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「キミヤ様、よろしくお願いします」
「……皇王から話を聞いたのか?」
「はい。お父様からはキミヤ様を頼りなさい、と」
公也と皇王が話した後どうやらアリルフィーラとも話をしたらしい。そして公也にアリルフィーラのことを頼んだと皇王は伝えたようだ。まあ沙汰を下したからと言って容赦なく追い出せるほど親として情がないわけではない。それでも皇王としてするべきことはする。今回の沙汰だって必要なことである。
「……私は少しやり過ぎた、と言われました」
「まあ何もなければ二人の皇子の争いでどうなるかが決まった戦いだったからな。アリルフィーラ……俺が干渉しなければどちらが勝つかはわからなかった」
「はい。でも…………」
「わかってる。どちらかが勝つ、どちらかが死ぬ、他の犠牲もアリルフィーラとしては容認できなかった。まあ理由はいろいろあるんだろうけど……何にしてもアリルフィーラの行動が間違っているというわけでもない。アリルフィーラも皇族であることには変わらない。今回の争いに参加する権利はあった……まあそこで俺を頼るのは問題が多かったと思うが」
「そういえばキミヤ様の方は問題はないのですか?」
「現状ではわからない。皇国からの抗議はなさそうだが……キアラートの方でどう判断するか不明だ」
「…………巻き込んでしまいもうしわけありません」
「気にするな。アリルフィーラの手伝いをすることを決めたのは俺だし、アリルフィーラをアンデルク城に連れてきたのも俺だ。本気でアリルフィーラに関わる気がないならアリルフィーラの意見を聞かずに皇国に戻していればよかっただけだしな」
今回の件に関してはアリルフィーラにも問題はあるし公也にも問題はある。しかしやってはいけないことでもないしできないことでもない。結局のところ他者との付き合いや関係の問題が発生するだけでどう判断しどう行動するかは彼らの自由。そもそも根本的な原因はアリルフィーラの暗殺をしようとしたフォルグレイスの行動にあり今回のことは因果応報ともいえる。アリルフィーラの暗殺を行わずただ内戦を起こすだけだったならば公也が関与してくることはなくそれこそ本当にフォルグレイスとディーレストの争いで結果が出た。まあその場合のアリルフィーラの立ち位置がどこになるかわからないという問題もあるがそれは些細な話だろう。
「とりあえずどうするのです?」
「いや、すぐに帰還したいと思う……けどアリルフィーラの方は何かやることはあったりするのか?」
「家族へのあいさつ回りと移動の準備……ですね。流石に荷物もなしに追い出されるということはないようで。あと私の世話役を数人連れて行くように、ということらしいです」
「人増えるんだ? 誰?」
「フェリア、フェリエ、フィリアの私の身の回りの世話をしてくれているメイドの三人です。彼女たちは元々私の世話をするのがお仕事でしたので……」
メイド三姉妹もどうやらアリルフィーラについてくるようだ。もともと彼女たちはアリルフィーラ付きのメイドである。主がどこかに行くのならばそれについていく。仮にアリルフィーラについていかない場合彼女たちは解雇されるだけである。皇族付きのメイドからいきなり職無しは結構厳しい。そもそも彼女たちのような立場の場合その持ち得る情報もあって面倒くさい。場合によっては別の皇族付きに回されるか、皇宮内の雑務に回されるか、あるいはどこかの貴族に拾われるか。いろいろあるがいい未来であるかと言われると厳しいところである。現状のままアリルフィーラに付いたままというのがいいのか悪いのかはそれもちょっとわからない。最悪アリルフィーラが本当に皇族として扱われなくなった場合、彼女たちの立場もまた無くなる。まあ彼女たちとしては今までお世話してきた主をまた世話したいという気持ちはある。なんだかんだで長い付き合いであるゆえに。
「……あの三人がついてくると」
「はい。皇国に残った方がいいのではと私も言ったのですけど……」
「まあそういう話はそちらに任せる」
公也に話を通されても困る。いや、住まう先となる場所の主なので話は通すべきだが別に拒んだりもしないので特に問題はないのである。問題となるのは来る側の意識、認識の問題。他国に行くわけであるし公也のいるアンデルク城は山を下りるのも大変な酷所。自分の故郷に戻ってくることすら厳しい遠方の自由な生活すら難しい場所。そこに来るわけだからそこに住まう許可を出す人よりもそこに住まうつもりの人間の意識のほうが重要なものになる。
「わかりました……一緒に行くのには問題あありませんよね?」
「ああ。ここ皇都からでも戻るのであれば大した苦労はしない。会った時にアンデルク城に行く時もそうだっただろう?」
「…………あの魔法を使うんですね。わかりました。問題がないのなら私は構いません」
基本的に距離も人数もあまり関係はない。公也の魔法による期間は一瞬で遠距離を移動できる。なので帰還時の苦労は特にはなかったりする。なおその期間の魔法について知っているのは公也たちのみであり、それゆえに他の面々は持ち物だったり人員だったりと移動するうえで手間がかかると考えていたりする。荷物に関しては公也が空間魔法を持っているので特に問題視はしていないが移動に時間はかかるものだと考えている……まあそれも一応はメルシーネを用いての移動で考えているのでそこまで長期になるとは考えていないが人数が増えるのでどうしても時間はかかるものだと考えていたりする。
そして翌日。公也たちにアリルフィーラたち、そして皇族のディーレストがアリルフィーラが他国へと旅立つのを見届ける役割を担う。他にも何人かアリルフィーラのことを心配する人間や見届け人としての役割を担う兵や騎士、文官などもいたりといろいろと集まった。そんな中公也の帰還の魔法による空間魔法による移動手段を見せつけキアラートに一瞬で帰れるという事実に周囲がかなり騒いだりしたりもしたが、そんな中マイペースに公也たちとアリルフィーラは必要な荷物と三人のメイドを連れてキアラートのアンデルク城へと帰るのであった。




