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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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30



「暗殺の指摘? 糾弾? アリルフィーラ、こんなところに来てまで一体何を言う」

「…………それは」

「アリルフィーラ。そこからはこちらで話す」

「わかりました」

「……またお前か」


 いちいちアリルフィーラが話したり公也が話したり……アリルフィーラはともかく公也の存在はこの地にいる皇国の兵士たちにはなぜお前が話すのか、と思うところだ。それは別に兵士に限らず皇子二人もまた同様。まあアリルフィーラですら彼らにとっては下……妹という立場であるし現時点では余計なことをしに来ていると感じている以上疎ましく感じるのはむしろ当然のことだろう。

 しかし今回の暗殺の糾弾に関してはアリルフィーラよりも公也のほうが持っている情報は多い。というよりアリルフィーラは誰が目論んだかという話に関しては公也から聞いていることでありその詳しい情報、内容はそこまで知っているわけでもない。重要なのは誰が目論み誰を糾弾すべきか、どうやってこの内戦に決着をつけるかでありその内実に関してはアリルフィーラは一切興味がない。


「暗殺に関してのことはアリルフィーラよりも私のほうがよく知っている。そのことに関して暴き出したのは私なので」

「ふん……冒険者の言を信用しろと?」

「誰であれば信用できると? まあそういう話はいいでしょう。私は議論をしに来たわけではない。アリルフィーラの暗殺、およびその後に行おうとした暗殺に関しても含めてすべてを糾弾しに来たのです」

「その後……?」

「皇宮に潜んでいた暗殺者、そしていろいろと探っていた私を襲った暗殺者。それらを捕らえた。そしてその彼らの所属する組織も丸ごと。まあ手に入れた情報に関しては秘匿せざるをえませんが」

「なっ!? そんなことが可能なのか!」

「……暗殺者の所属する組織を丸ごと捕らえるだと? さすがにそれは信じられないな」


 暗殺者組織をつぶしその全てを捕らえる……普通はまず無理だと判断するものだろう。


「細かい話は置いておく。得た情報の内容に関しては伏せざるを得ないが、それで得た情報、以前の暗殺のときに得た情報、様々な情報から考え糾弾するべきは今この場に存在する。誰が行ったかを厳密にいえばそれは糾弾するべき本人ではないだろう。暗殺依頼を本人がのこのこ出向いてやるなんてことをするのは流石に愚かに過ぎる。するのであれば部下に頼みさらに使い捨てにしてもいいような人員を送る、情報は可能な限り与えず依頼だけをする、それが一番だろう…………ああ、余計な話になるな。そういった雑多な話をしていても長い無駄話になる」

「……そうだな。ここで無駄に話を続けても仕方がない」

「継承権争いは途中だ。それを早く再開するべきだな」

「その継承権争いに終止符を打つことになりかねないんだけどな? なあ、第二皇子、フォルグレイス・ルハーティン・アルハーティア?」

「……冒険者。敬称をつけて私の名を呼ぶがいい。そしてなぜ私にそれを言うのだ?」

「アリルフィーラの暗殺を目論んだのはあんただからだよ」

「…………ふん。証拠もなしに言われても困るな」


 公也がフォルグレイスがアリルフィーラの暗殺を目論んだ、そう指摘する。しかしそれにフォルグレイスは怒るでもなく冷静に言葉を返す。もっともフォルグレイスの周囲、その他現場にいる兵士であったり、またディーレストの方もその言葉に驚き若干騒がしい状況になっている。


「そうだな。今のところ暗殺組織の人間の言葉以上の証拠はない。その証言もどこまで信用できるかに関しては疑問だ」

「そうだろう。私が目論んだ、という形に誰かが誘導した可能性だってある」

「可能性としては、だがな。だが今回の内戦も発端は第二皇子、あんただ。仮に……アリルフィーラが暗殺されていた場合、今回は暗殺はされていないがされていた場合、それはどういう形で波及したか……」

「…………どういう意味だ?」

「アリルフィーラが暗殺された。原因は? やったのは誰か、どこか。そしてそれを依頼したのは誰か? もし皇族の関与があったのならば、疑われるのは誰か。いや、それを理由に、その責を押し付けて糾弾することもできる。だがそれはできなかった。上の人間を押しのけることはできず、だから継承権争いを起こし皇位を取ろうとした」

「ふざけた物言いだ。私を侮辱するつもりか?」

「可能性、という点ではありえるし考えられることだろう?」


 フォルグレイスがアリルフィーラを暗殺し、その証拠をディーレストあるいはディレースとの派閥の貴族に押し付ける。それによるディーレストによるアリルフィーラの暗殺であるということにしての第一位の継承者の糾弾。もしこれが上手くいけばディーレストの立場は落ちてフォルグレイスが暫定の第一位となる。しかしそれはできず。今回の内戦に関してはフォルグレイスの方から言い出したことである。こう考えると彼が怪しいというのはないとは言えない。もっともそれを言い出すと第三位以下も可能性はあるし第一位のディーレストも可能性はないとは言えない。誰しもが怪しいと言える。


「それは可能性でしかない。私以外が目論んだ可能性もある」

「そうだな。ただ一つ聞かせてほしい」


 公也が視線を向けている。その視線を誰も追うことはできない。だからわからない。それがフォルグレイスの陣営の側、何もないはずの場所に向けられているということを。そこに存在する見えない何か、魔力によって見えなくされた何かに視線を向けているということを。


「なぜあんたはアリルフィーラの暗殺をしようとした? その理由がわからない」


 先ほどからフォルグレイスは自分が暗殺をしたわけではないと否定している。まあこれはどちらであっても否定するのは当たり前だろう。暗殺を目論んだ人間が自分が暗殺者に暗殺を依頼したと素直に話すはずがない。そうすれば立場を落とすどころか皇位継承権そのものを失う可能性もある。内戦中に戦闘中の相手を暗殺するならばまだしも、普通の時、有事でもないなんでもない時に暗殺者を送り込む……それも皇位継承権で言えば低い人間であり、さらに言えば妹、身内である。一方的に立場の低い身内を殺す皇王を民は望むだろうか。誠実に、正義をなし、民にとってより良い王を、普通はそういうことになる。仮にそれでうまくいっても民の王への心証は良くないだろう。まあ後で挽回することは不可能ではないしそれで皇王を糾弾できる、その座から引きずり下ろせるかと言えばそうでもないわけである。それに王である以上そういったことを行うこともないわけではない。決してそれはやってはいけないことではない。善であるとは言えず、悪であると言えるようなことであるとしても。国のために必要に迫らせそういったことをせざるを得ないこともある。

 まあ、そういう話はいい。公也のように問うたところで話すような馬鹿はいない。ただしそれは普通ならば。正常ならば。


「アリルフィーラが嫌いだからだ。アリルフィーラのやっている民への施し、民の前に出ていく行為がな」

「……フォルグレイス?」

「フォルグレイス様!? 何を言っているのですか?」


 フォルグレイスはアリルフィーラの暗殺の理由、それを問うた公也に対しその理由を返答した……少なくとも、それはそのように思える内容であった。そしてそれは暗殺をしようとしたということを認めた……まあ理由を言っているのだから認めたと考えていい、そういう状況へとフォルグレイスの言葉で場が変化した。


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