意味合いでもあれだが、それに対処する公也やヴィローサの方もその危険性は高い。暴食の力、毒を操る妖精、その二つで本気で街を滅ぼそうと思えば一日あれば容易にできる程度には……それこそ公也だけで街一つを消し去ることは簡単だろう。それくらいに二人は危険である。そんな二人の傍にいれば、まともな生活はできないし、襲い来る危険は多いだろう。ゆえに公也はここでフーマルに選択を持ち掛ける。今ここで公也たちから離れ安全に冒険者として生活をするか、公也たちと一緒にパーティーとして様々な危険や事件に挑むか。


「………………」

「いいのよ、いなくなっても? 私はキイ様と一緒にいられればそれだけでいいし。フーマルは別にいらないから。むしろいると邪魔だし。いないほうが二人きりで一緒の時間を満喫できるものねー?」

「……ヴィラはこういっているが、判断はフーマルに任せる」

「う…………」


 フーマルとしては目の前で人の命を容赦なく消し去る二人……まあ、ヴィラは生かしていたが、あれは単に生かしたほうが都合がよかったんじゃないかと思ってそうしただけであり、殺すことは容易だっただろう。そう考えれば容赦なく人殺しをできる二人を見て、色々とその倫理観、善悪、危険度から恐怖や不安がわいてくるのは仕方がない。しかし、逆に言えば二人はそれくらいに強く、優秀であるということでもある。冒険者として上を目指すのならば、二人についていくことは大きな経験を積むことにつながる。もちろん危険も多大にあるわけだが


「………………いや、ついていくっすよ。二人と一緒なら、俺自身もっと成長できると思うっす。今のままでも、それなりにはなれるかもしれないっすけど……もっと上を、二人と一緒なら目指せるかもしれないっすから」

「そうか」

「ちっ」

「反応が淡白っすね!? ちょっとは喜んでもいいじゃないっすか!? 特にヴィローサさんのほうは!?」

「邪魔ものに向ける心はないの。うざくて邪魔なのがそばにいたら『イラッ』ってくるじゃない」

「酷いっす!」


 まあ、色々とヴィローサの反応はひどいと思わざるを得ないが、それこそヴィローサは公也と二人きりの方がよほどいいわけなので仕方がないだろう。ともかく、フーマルはいろいろと恐ろしい経験をしたようであるが、それでも公也たちについていくことに決めたようだ。


「さて……フーマルの判断自体は俺としてはどっちでもよかったが、とりあえず二人は宿に戻れ」

「それ酷くないっすか!?」

「キイ様、私だけ戻れなんて……」

「ヴィラは必要ない……別にヴィラがいらない、というわけじゃない。今から行く場所でヴィラがいるとヴィラのことを気にしなければいけないからな。巻き込むと殺しかねないし、向こうの流れ弾で死んだらそれはそれで気に病む。大人しく宿で戻るのを待っててくれ」

「…………わかりましたわ。私はキイ様の御帰還を宿にてお待ちしております。早くお戻りくださいね、私の王子様」


 優雅に、まるで貴婦人のような動きで公也に一礼するヴィローサ。様にはなっているが、そこまで格好つけた行動をしたところで別に公也もヴィローサも普通の冒険者であるわけだが。まあ、ヴィローサは頭がおかしいのでいろいろな意味で仕方がないわけだが。

 公也の行動を理解している……どういう理念か、意思か、意図か、何故か公也ならば何を考えているのかおおよそわかるヴィローサはともかく、フーマルはいきなり戻れとか言われても困るはなしである。扱いも悪いし。


「えっと、どういうことっすか?」

「聞いてもいいが、聞いても何もできないから聞かないほうがいいぞ? 下手に聞いて巻き込まれてもいいならそれでいいが」

「えっ」

「フーマル? キイ様に迷惑をかけるようなら、今ここで麻痺させて動けなくしてもいいわよ?」

「ううっ!? わ、わかったっす! 大人しく戻るっすから! 戻りますから!!」


 ヴィローサはいろいろな意味で怖い。彼女は狂気の塊であり、毒の塊であり、公也の敵への殺意の塊である。下手に公也の行動を邪魔しようものならば、仲間ですら容赦しない危険がある。


「なら戻っていてくれ。そんなに時間はかからないだろうからな」


 公也が何をするのか。ヴィローサは予想できているが、結局正確な理解はしていないだろう。とはいっても、現状……先ほど起きた出来事、それを考えれば、それの報復行動に出る……脅威の排除を行う、そういうことであるのは誰でも予測はできるだろう。


※フーマルは一般人枠。あるいは正当な実力ある冒険者に成長する枠。

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