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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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「遅くなったな」

「流石にちょっと暗いわね」

「いや、普通は割と……こんなもんじゃないっすか?」

「今日はちょっと無駄な時間を使いすぎたかしら……? やっぱりダメな子がいると時間の消費も大きいのかしら」

「……それ、俺がダメな子って言ってるっすか!?」


 いつも通り、ヴィローサはフーマルに対して辛辣である。まあ、フーマルがいたから時間がかかったとは少々言えないところであるが、フーマルがいなければ公也とヴィローサは割とすぐに仕事を終わらせる方向性であるため、少し暗くなったくらい、と言えどもあまり暗くなる前に戻ってきていただろう。そういう点ではフーマルに原因がないとは言えないが。


「報告は……」

「この時間だと、ギルドも混むっすし、今日中に片付ける必要もないし明日の朝に依頼を受ける時に報告もついでにすればいいじゃないっすか」

「そうね。キイ様と休むことのできる時間が減るのも嫌だし、これの言う通り戻りましょう?」

「……そうだな」


 時間的に、今からだとギルドに依頼の報告に行っても問題はないが、他の冒険者もいるだろうし時間がかかる。なので報告は後回し、というのも一つの手段だろう。場合によっては当日中に依頼の報告が必要であったり、素材を渡す必要があったりすることもあるのだが、今回公也たちが受けた依頼はそういうものではないので特に問題はないだろう。

 そんなことを考えつつ、公也たちは自分の宿に戻る。なお、今ではフーマルも同じ宿にいるが当然部屋は公也とヴィローサで一部屋、フーマルが一部屋という割り当てである。男同士と女性、というくくりにならないのはヴィローサの意見だろう。公也はそのあたりは特に気にしていないし今までがヴィローサと同室だったのだから気にするものでもない。

 そうして街を歩く。いつもとは違う道を。


「あれ? こっちだったっけ?」

「…………フーマルのくせに気づくの早いわね。キイ様、もちろん気づいてますよね?」

「ああ」

「え?」


 フーマルは通常通り、宿に戻るのだとのんびりとしているが……公也とヴィローサは警戒を解いていない。二人はずっと警戒していたわけではない。街の中に入ってから、警戒する相手がいるのだと感じていたわけである。まあ、公也はそれほどまでに警戒する必要があるとも思ってないが、公也はいくらでも安全だがフーマルやヴィローサはその限りではないから、というのもあるだろう。

 ある程度道を進んだところで公也たちを囲うように男たちが前に後ろに現れる。


「…………なにこいつら?」

「なんすか!? なんなんすか!?」

「…………………………」


 フーマルは驚くが、公也とヴィローサは特に驚く様子を見せない。ヴィローサに関しては相手がだれかわからないので怪訝な感じだが。


「よう、いい物もってんじゃねえか」

「そいつを俺たちによこしたら、大人しくここを通してやるぜ?」


 チンピラ、あるいは盗賊か。街中で盗賊というのも何か違うのでやはりチンピラだろう。実に小物なセリフを吐く男たちである。


「なにこいつら?」

「さあな。まあ、俺……を狙ってきた、というわけではないが俺を狙ってきたんだろう」

「どっちっすか!? え? 何か狙われることしたんすか師匠!?」

「キイ様がそんなことするわけないでしょっ!!」

「ひいっ……」


 ヴィローサに恐怖するフーマル。まあ、妖精であるヴィローサはその能力の特殊性、強さがあまりにも段違いなのでしかたがない。体の大きさで見れば明らかにヴィローサよりもフーマルの方が大きいのだが、体の大きさで強さや危険性が決まるものでもない。特にヴィローサは公也に関することにはその本性を顕わにして対応するためよけいに怖い。


「俺が狙われている……というわけではないだろうな。ほら、そこにわかりやすく狙われる奴がいるだろ」

「…………あー。理解したっす」

「あら。私はキイ様にならいくら狙われてもいいけど? でも、こんな誰とも知れない有象無象はごめんよ」

「ちっ。好き勝手言いやがってよお?」

「そいつをこっちに渡せよ。渡さねえのか? おい、ここで死にてえのかよ!?」


 武器をちらつかせて怒鳴りつける。脅しとしては実にチープというか、あまり怖いようには見えない脅し方である。本当にどこにでもいるチンピラのようにしか見えない。まあ、これでも彼らは一応集団で公也たちを囲い脅す、という少しは頭のいいことをやってのけているわけであるが…………そもそも、この程度の囲いで公也たちをどうにかしようと思うほうが間違いな気もするが、結局はその程度の輩ということでもあるだろう。


「そうか。ところで……妖精をそちらに譲渡して、お前たちは本当におれとこいつを見逃すつもりか?」

「……………………へっ。ああ、当然だぜ? 何せ俺らは良い奴だからな」


 良い奴が普通の冒険者を囲んで脅して連れている者を奪おうとするはずがないだろう、というツッコミがどこからともなく入りそうなセリフである。そのうえ、その内容を言うまでの間の無言がその言葉が真実であるかを物語っている。どう考えても公也たちを見逃すつもりはないだろう。そもそも拉致現場を見た目撃者を大人しく見逃すはずはなく、ここで公也とフーマルを殺しヴィローサを攫いとんずら、どこかでヴィローサを売り払うという魂胆になるだろう。


「ど、どうするっすか師匠!?」

「どうすると言われてもな…………」

「そうよね。キイ様、どうするかなんて決まってるわ」


 囲む男達への返答はただ一つ……ではなく、それぞれで一つ。


「ヴィラを渡すわけがないだろう」「皆殺しよ」


 囲んでいる男のうちの一人の頭が喪失した。


「………………お、おい!?」


 唐突に消えた頭が消えた体、その首の断面からは頭へと送り出す血流がぶわっとあふれ出てくる。それはあまりにも非現実的光景だろう。誰も何もしていないのに、いきなり頭が失われるのだから。それに驚いた男がその頭を失った男へと声をかけ、次に公也の方向を見ようとして……その男も頭を失う。


「……え? な、なんなんすかこれっ!?」


 フーマルも驚いているが、それ以上に相手の側も驚いていることだろう。しかし、彼らもチンピラとして今回のような活動には慣れており、衝撃的な光景ながらも彼らは自分たちがどう動くべきか適切に判断する。


「おい! すぐにやるぞ!」

「へい!」

「俺たちは……………………」

「ど………………」


 前にいた公也の手によって頭部を失ったチンピラたちの傍にいたものはすぐに動く。しかし、その後ろ、公也たちを囲うように後ろに現れたチンピラたちは急激にその動きを止めた。


「キイ様に何をするつもりかしら? ねえ? 何をするつもり? 殺すの? 殺すの? あなたたちが死になさい? 殺してあげる、殺してあげる、ああでもその前に、死ぬ前に死ぬよりも怖い目にあうのが先かしら? ねえ? どうする? 死んでみる? 死なないで死にながら生きてみる? 生きながら死んでみる? 意識が徐々に失うのがわかる方がいい? 内臓の動きが止まるのが理解できる方がいい? それとも呼吸がじわじわできなくなるのがいいかしら? 目が見えなく、耳が聞こえなく、味も感じられず、何かを触っている感覚もなく、匂いすら感じられない状態にしてみるのもいい?」


 誰に向けて言っているのかはわかるのだが、恐らく相手方はそれに対して返事はできない。後ろにいたチンピラたちはヴィローサによって一瞬で毒されその動きを止めることとなった。ヴィローサの毒はどんな相手でも発生させられる。その規模、種類、距離、性質や時間の限界はあるが、それでもヴィローサの毒は特殊で強力。それこそが彼女、妖精という存在の強み。


「や、やばくな」

「おいっ!? ちくしょ」

「ひ、ひいいいいいい!!」


 後ろの仲間は毒に倒れ、前にいた仲間は頭を消され。そんな様子を見て逃げ出すチンピラも出た。


「土よ足を縛れ」


 そんなチンピラを一人、公也は捕まえ、それ以外は頭部を消し飛ばして殺す。そうして公也を脅したうえに殺しヴィローサを捕えようとしていたチンピラたちはあっさりと壊滅したのである。


※ヴィローサのフーマルに対する辛辣さはかなりあれ。将来的にはそれなりに落ち着く……が、割と辛辣なのは変わらないのでその点は注意。

※一般的な冒険者の仕事は一日で終わるものばかりではない。特に外に出る場合二日三日になることも珍しくはない。なので厳密に時間指定のされている依頼でもない限りは報告の時期は気にされない。もっとも一月後とかあまりにも遅れるとだめだが。内容次第でもある。

※ヴィローサは現時点ではかなり安定していない。生まれたばかりの赤子のように不確定な部分が多いためである。時間とともに成長、安定していく。そしてそれなりに落ち着いてくる……もっとも主人公以外にはあれだが。

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