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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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「……ええっと、師匠、どうするっすか?」

「とりあえず、まずは死体を集めて…………一人残したあれの尋問も、ってところだな」

「キイ様、私が毒に侵したのは死んではいないのだけど……」

「そういうのは……操れるか?」

「少しだけ言うことを聞かせられるようにはできるかしら?」

「なら頼む」

「ええ、わかったわ。フーマル! 死体を一か所に集めるわよ!」

「うう、なんで俺がやらなきゃいけないっすか……」

「キイ様に命を助けられているのだから文句を言わないでもらえる?」


 フーマルは今回のことに関しては巻き込まれたと言ってもいいくらいなのだが、一応命を救われたという事実に関しては間違ってはいない。今回のことだけではなく、公也と初遭遇した時のことも考えれば、完全に否定はできないだろう。そうして死体が集められる。とはいっても、それほど多くはない。公也たちを囲めるほどの人数とはいっても、そもそも公也たちは三人、それを囲むのに何十人もいらない。せいぜい十数人といったところであり、後方にいた半数程はヴィローサの力によって毒され倒れただけであり、それらは毒の扱いを変えればこちらの言うことを聞くよう操作できるようにもできる。フーマルが運ぶのは前にいた残りの半数、公也が首を吹き飛ばした者たちだけだ。その点ではまだ……気が楽、だろうか?


「だ、だれか助けてくええええええええっ!!」

「……それはむしろこちらのセリフだ。襲ってきたのはそっちだろう?」

「お、俺たちはお前がこんなやべえ奴だなんて知らなかったんだ! 誰も、教えてくれなかった! な、なあ、助けてくれ……助けてくれよ?」

「それはお前次第だ。ああ、それと、どれだけ叫んでも誰も来ないからな? 魔法で声が届かないようにしている」

「本当に魔法使いかよっ、俺たちが手を出すような奴じゃねえっての! 糞がああっ!!」


 誰に対して男が怒っているのか公也にはわからないが、そもそも妖精がいる時点でこの男たちが成功したとは公也は思っていない。いや、それに関してはそもそもこの男たちを使った人間も妖精の存在を甘く見ていたか。公也に関しても甘く見ていたというか、別に大したことないと考えられていた可能性はある。公也自身はあまり大っぴらに実力を見せていないし、噂だけをたどれば街中で仕事をしていたことばかりがあげられる。あるいはゴブリン退治ばかりしていたとか。そういう点ばかりを見るとそれほど大したことないようにしか見えないが、その内実を確かめるといろいろとやばい存在だということがわかるだろう。彼らの裏にいる誰かはそこまで調べていないのか、果たして教えていないだけなのか。

 まあ、別に公也が気にすることではない。男の横に死体が積まれ、その横に集められるヴィローサの手によって毒された男たち。一応毒された男たちは生かすこと自体はできる。ヴィローサの使った毒を抜けばその時点で問題はない。基本的に死ぬようなことはない毒を使っているし。


「さて……なぜ俺たちを、いや、俺とヴィラ……妖精を狙ったのか、それに関して教えてもらおうか」


 決してフーマルは狙われていない。フーマルは単に公也と一緒にいたから巻き込まれただけであり、仮に別行動していればフーマルは特に何もなかっただろう。さらに言えば厳密にはヴィローサが狙いだったわけだがヴィローサは公也から離れることはないので……基本的にはしないので、ヴィローサを狙うならば同時に公也を狙うことにもなる。


「わ、わかった……」


 そうして公也は男から話を聞く。男も生きるためならば、と自分たちのことを話すのに必死だ。自分たちが所属する組織……まあ、彼らは所属している認識だが実際には使い走りみたいな立場であるが、その組織に関して、どこにあるか、どういう組織なのか。頼まれた仕事の内容、ヴィローサを狙った理由、仕事の後の公也たちの処理に関して、処遇、その後に関して等。まあ、公也側としてはいろいろな意味で聞いていて気分が良くないことだろう。実際フーマルはそれを聞いて眉を顰めている。もっとも公也は特に気にしていないが。ヴィローサも全く気にしていない。ヴィローサの場合はこの程度特に問題ない日常のひと時のようなもの、なのだろう。彼女にとって気にするべきことは公也との時間、日々、過ごす内容であり、それ以外はただの雑事にすぎない。いや、それは流石に言いすぎかもしれないが、彼女にとっては公也に関することのみが絶対に価値のあることである。


「なんというか……」

「まあ、大体そういうことだという予測はできていたしな」


 公也とヴィローサが襲われる要因などほとんど限られている。まあ、どこの誰に狙われているかと言われれば分からないところだが。


「まあ、知っているんだが」

「え?」

「な、なんだって?」

「お前にしたのは実際に話を聞いての確認近いことだけだ。ところで……これだけの死体、普通なら処理に困るものだと思う。いや、むしろ場合によっては俺の方が極悪人として扱われかねないだろう。十人近く殺しているわけだし」

「キイ様、私がやったのは死んでいないのだけど?」

「ああ、そうか。でもまあ、それでも結構な数を殺している。何故殺したんだと思う? お前のように捕えずに」

「……………………」


 この男をあっさりと捕まえたように、公也は他の男たちを捕まえることもできたはず。それを考えると、何故他は殺され、この男は殺されなかったのか……まあ、それは先ほども言った通りの理由であるが、逆に言えばその理由がなければこの男も殺されていただろう。どこで公也が今回のことを知ったのか、というと今回襲われて対処したから、だが、まあその話は後に置いておく。


「どういうことだよ!? なんで知ってるんだよ!? おい、俺をどうする気だ!?」

「お前はこちらを生かすつもりはなかった。ヴィラを渡しても殺すつもりだっただろう。どうあっても殺す、絶対に殺す。殺すつもりで相手を襲ったのなら、自分も殺される可能性は考慮するべきだな。いや、そもそもこれまでしてきたことでも結構な数を殺しているだろう? その報いもあってしかるべきじゃないか? まあ、俺がそういうことを言うのはどうかと思うが……俺としては、お前たちも含め、後々の面倒につながらないよう、全部綺麗にすっきりさせるべきだと思うんだ」

「………………!!」


 公也の眼は、黒い。黒い。暗い。何も見えないと思えるかのように、感情が見えない。いや、公也自身感情はあるし通常の人間のような倫理観もある。だが、公也は邪神にその力を分け与えるような存在として選ばれる資質を持つ。暴食、あらゆるものに貪欲で求める者のためならば殺人すら厭わない。それはどれだけ通常の倫理観に生きようとも、その倫理を放棄して行動に移ることのできる異常な精神性だろう。そして、今回の男たちに対する対応でもそれを見せている。公也にとって殺人は良くないことではある、積極的にやるべきことではないとは考えているが、絶対にしてはいけないことだとは考えていない。悪の駆逐に必要ならば……いや、そういう言い訳ではなく、公也にとって、必要ならば、やるべき意味があるのならば、公也はそれをやる、それだけである。


「さよならだ」


 生きて残っていた男、死体となっていた男、毒に侵されていた男。集められた全員が、一瞬でその姿を消した。それは彼らの頭が消失した時のような光景である。とうぜんながら、それは公也の暴食の力によるもの。後始末も何もかも、痕跡すら残さないようにするのに実に便利な犯罪向けの能力……まあ、今回は過剰防衛の痕跡隠しに近いのだが。いや、この世界では襲われたところを返り討ちで殺しても過剰防衛ではないが。


※主人公の情報はかなり内容が上下に錯綜している。噂になっている内容だけならゴブリン退治ができる程度、としか思われないだろう。詳しく調べればその限りではない。それでもゴブリン相手の情報くらいしか得られない。他にやっている依頼に関してはあまり詳しくは知られていないだろう。

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