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「と、言うことでまた預かることになった」
「あらためて自己紹介を。アリルフィーラ・ラメンティア・エルハーティアです。皆さんよろしくお願いします」
あらためてアンデルク城でアリルフィーラが城にいるみんなを前に挨拶をする。以前はアリルフィーラではなくリルフィ、一般的な人間としての認識だった。しかし正式にアリルフィーラが皇女であると知られているし立場も変わって戻ってきたということもある。まあ現在は皇族としての立場は取り上げられているのである意味では隠れてこちらに来た前回よりもはるかに立場は落ちていると言えるのだが。まあ正式に皇国から預かったという点では前回よりもちゃんとした形での移住である。ゆえにこそちゃんとあらためて挨拶を、ということだ。
それによろしくと城側の人間が答える。なおこの場にいる中でクラムベルトはかなり頭痛が酷いような感じに頭に手をやっていた。いろいろな意味で今回大損するのは彼だろう。報告する必要性もあるし心労的な問題もあるしで。
「リルフィ、あらためてよろしくなのですよ」
「……流石にアリルフィーラ様をリルフィと呼ぶのはよくないんじゃないの?」
「いや……そのあたりはどうだリルフィ?」
アリルフィーラは以前リルフィと紹介していた都合上基本的な呼び名はリルフィ、知っている公也、リーリェ、クラムベルトもリルフィ呼びだったが今後もそれでいくべきか、あるいは皇女なのだからちゃんとアリルフィーラと呼ぶべきなのか。そのあたりは呼ぶ側としては大変そうである。
「私のことはリルフィで構いません」
「アリルフィーラ様! それはよろしくありません!」
「でもフェリア……今の私は皇女としての立場は取り上げられていますし、元々私は皆さんにそう呼ばせていました。わざわざ変えてもらうのは大変でしょう?」
「……姉さま。アリルフィーラ様は民にもリルフィで構わないと呼ばせていたこともあります。今更じゃないですか?」
「アリルフィーラ様の判断のほうが重要ですよ姉様」
「でも…………」
フェリアはリルフィ呼びは不満があるらしい。皇女である以上ちゃんとその立場にふさわしい呼び方を、という話だ、しかし今のアリルフィーラは皇国での行動の結果皇女の立場を取り上げられているしこの城に限らず施しをしていた民にリルフィと呼ばせていたりするので今更その呼び名を気にする必要性もない。まあそういうことをやっているから皇族としての立場を厳格なものとして考えるフォルグレイスに暗殺されかけたともいえる。
「それじゃあリルフィと呼ばせてもらう。皆もそう呼んで構わないってことでいいか」
「ちょっと! それは流石に……」
「姉様。ダメです」
「……フィリア?」
「この地においてはアリルフィーラ様よりも公也様のほうが立場は上です。特に今はアリルフィーラ様は皇族としての立場を取り上げられています。こちらに来ているのは一応謹慎、追放に近い形です。後に皇国の方で話し合いが進みアリルフィーラ様の皇族としての立場が復帰するのであればともかく、今はこの地の領主であるキミヤ様のほうが立場は上です。それにアリルフィーラ様が認められている以上私たちがそのことでアリルフィーラ様意外に文句を言うのも、アリルフィーラ様のお決めになったことを問題にするのも筋違いというものでしょう」
「姉さまは気にしすぎですよ」
「あなたが気にしなさすぎるのでしょうフェリエ! ですが……フィリアの言うことももっとも、でしょうね。わかったわ………………」
わかった、と言いながらもフェリアはかなり不満げである。まあ彼女としては皇女のメイドという立場がわりと彼女の中では重要な要素であるからこそアリルフィーラに皇女らしい振る舞いを、と言い聞かせているのである。まあ現在はその立場を失っているわけであり、今の彼女はただの平民に従うメイドみたいな状態だ。アリルフィーラの立場が戻ればそうではないがアリルフィーラが本当に皇族の立場を失う可能性もありそうなれば彼女の立場はかなり下の立場に落ちる。それでもアリルフィーラに仕える気概はある辺り彼女にとって本質的に重要なのは皇女のメイドとしての立場ではないのかもしれないが……まあそのあたりは彼女がどういう考えを持っているのかは現状では不明である。
「リルフィのことはいいとして。メイドの三人も自己紹介を頼む。リルフィよりもそちらの方が自己紹介がいるだろう?」
「…………アリルフィーラ様の側仕えをしているフェリアです」
「同じくフェリエです」
「アリルフィーラ様にお仕えしています。フィリアと申します」
「フェリア、フェリエ、フィリア……名前が似ているけど姉妹かしら?」
「はい。姉がフェリア姉さまで妹がフィリアです」
そうやって三人が自己紹介をする。彼女たちの立場はアリルフィーラのメイド、アリルフィーラの世話役である。一応城でもある程度の城仕事の手伝いはするかもしれないがせいぜいが家事仕事関連くらいでアリルフィーラに関わることのない仕事はしないだろう。まあ彼女たちの立場ではそれで十分と言えるのだが。
そうしてアリルフィーラが皇国に戻り一仕事して戻ってきたアンデルク城……本来ならアリルフィーラは戻って来るべきではない気もするが、特に問題もなく戻ってきていつも通りの日々を送ることになる……まあ今回の件でクラムベルトが気公也に聞き込みをしてその内容をキアラートの上層部への報告する必要があったりとやるべきことはそれなりにあるわけだが。
そんな風にアンデルク城での日常生活に戻った公也。しかしそんな日々を送っているある日、アリルフィーラに声を掛けられる。
「あ、キミヤ様。少しいいですか?」
「別にいいけど……何かあった?」
「いえ、その……後で私の部屋に来てくれませんか? 少し内密に話したいことがあるのです……フィリアにキミヤ様を呼んでもらうのでそれまでは別に自由に行動なさってくださっても構いません」
「……内密に?」
また何か面倒ごとだろうか、と思う公也。とはいえ一応アリルフィーラの立場上何かあるのなら話は聞く必要があるだろう。その内容が何かはわからない。事前に皇国で何かを言い含められている可能性は考えられる。現時点でのアンデルク城における問題が何かあった……と言うのは可能性としては低いだろう。メイドのフェリアは結構いろいろとああしてほしいこうしてほしいと言ってくるがアリルフィーラはない。そもそも以前からアリルフィーラは特にこれと言って扱いに文句は言ってこなかった。ただ城で何か手伝いたい、何かやるように命じてほしいみたいなことを言ってきたりしていろいろな意味でその立場もあって困りものな扱いだったりはしたが。
まあメイドの関係で何かやらなければいけないゆえに公也に頼みごとをしたい、というのはあるかもしれない。しかしそれはそれで別に内密にする必要性はない……アリルフィーラの部屋に行って内密に話さなければならないという時点で何か面倒ごとか、あるいは怪しい事柄か。
「はい。人払いもしておきますので、お待ちしてますね」
「………………」
連れてきているメイドまで離して話をする……一応皇女の立場の彼女なのだが公也と二人きりという機会を作るのはどうなのだろう。まあそれに関しては今更なので別に気にすることでもないような話でもある。ともかく後でとアリルフィーラに呼ばれた公也である。なお別に夜に来なければいけない、というわけではない。あくまで後で、という話なだけである。特に深い意味はない……はずだ。




