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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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「………………………………………………わかった。ちゃんと受ける構えはしておかないと、下手したら死ぬぞ?」

「あ、あの? そ、そこまで本気でやらなくても…………いいのでは……?」


 ぐっとこぶしを握る公也。そしてその宣言に対して少し怯えたように言葉を返すアリルフィーラ。確かに殴ってほしいとは言ったがそこまで本気で殴ってほしいとは言っていない。というより公也くらいに力がある人間が本気で殴った場合、アリルフィーラのように特に鍛えているわけでもない人間の場合殴られたことで死んでしまう危険がないとは言えないのである。それを覚悟してアリルフィーラは言った……わけもなく、とりあえず顔に傷が残るくらいかな、程度で発言している。いや、彼女も破滅願望という拗らせた性癖は持っているが別に痛いのが好きというわけではない。痛みに耐性があるというわけでもない。痛いものは痛いのである。まあ彼女の破滅願望のそれはそれすらも込みであるのかもしれないが。


「ちゃんと死なない程度には手加減するが……正直人を殴る機会なんてなかったからな」

「………………こ、殺さないでくださいね? せっかくキミヤ様に思いを伝えることができたのですから……」

「殺したら国際問題になるし、なんとかする」


 ここでアリルフィーラが死んだ場合まず皇国との関係が拗れる。さらに言えばフェリア含むメイド三姉妹からもかなり責められる……というか敵討ちくらいはしてくるのではないだろうか。


「わ、わかりました……言い出したのは私ですし、覚悟を決めます」


 根本的にアリルフィーラが自分を殴ってと言ったのだからそれが原因で公也が責められるのは間違いである。まあその言い分を聞いてあっさり殴り飛ばす人間のほうがそもそもおかしい気もする。しかしそういう部分も受け入れて、ということなのだからこれで正しいのだろう。


「…………いいですよ。やってください!」

「わかった」


 すっと左腕を前にして、腰に手を溜めて構える。そして思いっきり右ストレートをその頬に叩き込む! 知識としてある殻てのか前から放たれた渾身の一撃は避けることもできず、いや避けることをしようともしなかったアリルフィーラの頬に突き刺さり、その拳は勢いのまま振り抜かれる。アリルフィーラはその衝撃をそのまま顔に受けている。その流れのまま顔を動かすこともなく、真っ直ぐそのままだ。頬が砕けるどころではすまない危険があるくらいに強力な一撃……まあ公也も多少その一撃を抑えめにしていたためか、ちょっと吹き飛んだだけで済んだ。ただ物理的にかなりやばい一撃だったことには間違いなく放置したままでは下手したら死ぬ。


「アリルフィーラ……わが命の息吹よこの物の傷を元々のありし姿へと戻せ、ヒーリング」


 そんな死にかねないアリルフィーラの傷、その失われた生命力と共に公也は己の生命力を分け与えるような形で治療する。公也の生命力は膨大であり半分ほどを分け与えたとしても大きな問題にはならない。まあさすがにそこまでのことはしない。単純に傷の治療と傷を負った、ダメージを受けたことで失った分の補填程度のものである。本来の治癒魔法は激痛で酷いことになるがアンデルク城にいる魔法使い、公也、ロムニル、リーリェの三人は苦痛のない治癒魔法も使えるので問題なく回復させることができる。


「あ…………えっと、あれ? キミヤ……様?」

「大丈夫か?」

「…………は、はい、大丈夫……です…………あの、傷……」

「回復したからないぞ」

「…………何故そんなことを?」


 大きな傷、皇女としての立場すら失いかねないほどの醜い傷跡、それを治されるということに不満を見せるアリルフィーラ。まあ死にかねないということもあって傷を治すのは必要不可欠だったわけであるが。


「いや、流石に傷を残すのはな? リルフィは女の子なわけだし。俺としても……アリルフィーラは可愛いほうがいい」

「えっ。あ、えっと…………そういってくれるのは嬉しいです。ですけど……」

「そもそも傷を残すとか流石にな? 傷物にするっていうのは……言い方的にはあれだけど表現的には間違いではないけど、やっぱり立場的に問題があるだろう? 何か言われても困るしな」

「…………そうですね。私もキミヤ様に無駄に咎を背負わせたくありません」


 不満はある。しかし公也に無意味に自分を傷つけたという罪、咎を背負わせるわけにはいかないとアリルフィーラも重い思い流石に自重した様子である。


「それと、今やったことに関しては今回だけ、二人だけの秘密な。流石に他人に伝えるわけにもいかないし」

「…………はい!」


 傷は消えた。しかし確かに公也は自分を思いっきり殴って傷をつけた。傷は消えたにしても、消えないものはある。痛み、相手を傷つけるという普通はできないようなことでもアリルフィーラのためにやってくれたその行為、想い、色々だ。それがアリルフィーラには刻み付けられた。今回はそれだけで十分である。






 と、そういう感じでアリルフィーラと公也の間での話が行われたわけである。それに関してだがアンデルク城内部でも公表はされていない。まあ将来的にどうなるかは不明だがさすがに公にするような内容でもないから仕方のない話である。ただある程度身内である立場の人物には伝えている。公也の場合ヴィローサ、メルシーネ、ペティエットの三人。アリルフィーラの場合フェリエ、フィリアの二人だ。公也の場合は確実に秘密を洩らさない、そのうえで重要な自分に近い立場の人間……いや、人ではあっても人間ではない人物だが、アリルフィーラの場合はメイドでありかつ自分の行動、発言に大きな反発や文句を持たない二人となる。フェリアは公也にされたことや公也への想いなどを伝えると確実にダメ出ししてきそうなので言うことはできなかった。


「あの…………これはいったい?」

「リルフィ、重要なことなのです。ご主人様に対して想いを持つのであればしっかりとした認識がいるのです」


 現在アリルフィーラはめすりーねにみっちりとしごかれている。いや、別に何か特別に行動させられているとかそういうわけではない。内容としては別段厳しいことではない。アリルフィーラに課せられていることは公也の呼び方に対する強制だ。


「リルフィ、ご主人様のことをどう呼んでいるのです?」

「……キミヤ様ですが」

「それがダメなのです」

「……何がダメなのでしょう?」


 呼称の問題かとも思ったがそうではないらしい。メルシーネはアリルフィーラによくわからないことを強いてきている。


「ご主人様は"公也"、なのです。"キミヤ"ではないのです」

「…………? 何が違うのでしょうか?」

「大きく違うのです! まあリルフィには簡単に理解できることではないというのはわかっているのです。だからみっちりちゃんと呼べるように叩き込むのですよ」


 『公也』と『キミヤ』呼称だけで見れば同じもの、というのがこの世界の人間の認識だ。実際公也もキミヤで呼ばれて問題なく自分を読んでいると理解している。だがアリルフィーラからすれば明確に違うものである。


「リルフィの呼び方はこの世界のものなのです。でもご主人様の正確な呼び方はこの世界に由来するものではないのです。言語の認識は世界による補正があるから問題ないにしても、やっぱり正しく呼ぶことが重要なのです。ゆえにわたしがきっちりと教え得こむのです。ちゃんと理解するのです。理解するまでやるのです。その小っちゃな脳みそに脳髄の奥の奥にまで叩き込むのです。覚悟するのですよ!」

「だ、誰か助けてくださいー!!」


 しばらくはアリルフィーラはにメルシーネがつきっきりで公也の正式な呼称を叩き込むようである。その甲斐もあってか、後日アリルフィーラは公也のことを今までの"キミヤ様"ではなく"公也様"と呼ぶことができるようになったらしい。かなりメルシーネに叩き込まれぐったりとしていた様子であったが。


※死なない程度に手加減はしているけど本気で殴った主人公。めっちゃ痛い。そして治す。痛みのない方の回復魔法で。別にアリルフィーラは痛いことが好きとかそういうわけではない。

※主人公の名前を"キミヤ"ではなく"公也"として認識できるのはこの世界ではメルシーネのような特殊な例外でなければ無理。このあたり世界の自動翻訳の影響がある。




※アリルフィーラが主人公に対し好意を抱く切っ掛けはやはり助けられたことにある。しかしそれは好意ではあっても思慕、恋情の類とはまた少し違う。ただ、やはりそれがきっかけでアリルフィーラは主人公に対し興味を持ち、また主人公から受ける感じ、感覚から惹かれたところがある。そしてやはり今回のこと、自分を無償で一生懸命助けてくれたということが彼女にとっては大きかったのもある。ただ、一番はその性癖である破滅願望、それを受け入れてくれるだろうという点が実は大きい。時々アリルフィーラがその面を見せるようになったのは主人公がそういう面を見せても受け入れてくれるだろうというのを彼女が感じていたからである。多分。


※主人公はヴィローサやペティエットと違い、最初から明確にアリルフィーラに対し好意を抱いていると言えている。他二人は相手の気持ちを受け入れる感じだったが、アリルフィーラに対してはしっかりと恋愛感情の類を抱いていた。その理由としては主人公が比較的アリルフィーラに対し興味を見せる機会が多かったのが理由である。アリルフィーラの見せる破滅願望の性癖によるよくわからないタイミングで見せる表情、それをなぜ見せたのか。そこに興味を抱いたから。その結果アリルフィーラをよく見ることになり、そのまま相手への興味が相手への好意、相手を求める心情へと変化……というのが主人公側の彼女への好意の理由。多分。

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