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「アリルフィーラ。お前は今まで、皇都に戻ってくるまでは行方不明の扱いだった。そしてお前がいない間に皇位継承権の争いが起きた。本来ならばお前は参加できるような状態にはなかっただろう。しかしお前はそうではない。皇国で起きている継承権争いについて認識し、むしろそれに対して介入するためにこの国へと来た。もしお前が皇位継承権を持つ皇族でなければ関与することは許されなかっただろう。お前が継承権争いに参加できたのは偏に皇位継承権を持つが故。継承権争いに参加できるのは、継承権争いで指揮する立場に立ち参加、介入できるのは皇位継承権を持つものに限られる」
「………………」
「お前はいろいろな手段を持って参加した。その行い自体を咎めることはない。それ自体は罪ではないのだからな。途中からの参加、戦闘を始めようとしたディーレストとフォルグレイスへの干渉、またフォルグレイスに対し暗殺の自白をさせそれによる権威の失墜。アリルフィーラは暗殺された側なのだからそれに対し反撃しないということもあるまい。その行動を行うのであればそれが失敗したとき、そしてその行動に対し相手がどう対応してくるか。そういったことも考える必要がある。物事は常に成功することだけではなく、場合によっては己の行いがそのまま己に降りかかってくることもある」
皇王はアリルフィーラの行い……内戦における介入、フォルグレイスへの糾弾、そういったことに関しては何も問題はないという。しかしアリルフィーラの問題はそういった部分ではない。
「しかし……理由はあっただろう。他に手がないということもあった。だが、それでもお前が他国の者の手を借りたという点に関しては流石に簡単に許容はできぬ」
「……それは」
ざわざわと周囲が騒がしくなる。一応公也は他国の人間。まだただの冒険者ならば多少は許容できるものの、一応公也は貴族。キアラート以外では貴族扱いはせず冒険者としての立場のみと言われてはいるがやはり問題はあるだろう。特に今回はアリルフィーラに関わり他国の継承権争いに介入している。真っ当な判断であれば大問題どころの話ではない。
「それにお前は皇位継承権争いに参加したがそもそもの目的は皇位を得ることではない。それもまた問題だ。お前はただ内戦を終わらせたいという目的ゆえに、またフォルグレイスに対して自身の暗殺を行ったことの糾弾を目的に参加した。そして対する二人の皇子のうち暗殺を行ったフォルグレイスではないほう、ディーレストを勝たせるために動いた。そうであろう」
「…………私はあくまで争いを止めるために来ました」
「内戦をただ止めるということはできぬ。それゆえに参加して参加者として止めるため、終わらせるために行動した……それは継承権争いの本来の意味を失わせる行いである。継承権争いは皇位を得るためのものである。必要であればそのための犠牲も出よう。それまで準備してきた貴族の損失はどうなる。お前の我儘で終わらせていいものではない。皇位を得るつもりでないために悪戯に参加していいものではない」
「………………」
あくあまで皇位継承権争いの内戦は皇位を得るためのもの。アリルフィーラの行いはそれを目的としたものではない行いであり、本来それに参加し皇位を巡る争いを行っている二人の意志に唾を吐く行いであると言える。彼女の行いは横槍を入れる、いたずらに邪魔をすると言った行いと言っていいものだ。
「皇王陛下! ではやり直しを!」
「私は今回の結果を覆すつもりはない。アリルフィーラの介入があったとはいえお前が負けを喫したことには変わりない。フォルグレイス、お前のこれ以上の皇位継承権争いへの発言を禁ずる。そもお前は後でアリルフィーラ暗殺に関しての詳しい話を聞かなければならぬのだ。それが終わるまでは意見を聞き入れることもできぬ。終わった後もお前がどうなるかはまだ決まってはおらぬしな」
「う…………」
フォルグレイスがやり直しを、と言い出したが皇王はそれを切って捨てる。フォルグレイスがアリルフィーラを暗殺したという事実に関してはまだ確定こそしていない者の自白という形で完全に表に出てきてしまっている。本当であるにしろないにしろ、その事実に関して詳しく調査する必要はあるだろう。そしてその調査によって事の次第が判明するまではフォルグレイスはグレー、どちらかというと黒寄りの扱いになる。家族の暗殺……いや、この場合は皇族の暗殺に関与したという問題。また皇宮に暗殺者を招き入れたということにも関与している可能性がある。それらの時点でかなりアウトと言っていいくらいのものである。まあさすがに身内ゆえに処刑はされないが謹慎どころでは済まない可能性が高い。現状ではまだどうなるかは決まっていない。
「さて、アリルフィーラの行為における問題は多々ある。他国の介入という問題に関してだが、これは実際には微妙な内容でもある。確かに介入はしたがあくまで個人の戦力としての介入である。他国の人間……彼の国キアラートにおいては貴族の位を有するが外ではただの冒険者として取り扱うようにと言われているキミヤ・アンデールがアリルフィーラの供として参加し、それが連れる竜を引き連れて戦争の現場に赴いた。軍勢を率いたというわけでもなくただの一個人としての参加、それもアリルフィーラの供としての参加だ。彼の国の意図がないとは言えぬ。しかしそれによる参加でもあくまで個人の尽力にすぎぬ行いである。問題がないとは言えぬが……他国の友人の危機に自身が赴いた、あるいは友の頼みを聞き出向いた、そういうことであるともいえる。また彼の者はアリルフィーラを救出した事実もある。実際には正確な真実は不明であるとしてもアリルフィーラの言もある。信じぬとは簡単には言えぬ。もっともそれで納得するとも言えぬであろうがな」
多くの者にとってはアリルフィーラの行動、そしてアリルフィーラに加勢した公也の行動は正直受け入れがたいことである。またキアラートが皇国に対して行った干渉であると考えることも見ようと思えばそう見れる。だがそれにしては行動が少々変だ。アリルフィーラに加勢しているがアリルフィーラが勝利し皇位に付くというわけでもなく、また戦闘に来たのは竜と魔法使いのみ。もちろんその実力を見ればその一人と一匹で十分だったわけであるが軍を連れてくるということもない。まあそこまですると本当に内政干渉と言えるわけであるが……やはり行動としては微妙なところと言わざるを得ない。
「そもそも皇位継承権においてディーレストは継承権一位である。フォルグレイスが皇位を巡り内戦を起こすことがなければ順当に皇位を継ぐこととなっただろう。今回の結果はその元の鞘に収まっただけにすぎぬ話だ。まあ納得のいかぬ者も多い。アリルフィーラの干渉によりフォルグレイスが勝つ目を一方的に奪われ立場のない者もいよう。アリルフィーラの行ったことはあまりにも理不尽である…………その点に関しては私も認めよう」
アリルフィーラが内戦に横やりを入れてきたこと……つれてきた戦力に関しても常識外という問題もあるがその強さに関してもあまりにも理不尽すぎるものである。確かに皇位継承権争いは両者の戦力によって決めることではあるがそれはただ力が強ければいいという話でもない。兵を従え指揮し鼓舞する能力、貴族を自らの派閥に入れそれらを統率する能力、戦略や戦術を考える能力、場合によっては前に出て先頭に立つことのできる度胸を持つ、様々な素養、能力を計ることもまた継承権争いの目的である。アリルフィーラが連れてきた公也の手によるやり方はあまりにも一方的であり、また公也という存在がいなければ絶対に行うことのできないこと。圧倒的な力による理不尽。それを皇位継承権争いの結果につながるものとして取り入れることはできない。
「アリルフィーラが戻ってきたことは喜ばしいことである。しかしアリルフィーラが皇国に戻り内戦で行ったことは皇国の立場としては認め難いことでもある。ゆえにアリルフィーラよ。今回のことを通じお前に沙汰を下す」
「………………」
「お前の皇族としての立場を取り上げる。皇族の籍から外すかどうかに関しては後に話し合い決めることとする。そしてしばし謹慎と追放を申し渡す。暫くこの国から離れ大人しくしているがいい」
「…………え?」
その内容に関してアリルフィーラはよくわからなかった。他の者もよくはわからない。皇族としての立場を取り上げる……つまりはアリルフィーラの皇族としての力、権限を奪うということ。まあ今回アリルフィーラは戻ってくると同時にいろいろやり過ぎたことからそういったやり過ぎることのできるくらいの力を奪うということである。皇族から籍を外すことになるかは現状ではわからない。しかし皇族として認められなくなるというのは少々沙汰としては重いのではないだろうか。
だがそれ以上に。一番よくわからないのが謹慎と追放。謹慎ならば外に出ないという意味でわからなくもない。だがそこに追放が加わるとさすがによくわからない。まあ意味自体は難しくもないことである。この国の外のどこかで謹慎すること、大人しくしていること。そういうことである。
※アリルフィーラの問題は皇位継承を目的としない形での皇位継承権への戦いへの参加、介入。また自国ではない別の国のに人間、一応貴族である人物の手を借りて貸しを作る形になったことなど。またその人物の自国内でのある意味では国にとって大きい物事への介入。
※一時的に皇族でなくなり、また国から一時的に追い出す措置。それがアリルフィーラに下された沙汰。本人にとってはどう思える内容だろうか。高い立場から蹴落とされるわけだし。




