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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
十章 人造白魔
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10



「ご主人様! 大丈夫だったのです!?」

「別に問題ない……相手には逃げられたけどな」


 主としている公也の危機を察したのかメルシーネが戻ってくる。魔物の気配を簡単に察知することはできないが主が戦闘している気配は察することができるらしい。


「ご主人様に戦わせるというのは仕え魔としては屈辱の極みなのです……」

「いや、一応俺は戦闘するのが仕事なところもあるからな? 冒険者だしさ?」

「わかっているのです。それでも私の仕え魔としての役目は主の代わりに戦うところにあるのです。守ること、戦うこと、そういう方面が私の役目なのですよ」


 仕え魔という存在は主に仕え仕事を行う存在である。しかし根本的にその存在が持つ役割は主の力となること。力とはすなわち暴力であり戦闘能力のことである。主を守る盾となるものであり、主の代わりに戦う剣となるものである。しかし今回その主から離れそこに襲ってきた魔物の戦闘に参加できなかった。もともと別行動していることもあるし、公也は元々冒険者でその仕事の中には戦闘が必要なこともあるし普段から割といろいろなところに行って戦っている。そういう時常にメルシーネが一緒というわけでもないだろう。

 しかし主と共に行動中に自分が離れてその間に主が襲われる、というのは仕事の放棄に近く少々看過しにくいところである。いや、今回の場合はメルシーネがいなくなることで魔物が反応するかもしれないと判断しての行動である。そういう意味ではこうなることは本来正しいことなのであるが。メルシーネは襲ってきた魔物との戦いに合わせて入れるように調整したかった感じなのだろう。上手くいかなかった様子であるが。


「まあ、それは今は置いておこう。問題となるのが相手がどこにいったかだな」

「そうなのですね……流石にわたしでも匂いは追えないのです」

「フーマルはどうなの?」

「いや、無理っすよ? 犬系統狼系統の獣人なら多少は強烈な匂いを追うことはできるかもっすけど……流石にちょっと傷つけた程度じゃ血の匂いも追えないと思うっすよ」

「ふーん? 使えないわね」

「獣人だからってその辺の野生の獣と同じ能力を持ってるわけじゃないっすから。一応人っすからね?」


 獣人も人である。エルフも人である。一般的な人間以外の人系種族も大半は人という認識であり、それらの種族の持つ性質は特殊な部分もなくはないがやはり人という存在ゆえにその力は本来の獣よりも弱い。獣より弱いというよりは人よりも強い、人よりも長所として獣の持つ能力が伸びている感じである。そもそもフーマルは猫系で犬系ではない。匂いを追えというのは無理だ。

 ワイバーンなどを含め竜種は高い感覚を持つが、メルシーネもまた同様。人型をとっている間はかなり抑えられるとしても獣人など人系種族よりもメルシーネの場合は高い。しかし竜でもそもそも犬のように匂いを追えるというわけでもない。感覚機能が普通の生物よりも高いといだけであり極端な性能を持つわけではない。白い魔物は匂いは別に特別に何かあるわけでもなく、傷をつけたところから強烈な匂いが出ているということもない。


「いや、そもそも匂いで相手を探したりしないし……」

「じゃあどうするっすか?」

「魔法」

「魔法便利っすね……俺も使いたいっすけど」


 フーマルでは魔法を使うには魔力が足りない。魔法を使うのには大本である魔力がなければ魔法を使うための魔力の出力を確保できない。フーマル自体に魔力がないわけではない。他の人間もそうだが、基本的に魔力自体はある。

 まあその話は今重要なことではないだろう。魔法を使い生物を追う。戦う前は無秩序に周囲一帯の生物を探さなければならず大変だった。しかし相手の大きさがわかっていたり、さらに言えばその生物を傷つけたりその組織を入手していたりすれば別だ。そもそもアリルフィーラを見つけたときも公也は探索の魔法を使っている。あの場合対象が人間であるという事実や逃走経路を追う形だったので楽だったわけだ。今回も同様に今戦った位置から生物が逃げた方向を魔法で探索する形にすれば難しくはない。そこに傷つけることで県などに残った組織を追ったり流れた可能性のある血の匂いを魔法で追えば難しくはない。


「さて…………それじゃあ魔法を使うか……命の形、その零れる火、同じ物を追え。この地にありて、ここにありて移りし命の行き先を。風よ我が命にてその行く場所に我らを運ぶ案内となりて」


 ふわりと風が公也の周りを渦巻くように流れる。そしてそれはどこかへと導くように流れを作る。魔法を使う際の詠唱通り、風のいく先に対象が存在する。


「……え? 今のでわかるっすか?」

「魔法って便利ね」

「普通はこんなの出来ないですよ。ご主人様は魔法に関して普通ではない知識を持っているからこそなのです」

「リーリェとかはできないの?」

「……わからないのです。ただ必要魔力量を考慮すると難しいとみるしかないのです」


 魔法はその内容が複雑であればあるほど、面倒なものや規模がでかければでかいほど、必要魔力は増える。詠唱や呪文、儀式の形を使ったり今回なら相手の組織を使うなど、多くの内容の限定を行うことである程度は使用魔力は緩和できる。しかしやはり複雑すぎる魔法は消費魔力量は多く、公也みたいな一般ではありえないような魔力量を持つという特殊な魔法使いでなければ厳しい。


「まあ、とりあえず追うぞ……ああ、メル、今回の相手は殺してもいいができる限り原型は残したい」

「理由を聞いてもいいのです?」

「不明点が多い。謎が多い。何よりヴィラの毒にあまり引っかからなかった。普通の生物とは違うかもしれない」

「それは面白い話なのです……ヴィローサの能力だけは極めて優秀なのですからね」

「ちょっとメル? 殺すよ?」

「殺せるものならいいのですよ? 毒で殺せるほど甘い存在だと思われると困るのです」

「なんでいきなり喧嘩しだすんだ……」


 原因はメルの挑発に近い言葉が原因だろう。能力だけは優秀、と言うのは他はそうではないと言っているようなものだから。まあヴィローサの性格は優秀だとは言い辛い面倒くさいものだし、肉体的にも戦闘能力はない。魔法のようなものを使えたりもしない様子である以上その強みは毒を操る部分だけだろう。そういう点では確かに毒以外の強みはないと言っていい。まあわざわざ言うことでもないが。メルシーネにとっては別に挑発でもないいつものやり取りみたいなものだ。喧嘩がいつものやり取りと言うのもどうだろうと思うところである。


※メルシーネは守護魔竜。仕える者、仕え魔としても主を危険に曝すのは痛恨の極みらしい。

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