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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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35



「皇王陛下、あれでよかったのでしょうか?」

「アリルフィーラへの沙汰についてか?」

「はい」


 皇王がアリルフィーラに下した沙汰は現状では国からの追放、皇族としての立場の一時的な凍結といった感じの内容である。厳しいと言えば厳しいが、実際にはあくまで現状ではそうであるというだけであって将来的には皇族に戻れる可能性も皇国へと戻ることもできる可能性もある。もっともそれまでの間どうするかという問題はある。国にはいられないし他の貴族の庇護を受けられるというわけでもなく、そもそも皇族としての立場のないアリルフィーラを誰が手助けするのか。もちろん将来的に戻れる可能性はあるかもしれないが……しかしその時のアリルフィーラは単にただの皇族の一人でしかない。後ろ盾も特になく、権威も権利も少ない。アリルフィーラを庇護するだけの価値は薄い。せいぜいが皇族の血筋を取り入れることができるかもしれないといったことくらいか。まあそれはそれで価値を見出せるものもいるだろう。

 だがそれを行うにしても現状のアリルフィーラの扱いは複雑だ。ディーレストについた貴族はまだましだがフォルグレイスについた貴族は戦況を一気に悪い方向へと変えたアリルフィーラに対して敵意のほうが強いだろう。ディーレストについた貴族にとっても少々アリルフィーラに対しては複雑な心境を持っていると思われる。そして何よりも国外追放状態が問題である。いくら皇国の貴族と言えども国の外で大きな影響力を持てる者は少なく、アリルフィーラをどうにか庇護できるという者はほぼいないといっていい。

 まあアリルフィーラの庇護に関しては皇王は心配はしていない。何よりも今まで頼りにできていた存在がいるのだから。


「厳しいと思われたか? それとも甘いと思われたか?」

「…………多くの者からは厳しいのでは、と思われています。フォルグレイス皇子についた貴族からはもっと厳しくてもいいと言っていましたが」

「まあそうもなろう。彼の者たちはアリルフィーラのせいで己の立場が無くなったのだから。もしかしたらフォルグレイスが勝つ可能性もあったのに横やりを入れられ完璧に奪われた。勝った立場とは言え半ばその勝利を与えられたディーレストとディーレストについた貴族も複雑であろう。しかしそれでも厳しいという意見のほうが多いか」

「はい。さすがに国外に追放となると……」

「一時的に過ぎぬがな。しかしあまりにも重い沙汰は下せぬ。アリルフィーラだけではなくその母にも影響が出る。まあ現状で十分重い沙汰を下したとみられてはいるようだが」


 娘が追放されたとなるとその娘を生んだ母親に対しても敵意が向けられる可能性はある。ゆえに皇王はあまり重い沙汰を下すことはできない。とはいえそもそもアリルフィーラの行いはそこまで問題でもない。もちろん公也を連れてきたことは大いに問題ではあるものの、アリルフィーラはアリルフィーラで自分のできる限りのことを独力で成した、生き残り暗殺しようとした人物を糾弾しその罪を糺した。そもそも皇族暗殺に関しては同じ皇族の手によるものとはいえ相当な重罪である。これがただの貴族の手によるものならばまずお取り潰しになる可能性が高い事項である。皇族であれば許されるということもなく、フォルグレイスも相応の扱いを受ける。まあ皇族であるがゆえに処刑とまではいかないが、少なくとも二度と表舞台には出てこれない可能性が高い。


「アリルフィーラはあの沙汰に納得しているだろう。そもそもアリルフィーラは……いや、これは言わぬほうがいいか」

「……すごく気になるのですが?」

「極めて個人的な事柄である。まあいろいろとあるのだ。あの娘にもな…………ああ、そうだ。少し彼を呼んできてくれるか?」

「彼?」

「キミヤ・アンデール。アリルフィーラの連れてきたキアラートの貴族だ。今後についての話もあるのでな」






「何か私にご用事でしょうか皇王陛下」


 公也が皇王の執務室へとくる。


「うむ。少々お前と話し合いたいことがあってな……すまぬがしばらく席を外せ」

「はっ」


 皇王の指示により部屋の中にいた兵や文官などが外へと出ていく。本当の意味で公也と一対一で対話をしようとするつもりらしい。


「……一人になるのは安全面で問題があるのでは?」

「其方が私を殺そうというのならば問題であろう。以前のように暗殺者でもいれば危険もあるかもしれぬ。しかし其方はそうするつもりもあるまい? わざわざアリルフィーラの活動に加担するくらいなのだからな。其方が私を殺すには其方の立場上の問題もあろう。またアリルフィーラの心情の面でも無理がある。私を殺す理由も恐らくはないはずだ。他の者が私を殺そうとするのであれば其方が守るであろう。私を殺したと仕立てられる危険もある」


 公也が皇王を暗殺する理由はなく、むしろ暗殺者などの危険があった場合公也の関与と疑われる問題もあって確実に皇王の守りに入ると思われる。ゆえに皇王はそういうった面での心配はしていない。まああくまで一般的な観点での話で公也はかなり例外的な事項が多いのだが。とはいえ本気で暗殺するつもりならばヴィローサに遅効性の毒でも仕込んでもらえばいいしバレない毒を使うのもあり、自然にすぐ消える毒を使ってもいいのでわざわざ直接暗殺なんてことはしない。


「まあ、手を出すつもりはありませんが」

「そうであろう。ならば気にすることでもない」

「はい…………ところでなぜ私を呼んだのですか?」


 公也が疑問に思うのは皇王がなぜ公也をこの場に呼んだか。公也はアリルフィーラの手伝いをしたとはいえ外国の人間である。流石に皇王が何かを頼むのには問題がある立場であるし、あまりにも関わりを深くするのは問題があるだろう。とはいえ現状の公也の立場というか、アリルフィーラの行動の結果、皇位継承権争いへの関与の問題もあって話さないわけにもいかない。それにアリルフィーラのことに関しての問題もある。


「今回の内戦について……もあるが、アリルフィーラの件に関しての話もある。まず内戦への関与に関してだが…………其方のことを知っている者は多くない。戦場への参加という点においては其方のことはそこまで認識はされていないだろう。せいぜいが名前くらいだ。まあキアラートに今回のことが伝われば多少問題視されることもあるかもしれぬが……少なくとも私、皇国からキアラートに問題があったということはない。あくまで其方はアリルフィーラの手伝いをしたにすぎず、今回のことに関する責はアリルフィーラにある」

「……それはありがたいお話です」


 公也としてもあまり他国のことに関与して波風立てたくはない。今回のことはどうなるかという点では心配なことであった。一応アリルフィーラという防波堤があるがそれがどれほど役に立つかも不明である。公也の立場も一応外国では冒険者だがキアラートにおいては貴族であるということもまた事実で他国の行動がどのような影響が出るか不安な点がなかったわけではない。皇王から直接問題視しないという言葉をもらえたことは本当にありがたい話であった。


「問題はそのアリルフィーラに関してだ。今回私はアリルフィーラに沙汰を下した。この皇国からの追放、皇族としての立場の取り上げ。つまりアリルフィーラには頼ることのできる相手がないこの国の外で普通の民に等しい権限しか有しないまま放り出されることとなる」

「………………」

「キミヤよ。アリルフィーラのことを頼めるだろうか? 私が沙汰を下したとはいえ、アリルフィーラは私の娘だ。本心を言えばあのような沙汰を下さず穏便に済ませたくはあった。しかし今のアリルフィーラは何もしなければ国内の貴族から恨みを持たれることとなるだろう。ゆえにあのような形で沙汰を下したうえで国内の貴族が関与できない外に追いやらざるを得なかった。しかし一人で追いやるわけにもいかぬ。ゆえに其方にアリルフィーラのことを頼みたいと思っている。今までも其方のところにいたのだ。今回内戦でアリルフィーラが戻ってきたが……それがなければ戻ってくることはなかったのだろう?」

「……おそらくは」

「アリルフィーラは少々妙な考えを持っている。それゆえにあれは皇族という立場には向かぬ。皇族に生まれたゆえの現在でもあるがな。いや、それは言う必要のないことであろう。ともかくアリルフィーラに関しては其方に任せたいと思っている。頼んでも良いか?」

「今までと変わりありません。しかしこちらで預かってもいいのですか?」

「うむ。かまわぬ……アリルフィーラにとってはそのほうがいいだろう。ただ、沙汰の今後のこともある。アリルフィーラの今後に関してはまだ完全には決まっていない。そのことで連絡を入れることもあるだろう……其方のいる場所はキアラートだな? そちらに連絡を通せば問題はないか?」

「いえ、私のいる場所はアンデルク山の山頂付近なので……」

「それはまたなんとも言えぬ場所だな……」

「なので代わりにこれを」

「……これは?」


 公也は皇王に対して遠話の魔法陣を刻まれた道具を渡す。


「その魔法陣を起動させればアンデルク山に連絡をとることができます。私の住む城、アンデルク城に。それでいつでも連絡してくだされば結構です。ただ私が対応するとは限りませんが……」

「これは……………………いや、何も言うまい。わかった。必要になればこれを使い其方の下に連絡を入れよう。アリルフィーラの扱いに関して。あるいは何か別のことで連絡することもあるかもしれぬ。構わぬか?」

「特に問題はないと思います……もっとも私はキアラートにいる限りはキアラートの貴族でありますので、あまり勝手に物事を決めることはできません」

「わかっている。そのあたりは私も理解している」


 そうして公也と皇王の対話は終わる。そして公也はアリルフィーラを預かることとなった。基本的に今までと大きく変わることはない。正式にアリルフィーラの生存が皇国に知らされ、今後皇族に戻る可能性がある、また正式にキアラートにおいてもアリルフィーラの立場が明確になったこと、場合によってはキアラートと皇国の間でアリルフィーラの扱いに関する話があり得るということ、いつでも公也と皇国で連絡ができるということ、様々なことがあったが……そこまで大きく変わることはない。

 皇国でアリルフィーラの生存と同時にしばしの国外謹慎が知らされ、将来皇位に付くのはディーレストであると伝達され、フォルグレイスのこともまた伝えられる。いろいろと大きな出来事はあったものの、皇国における事態はそれほど変わらない。そもそもディーレストが皇位に付く予定だったのが確定に変わっただけであり、アリルフィーラが生きているからと言って彼女が民と関わった炊き出しなどの施しをする以外の大きな影響はなく、フォルグレイスがいなくなったところでそこまでの問題はない。皇国の貴族にとっては大きな出来事で今後どうするかという点ではかなり大変なことになると思われるが、少なくとも国としてはそこまで大きな問題とはならないことであった。まあ内戦という大きな出来事自体はあったのだが。


※皇王もなんだかんだで人の親。

※遠話の魔法はおそらくほぼ開発されていないというか、運用が大変で実現性が低いと思われる。なので主人公の持つ遠話の魔法陣は色々な意味で危険な代物。まあ使用することはできても再現や別の形で作成するのは難しいと思われるので技術を見せても問題はないかもしれない。

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