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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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 皇都、皇宮。皇王の前に皇族たちが全員勢ぞろいしている。正確にいえば皇族と言っても今回の継承権争いに参加した子供たちであり皇王の妃などは皇王のそばにいるわけだが。また皇族以外の側に控える仕える者などもいる。アリルフィーラの場合側に公也がいるということである。それらも今回の継承権争いの参加者に限られているわけであるが。それぞれの位置も違い、アリルフィーラ、フォルグレイス、ディーレスト、今回の継承権争いにおいて大きな立ち位置を示した三人以外は横に控えている。継承権争いにおいて彼らも継承権争いの内戦に参加していないわけではない。どちらかの皇子の派閥に付きその皇子の支援を行う。継承権を直接得るつもりがなくともその後の立場に関わるということもあって彼らもいろいろと必死である。

 そういった皇族の内戦における事情についてはともかく。彼らが皇王の前にいるのは今回の継承権争いにおいてその決着がついたからだ。正直言って納得いかない者も多いかと思われるが、アリルフィーラもまた皇位継承権を持ち内戦……継承権争いに参加できる資格を持つ。もちろん継承権は最低位ではあるが、だからといって参加できないわけでもない。今回戻ってきた立場であるしむしろ参加せずに終わる方が彼女としては問題も大きかった。そのうえ元々継承権争いに参加する……正確にはそれを止めるつもりではあるが、それを目的に来たわけである以上資格的にも問題ないのだからなにも文句を言えることではない。


「面をあげよ」


 皇王の言葉でディーレスト達三人が顔を上げる。


「……今回の皇位継承権争いにおける決着はついた。ディーレスト、フォルグレイス、そしてアリルフィーラが兵を率いて内戦を行い、その結果ディーレストの勝利という形で終わった。ゆえに皇位継承権……私の後に皇位につくのに相応しい次期皇王はディーレストであると決定した」


 次の皇王はディーレストである。それが今回の内戦の結果だ。もっともその皇王の言葉にディーレストは嬉しくなさそうである。正確にいえばかなり複雑な感情をその表情に表していた。そしてもちろん内戦を提案しディーレストと争ったフォルグレイスもまた同様に。こちらはむしろわかりやすい。納得いかないと怒りに近い感情を見せていた。そして皇王の発言に噛みつく。


「父上! 今回のことは私は納得がいきません!」

「………………」

「……っ」


 皇王が一睨みするだけでフォルグレイスは気圧される。


「フォルグレイス。今ここにおいて私はお前の父親ではない」

「……っ、失礼しました、皇王陛下」

「それでいい」


 フォルグレイスが文句を言ったことではなく、公的な場、公式の場において父上と呼んだこと。それが問題であると皇王は指摘した。別にフォルグレイスが言ってきたこと、今回のことにおける問題は確かにないわけではない。


「フォルグレイス。何が問題だというのだ?」

「アリルフィーラが参加してきたことです!」

「何が問題なのだ? アリルフィーラもまた皇位継承権を持つ。後からの参加ではあるが……その分だけお前たちよりも不利な立場にある」

「…………は、敗北条件が足りていないでしょう!」

「確かに。だがその程度のことがどれほどの問題になる。いや、お前たちの立場であればその程度のことを覆せねば困る。余計な乱入者、不利な条件、皇王を目指すのであれば面倒なこともあろう。その程度のこともできぬのに皇王になろうとしたか?」

「………………」

「さらに言えばアリルフィーラは他の貴族の手助けもなく、お前たちのように事前の準備もできていない。内戦の争いの中に何人で出向いた?」

「そ、それは…………」


 アリルフィーラはかなり条件的に厳しい立場である。皇位継承権は最低位で他の貴族も手助けはしてくれないだろうし内戦の途中であるゆえにそもそも途中からの参加者という時点で事前の準備、根回し、派閥の味方に引き込むことなど多くは無理だった。まず準備の時間に関してもアリルフィーラは皇都まで来てから本当に短い時間で内戦に向かっている。公也という味方がいたからこそできたことであり他の人間では無理だっただろう。

 もっともその点、公也が味方であるということが一つの攻撃できる点だ。また今回の場合フォルグレイスに対してはアリルフィーラのやり方は少々正道、真っ当なものとはいいがたいともいえる。


「っ! ア、アリルフィーラの行いは問題ではありませんか! アリルフィーラは私を誹謗中傷したのです!」

「…………その点に関しては私も問題を認識している。しかしそれに関してはフォルグレイス、お前の方から自白したと聞いているが?」

「そ、それは……アリルフィーラが私に何かしたのです! 私にあのようなことを言わせたのです!」


 間違ってはいない。しかし精神を捜査して言わせた、などではなく真実を発言させたというだけで言ったこと自体は嘘でもなんでもない事実である。確かにそうしたということは大きな問題かもしれないが、しかしそれを言ったフォルグレイス、実際に行ったことを行っていたという事実はそれもまた大きな問題である。一方的にアリルフィーラだけを問題視できるものでもないだろう。


「ほう。それは面白いな」

「だから」

「だが、それを証明できるか? 証拠はあるのか?」

「…………」

「証拠だけが問題ではないな。あの場においてお前はそれを防ぐことができなかった。戦場において相手による攻撃を受けたがそれを防ぐことができなかった。それはお前の責ではないか?」

「え?」

「他者に思ってもいないことを言わせることは攻撃の一種だろう。しかしその攻撃を戦場で受けたから、とお前は文句を言うのか? 戦場に出向き剣で斬られたことに文句をつけるということなのか?」

「………………」

「そういった攻撃から身を守るのもお前が戦場でするべきことである。また仮にそれが真実ではないというのであればその証拠も提示せよ。まあ真実であるという証拠もないかもしれぬがな。しかしそのどちらもないというのであれば……お前の発言は真実であるとみるしかない。まあそれに関しての追及は今すぐするべきことでもあるまい。後でたっぷりお前から話を聞こう。なに皇位を継承する者も決まったことであるしな」

「…………っ」


 フォルグレイスは皇位継承権争いに負けた。あの戦場で話した言葉が真実であれ、虚実であれ、あそこでああいう発言をさせられた時点でフォルグレイスの負けである。


「フォルグレイスはともかく、ディーレスト。お前はよく継承権争いで戦い勝利を得た。喜ばしいことである」

「……はっ」

「お前にとって納得がいかない部分も多いだろう。しかしそういった結果になることも時にはある。自身の手に負えぬ出来事、あるいは何かの天災に近いものもある。良いことも悪いことも起きる。問題はそれにどう対応し、どう結果を得るかだ。お前は今回それを勝利という形で得たというだけだ。それは幸運であろう。常にその幸運を手に入れられるとは限らぬが、しかしそういった出来事が起きたとき、自分が得られるのは幸運であるように努力をしていけばいい。他の物事もまた同じ、自分にとって良い結果を、この国にとって良い結果を。それを得られるように努力していくように」

「この身の出来得る限り精一杯努めます」


 ディーレストはある意味では今回は幸運にも勝利した、という結果だ。自分の関わる部分ではないことで勝敗が決まって納得がいかないことである。しかし世の中の物事はすべてが自分が関わらなければ進まないことではない。他国で起きることも、自国で起きることですら時に自分が関わらないものも多い。地震や嵐のような天災もまたそういうものだ。そういった出来事が起き、巻き込まれたとき、自分がどういう立場になるか。それを決めるのはその出来事の結果によるが、普段の来ないやも霜の時の対策でその結果を可能な限り良い方向……悪くならないようにはできるだろう。そういう出来事があると知り、それに対して対策をとる。事前にしっかりと準備し覚悟する。そういったことを知る経験となったわけである。


「……そしてアリルフィーラ」

「……はい」

「今回の皇位継承権争において、お前の立場はかなり複雑で問題である。それは理解しているな?」

「………………」


 フォルグレイスとディーレストに関してはそこまで大きな問題はない。最終的にどちらが勝つかという話であった。だがここで大きな問題がある。その両者の争いという場にアリルフィーラが参戦した……皇位継承権も地である以上それは本来なら何も問題ではないはずではあるのだが。アリルフィーラは今回特例的な事項、特殊な活動が多すぎる。それゆえに今回の内戦におけるアリルフィーラの参戦という事柄は大きな問題を抱える事項となったのである。その裁定が行われる。


※戦場での出来事はどういう形であれ問題ないと今回の内戦では考えられている。戦場でならば暗殺をしても良い。そういったやり方も一つの攻撃手段。戦場で敵の攻撃を防げなかった方が悪い。

※今回の介入の無理やりさなどを含めアリルフィーラの現状での立場はかなり不安定。他国の人間の国内事案への介入もあるし、後ろ盾もいない状況だし余計に立場は悪いと言える。

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