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フォルグレイスがすべてを暴露した理由。それは当然ヴィローサの毒によるものである。しかし通常妖精が自分たちの周囲に飛んでいればさすがにバレるだろう。もちろんそこにバレないように公也の方で手を打った、そういう話になるわけである。ぶっちゃけて言えば魔法による迷彩である。ただこれは魔法使いによっては気づかれる可能性もある。しかしここで重要なのが公也の使った全体を包む風による言葉の伝達の魔法。あれによる公也の使用する魔法に包まれているということがヴィローサの存在、公也の魔法による迷彩の魔力を気づきにくくするという手立てである。ただ言葉を伝えるというのも目的だったがヴィローサを隠す意図もあった。まあそれでも気づかれる可能性はなかったわけではない。実際には上手くいった、というのが今回の展開につながる話である。なお毒はヴィローサに指示を出して抜いている。毒物が残ったままになるのは別の意味で問題があるし思っている真実を吐く毒というのは誰が使うにしても危険な代物。その毒を調査し作るようなことをされないようにヴィローサに使った毒を抜くように最後に名前を呼んで指示を出し、それから公也の元に戻ってきてもらった、そんな感じに事前に打ち合わせをしていたりする。
そんな話はともかく。ヴィローサの毒による真実を全て話してしまったフォルグレイスは流石に無言になっている。まあ隠している真実、皇族であり家族であるアリルフィーラの暴露をこんな自分の派閥を含めた貴族、そして兵士たちがいる場所で言ってしまった。さすがにこの大人数を相手に秘密にするということもできない。そもそも目の前にディーレストとそちらの派閥に所属する貴族に兵士もいる。どう考えてもフォルグレイスの立場が悪い。
「……………………ふ、ふふ……」
現場はかなり混乱している状況にある。そんな状態だからこそ、フォルグレイスは一つ手を思いつく。
「お前たち!」
フォルグレイスが声を上げる。その声に両皇子に付く人間たちが反応する。
「兄上の兵を蹴散らしその首級を上げよ! 私に続けっ!!」
混乱している自分たちの兵に指示を出し、自分もそのままディーレストへと突っ込んでいく。さすがに皇族ゆえに走っていくとかではない。一応馬に乗っている。またさすがに一人で行かせるわけにはいかないとフォルグレイスの側についていた人間も突っ込んでいくフォルグレイスに伴いついていく。人という生き物は他人がやっていることに影響を受ける。その行動に共感し、自分もやるべきではと考える。彼らもどうしたらいいか、と考えていた。混乱した状況にあり周りがこうするのであれば、と周りの行動に誘導されやすい状況にあった。そして彼らはフォルグレイス派閥、その派閥の貴族に所属する兵士。フォルグレイスがいろいろと裏で悪だくみをしていたということが分かったからと言って、フォルグレイスは別に敵ではない。ゆえにフォルグレイスが動き、それに伴う貴族や兵が動き、それに誘導されるかのように彼らの派閥の兵士たちが動き出す。
フォルグレイスは立場上かなり危うい状況にあった。アリルフィーラの暗殺を公にされた……自分でしてしまった以上、それに言い訳はできない。だがそれをどうにか覆せないかと彼は考えた。それを覆すための手段が現状、内戦状態にある。つまりはディーレストを討ち自分が皇位に付くことができる状況にする……流石に皇位継承権争いが決まった状況で、自分が皇位に付く最上位の状態で、他の皇族が争いに参加せずにドロップアウトした状態で、その状態であればアリルフィーラの暗殺を目論んだという事実があったとしてもフォルグレイスが皇位につくしかない。そうフォルグレイスは考える。いや、考えるというよりもそうであってほしいと彼は願っている。だからこそ、この行動はイチかバチか、なのである。
「くっ! 総員対処!」
そしてそんなフォルグレイスの動きにディーレストは若干遅れてしまう。まあフォルグレイスの思考はかなり突発的な発想であり、また戦場が若干混乱している状態だったからこそその突発的な発想からの急展開に周囲がついていかなかった。それを行ったフォルグレイスから伝播するようにフォルグレイス派閥の兵士は動いたがそれ以外は突然の変化に動けない。どちらが優勢かと言えば、迷いがあれども先に動いたフォルグレイスの方だろう。また彼らもイチかバチか、といった感じの行動でありある意味では先の安全を顧みない動きでもある。犠牲がどれほど出ても勝利さえできれば……ということになると犠牲もそれまでよりも跳ね上がるかもしれない。たとえ武器が命を奪わないように安全を考慮されたものであったとしても。
「そういう手を打ってくるか」
「……キミヤ様!」
さすがにこの変化に関しては公也も想定外であった。まあどう出るかという点に関してはそもそも予想できるものではなかった。今回の指摘で諦める、あるいは自身の罪を認め自首する、そんなことをするくらいならばそもそも彼も暗殺なんてことをすることはなかっただろう。だがこれに焦る様子を見せたのはアリルフィーラだ。このままいけばフォルグレイスとディーレストの軍はお互い全力でぶつかり合う。どちらかが討たれるまで……特に今回はディーレストを抑えればいいというわけではない。フォルグレイスは他に継承できる存在がいないようディーレストを確実に討たなければいけない。他の皇族もいないわけではないが、継承権争いにおいてトップに立たな皇族は皇位を継ぐ立場にないとされる。皇位継承権の高さは関係なく皇位に付けなくなる、そういう感じのルールがある。ゆえにここでディーレストが死ねば自動的にフォルグレイスが皇位に付くことになるのである…………アリルフィーラの特例を考慮しなければ、
だが。まあそこは関係ない。アリルフィーラは犠牲を減らしたいのである。それができない、逆に多大な犠牲が発生しかねない状態にある。それは望ましくない。
「わかってる」
公也としてもアリルフィーラのためにここまで来ているわけである。暗殺の全貌を暴くこと、それを糾弾しこれ以後の問題を省くこと、アリルフィーラのやりたいこと、望むことを叶えること。公也のここでの役目はアリルフィーラの手伝いである。
「大地よ踏みしめし者たちの足を捕らえよ。風よ彼らの身の動きを大きく制限せよ。それは束縛。それは呪縛。すべての者は我が意思によりその動きを止める。エレメンタルバインド!」
風の魔法を解除し、全力で公也は束縛の魔法を行う。この地にいる者、内戦を行っている彼ら……兵から馬から、あらゆるすべての人間を対象に魔法を使いその動きを束縛する。足を土で絡み取り一歩を踏み出せなくする。体を風が縛り前に出せなくする。彼らはもう動けない。そのことに兵士、魔法使い、そして両皇子が困惑する。
「さて、あとはあちらの捕縛をして……それで後はディーレスト皇子の方に委ねれば大丈夫、だな?」
「……おそらくは」
「そうか……アリルフィーラは皇位に付くつもりがないんだよな?」
「はい」
「ならそれでいい……のかな」
そうしてフォルグレイスが捕縛され、ディーレスト側の事実上の勝利となる。
この結果はアリルフィーラが横やりを入れた結果もたらされたもの。ディーレスト、その派閥の貴族、兵士たち、彼らもこの形での結果に関しては少々納得がいかない。確かにこれで皇位継承権争いは決着がついたのかもしれないがその決着のつき方があまりにもきちんとしたものではないゆえに。また当然だがフォルグレイス、その派閥、兵士たちもまた同様だ。勝ったと言えるディーレストの派閥以上に彼らは納得がいかない。下手をすればフォルグレイスと同じようにアリルフィーラの暗殺を目論む可能性が生まれるほどに、公也も同じように想うようになるくらいに、それくらいに今回の内戦の決着のつき方は問題が多いと言えた。
そのツケをアリルフィーラは払うことになる。もっともそれはアリルフィーラにとっては問題ないことなのか、問題があることなのか。望ましくないことなのか、望ましいことなのか。それはわからない。
※光学迷彩の魔法で姿を隠す、全体への声の伝達の魔法で魔法の気配その物を紛らす、それによりヴィローサが姿を隠したままこっそり近づいた。
※全体への声の伝達を魔法の形でできるという時点で主人公は全体への攻撃の魔法もできるという事実に通じる。魔法使いはその事実を認識している者もいて大分絶望的に感じていたのではないだろうか。




