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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
十章 人造白魔
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13



 ばさりと飛翔する生物の翼の音がする。別にメルシーネの持つ竜の翼は動かさなくても空は飛べる。竜の飛行はその翼に宿る特殊な力によるもので羽ばたきによる飛行ではない。しかし気分的に、感覚的に、羽ばたく方が飛行がしやすいと多くの場合認識することが多いらしく翼を動かして飛行していることが殆どである。さて、そんな竜の飛行に関しての話はともかく、メルシーネは公也を抱えて空を飛ぶ。白い魔物をフーマルと公也で挟み込むことを決めたため公也を白い魔物を挟んでフーマルの反対側にもっていかなければならない。回り込んでもいいが空を飛ぶのが手っ取り早いと考えそういう行動をとった。また同時にヴィローサの安全のためメルシーネの腰辺りにヴィローサがしがみついている。


「それじゃあがんばるのですよご主人様」

「ああ」

「頑張ってねキイ様!」


 空から落とされる公也。多少ごつごつした岩場で足場が悪いが公也の身体能力は高く、落ちても問題なく着地できる……そもそもぐちゃっと落ちて潰れても回復できるのでそのあたりはあまり気にしない。その後の行動に支障が出るのでまともに落ちたほうがいいし、ちゃんと落ちる方が損耗は少ないのでそちらの方がいいだろう。と、そんな風に公也が落ちてきた。

 落ちてきた音に反応して、いやそれ以前にメルシーネの飛行の音に反応し白い魔物はメルシーネの様子を観察していた。空を飛ぶ相手は白い魔物も十分な警戒対象であるためか、すでに逃げ腰。一応メルシーネは飛行はしているが白い魔物には近づこうとはしていない。そんな判断を迷っている……かもしれない雰囲気をしている白い魔物を公也とフーマルが挟み込む。山側が崖の一方向が封じられた場所、二人が挟み込む場合逃げ道は一方向存在する。フーマルと公也の姿を見て白い魔物はそのまだ逃げ道として逃げやすい一方向へと逃げようとする。


「逃がさないのです」


 白い魔物が逃げようとした方向が炎に包まれる。白い魔物は炎に包まれる前に停止、一度大きく炎から下がり再度周囲を確認する。メルシーネの役割は白い魔物逃亡を防ぐこと。炎を吐き逃げ道をふさぐ、あるいはフーマルや公也が白い魔物の逃亡を許した場合その逃げ道をふさぐことがメインである。白い魔物との戦いはフーマルと公也が主体となってのもの、ということになっている。


「さて、どうくる?」


「…………」


 公也とフーマルが白い魔物を挟み込み武器を構える。まず白い魔物は公也がいる時点で逃げようとするだろう。追われると困る、戦いになると相手の方が強い、フーマルだけならばまだ倒せるだろうと踏んで戦う可能性は高いが公也がいる時点で白い魔物は逃げを打つ。しかしその逃げ道は塞がれている。メルシーネの存在もあり単純に逃げを打つのは難しい。メルシーネの行動次第なところもなくはないが現状では逃げられる四方向の内一方向は崖で存在せず、三方向は人力で封鎖されている状態。さて、そんな状態に白い魔物があると認識する場合、どこに逃げ道を見出すか。


「っ! やっぱり俺の方に来るっすよね!?」


 強い相手のいる方向に逃げるはずがない。公也は勝ち目がない。メルシーネは空を飛び攻撃が届かず自由に攻撃位置を決められる。であれば当然勝ち目がある、勝つ可能性が比較的高いフーマルを倒して逃げると考えるのが当然のことだろう。


「うおっと!」


 フーマルが白い魔物の攻撃を受ける。相手も逃げることを優先しているからか、フーマルを傷つけるために攻撃せずフーマルの動きを止める、吹き飛ばしたりすることをその攻撃の目的としているようだ。しかしその動きもその発想に見合わぬもの、それまでに見せていた動きの中から目的に合致する動きを引き出している、といった感じである。まあフーマル相手に見せていた動きはそこまで多くはないので見知らぬ動きもある。公也相手には即逃走しており白い魔物の動きで得られている情報などは実質フーマルが見て経験した攻撃暗いだろう。

 フーマルは格上との戦闘には慣れている。普段からメルシーネが叩きのめしているし、剣の腕は冬将軍に鍛えられた。公也も時々参加するしかなり強い相手との戦闘経験は多い。それゆえに強者相手にどう立ち振る舞うべきか、回避や防御、耐久戦闘に慣れている。通常ならばそれでも勝てない相手ばかりがメインだが、今回の白い魔物はフーマルでもなんとか対応できるレベル……強さで言えばまだ届き得る強さの相手。そして相手の動きが機械的であるがゆえにその動きが下手な弱い魔物よりも読みやすく戦いやすくはあった。


「くっ、しかし早いっすね!」


 だが厄介な点は動きの早さだろう。速いではなく早い。スピードが速いのではなく動きに余裕がない、余地がない、余白がない。攻撃から攻撃に転じる間がない。相手は機械的に行動を決めている。Aの行動をして成功すればB、失敗すればCと次の動きが決まっている。パターン化もあるし、どこで何をするかと言うのが決まっているがゆえに次の動きを考えるわずかな時間すらない。だから動きが早い。相手の動きのパターンが少なくどう動くかが決まっているゆえに読みやすくはあるが、それは同時に相手の行動に隙がない、早いというものでもあった。

 しかし隙が無いというのは厳密には違うだろう。行動の間隙はなくともその行動自体に隙がある。パターンが決まっていれば攻撃の動きが決まっているということ。つまり攻撃時に攻めればいい点も明確に出てくる。それさえ見極めればフーマルも相手の弱い部分を付いて攻撃を入れることもできるだろう。もっともフーマルはそれを見極める点でまだ未熟、実力が足りていなく把握しきれてはいない様子だ。また攻撃を入れて傷つけば相手の動きも変化する可能性はある。現状では対処できるが今後対処できるかは不明だ。まあ傷つけばその分相手の行動が鈍る可能性が高いので決して今よりも厳しくなるとも限らないわけだが。


「師匠! 参加してほしいっすけど!」

「自分で倒すくらいやってみたらどうだ、って思ってたんだが……まあそういうなら参加しようか!」


 公也はフーマルの様子を見ていただけだ。いや、フーマルと白い魔物の戦う様子を見ていただけだ。フーマルだけで倒せるのならばそれで良し、フーマルが危なくなれば自分が止めに入る、そうしようかなと考えていたところである。そんな風に見ているだけと言うのは戦闘している人間にとってはちょっと腹が立つ行為である。文句を言われ公也は白い魔物とフーマルの戦闘中の状況に参加する。

 別に公也もただ見世物としてフーマルと魔物の様子を見ていたわけではない。戦闘中だからこそ見えるもの、感じるものがあるのであれば戦闘の外から見ることで見える者もある。相手の行動の隙なんかは下手に戦っているよりも見ているほうが見えやすいこともあるだろう。そして公也はある程度はそれを把握していた。ゆえにフーマルと戦っていた白い魔物が見せたフーマルでは付けない隙をつく。


「おっと? まあ俺も入るとパターンは変わるか」


 公也が入ることで白い魔物は逃亡よりの動きに代わる。一対一で戦うことと一対二で戦うこと、どちらが降りかといえば当然一対二。それまでの一対一で使っていた行動と同じ行動はできないだろう。そもそも白い魔物は公也相手には勝てないと判断し即逃げを打つ算段。フーマルとの戦闘中に公也が加勢してきたことで完璧に逃げを討つつもりである。


「逃走は妨害するのです!」


 もっともその逃げの手はメルシーネによって妨害される。炎を吐きその炎がある程度残る中を突っ切る度胸……いや、それによる損害などを判断してか白い魔物は炎の方向に逃げることを選ばない。白い魔物はフーマル、公也へと視線を向ける。そちらをどうにかして逃げるしかない、と。



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