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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
十章 人造白魔
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5



「おお、あなたがアンデール卿か。初めまして……いや、一度お会いしたことはありましたな」

「はい。しかしあの時は他の貴族の方々も大勢おり、また私も皆さまと挨拶をする程度のものでした。私の立場もあり、長居もできず本当にお会いした程度のものです」

「ふむ、そうか。ならまず正式に挨拶をさせてもらおう。私はロベルト・ハッケンマー。この地を治める者だ」

「ハッケンマー卿ですか。私は公也・アンデール。アンデルク城……一応はアンデール領を治める立場にあります」

「そうか、アンデール卿。あなたもなかなか大変な立場だな。キアラートを含め各地の山々は魔物や獣の宝庫、我が土地にそういった人の入れぬ山はある。そんな場所を領地とし治めなければならぬなど……大変な役目を受け持ったものだ。頑張り給え」

「はい」


 貴族らしい挨拶、会話というものは公也自身得意というものではない。しかしできないというわけでもない。まあ貴族らしいというよりは普通に丁寧に言葉を話す、程度のものではある。流石に相手の貴族も元々冒険者である公也のことは理解しているだろう。


「それで……王からの命令という話であるが?」

「はい。私の下に王からの指示でこちらで起きている魔物の問題を私がこなしなさい、という話でした」

「ふむ……確かに私から王にこちらで起きている奇妙な魔物の問題を届けはした。しかしなぜあなたにそのような話が行った?」

「私の方には治める土地もなく、アンデルク城の守りが中心です。土地の開拓をしているとはいえ民もおらず、土地を賜ったとはいえ国へと渡せる税もなし。貴族として受け取るべきものを受け取っているのにこちらから渡せるものはないのは問題であると。しかし、此度のこちらで起きた問題の解決、国における問題を解決することを国に渡すべきものの代わりとして納める、つまりは労働を税の対価とするということらしいのです」

「…………なるほど」


 実際には公也のこれは皇国での騒動に参戦したこと、余計な首を突っ込んだという他国の問題ごとへの介入への罰である。しかし罰として与えるにしてもある程度建前というものはいる。もちろん国から仕事を頼んだという事実はいる。だが仕事を頼んだのであれば相応に報酬はいるだろう。しかし罰である以上それは出せない。であればどういう風に形を取り繕うべきか? そこで国王が選んだのが公也から国へと渡すべき土地からの税の納入の代替である。

 国は貴族に対し貴族として土地を治めることに対する報酬として金銭などのお金を渡す。しかし貴族は貰いっぱなしというわけではない。土地を治め税を民から受け取り、さらに国からお金を貰うのであれば貴族ばかりが貰ってばかりで国が得るものがない。もちろん国も土地を治める貴族から相応の代価をいただくという話になるわけである。しかしそれはお金ではない。お金で済むのならばそもそも貴族にお金を渡すということ自体が手間となるだろう。貴族から治めるべきは様々なだ。金銭の代わりとなるような物で治める、様々な物品で治める、食料品などの物で治める、鉄や銅などの金属類で治める、あるいは魔法使いの技術などで治める、兵士などの戦力として納めるなど様々なものがあるだろう。しかし公也の場合、場所的な状況もあって厳しい。ゆえに労働、仕事、問題ごとの解決を対価として納めるという形にする、という建前で今回の仕事を実際には他国の問題に首を突っ込んだ罰として与えた、という形である。結構いろいろと面倒くさい話である。

 ちなみに公也が税を納めるということは実際はそこまで必要とはされていない。そもそも土地も何もほぼ持っていないのが公也の現状である。土地もなく民もなく、あるのはせいぜい城のみと言ったところ。そこに参加しているキアラートからの人員は以前はともかく現在はクラムベルトくらいだろう。アンデルク城自体そもそも公也が奪ったものであり公也がキアラートの所属となっているからこそキアラートの物であるという形になっているだけで実際には個人の資産だろう。ゆえにそれを理由に税を、などとは言えない。そもそもあくまで形だけのものでしかないのだから。公也に求められるのはアンデルク城の守り、トルメリリンが橋頭保として利用することをできないようにするためのものでしかないのだから。


「理解した。つまりはこの土地で起きている魔物の問題をあなたが解決してくれるということでよろしいのか」

「はい。厳密には私もそうですが今私の後ろに控えている者を含めてです」

「…………噂の妖精のお嬢さん、それに獣人が二人……いや、片方は獣人かな? 獣人だとしても珍しい種ではあるのかもしれん。あの角はいったいどのような由来か……私は見たことがないし聞いたこともないな」

「彼女の出身に関してはご勘弁を。実力は確かなものですので」

「ふむ。まあこちらとしてはあなたがこの地の問題をしっかりと解決して下さるのであれば特に何も気にするものでもありませんな。あなたが誰と何をしていようと、何者を従えて居ようとも別に私にはどうでもいいことです」


 この大陸においては公には獣人差別というものはない。しかし個人的な感覚での話や、狭いコミュニティ、あるいはそもそも意識していない形での差別のようなものはあり得る。そもそも獣人自体そこまで大勢いるというほどでもない。少数派ゆえにどうしてもその扱いはあまり良くない感じではある。ただそれは明確に、公にするようなことはしない。たとえ言葉の端に侮蔑や嫌悪を乗せることはあっても。


「ところでこの問題に関してお話を伺っても?」

「私はあまり詳しくはない。私の下にいる兵に話を聞くことを認めよう。彼らの方が私よりも詳しいであろう」

「わかりました。ありがとうございます」

「はは、なにこの地の問題を解決してくれるのだ。当然のことであろう。今日はこの屋敷に泊まっていくと言い。急な来客に対して物で大したもてなしはできないかもしれないが一晩の休息をとるくらいならば問題はなかろう」

「そのご気遣いに感謝を」


 急な来訪である。本来ならば礼を逸していると言われてもおかしくないことであるが、そのあたりは相手が元冒険者であるからと流しているのかもしれない。もしくはこの土地で起きている問題を解決しているから気を使っているのか。あるいは公也が元冒険者だからこそ、貴族としてこれこそが貴族であると見せつけるためのものか……まあ本当に公也の来訪は事前通達のない急なもの。そもそも仮に公也が行くことが決まっていたとはいえ早馬を出したとしてメルシーネに敵うはずもない。なので本当に急な来客用のあまり大きくもない部屋しか用意はされていない。まあ公也たちはそもそも宿に泊まる前提でいたとは思えないし、仮に泊まるにしても貴族の屋敷の泊まることは考えていなかっただろう。なので簡単に用意された部屋であっても十分といえるだろう。おそらくタダだし。


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