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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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 アリルフィーラの部屋。公也が今回の件についてわかったことを報告しに来ている。しかしその状況の中アリルフィーラの世話役であるメイド三姉妹は戦々恐々で公也から離れてしまっている。その状態でいざというときアリルフィーラを守れるのだろうか。まあ公也がアリルフィーラを害することはない。そうするつもりならばわざわざ皇都までは連れてきていないだろう。彼女たちが公也に……公也とヴィローサに戦々恐々としている理由はやはり毒の存在。アリルフィーラの部屋で実験中の惨状こそ目にしてはいないものの、暗殺者からの尋問、話を聞く機会においては彼女たちも参加している。その時にヴィローサの毒を知り恐怖している。まあ自分が隠したいと思っていることをあっさりと全て暴露してしまう毒など貴族などの権力者ではない一般人ですらも恐怖したくなるものだろう。誰にだって隠したいこと、秘密にしたいことの一つや二つはあって然るべきなのだから。


「そうですか……フォルグレイスお兄様が……」

「第二皇子と第一皇子に関して聞いても?」

「はい。この国の第一皇子はディーレストお兄様、第二皇子はフォルグレイスお兄様です。お二人とも私と仲が悪いということもなく、私を暗殺しようと考えるなんてとても思えないのですが……」


 ハーティア皇国の第一皇子、ディーレスト・フォルナート・アルハーティア。その弟で第二皇子のフォルグレイス・ルハーティン・アルハーティア。この二人に関してはアリルフィーラもそれなりに世話になっている兄である。そもそもアリルフィーラは末の子でありそれなりに他の兄姉とは仲良くやっていた。特別嫌われるようなことはなく、最低でも仲はいいといえる間柄を維持できていた。それには単純にアリルフィーラの精神性というよりはむしろ彼女が皇位に手を伸ばすような様子が一切ないというのも大きかっただろう。継承権最低位で上を目指すようなこともせず、皇位関連では大人しくしていたアリルフィーラは特に他の皇族と争うような理由がない。

 だが暗殺騒動が起き、また今回も暗殺者を捕らえ、さらにそこから聞いた情報ではアリルフィーラの暗殺の依頼は第二皇子派閥からの者であったという話である。第二皇子が直接依頼したわけではないが第二皇子の思惑、意図が絡んでいるのは間違いないと思われる。少なくとも身内であり皇族であるアリルフィーラの暗殺を下の人間が勝手に行ったとは考えづらい。仮に行うにしてもアリルフィーラを対象にしたものであるというのは少々疑問が出るだろう。第一皇子ならばともかく、アリルフィーラは暗殺して消しても皇位を得るうえでは意味としてはあまりない。まあアリルフィーラの人気の問題もあったかもしれないのでそのあたりは何とも言えないところである。影響力という点では決して低くないので暗殺はあり得ないとは言えないが……しかしそれでも少し考え辛いだろう。


「理由までは流石にわからない。だがまあ、それは本人に聞くのが一番だ」

「……お兄様にですか?」

「ああ。直接、内戦の現場で語ってもらおう」

「キイ様、行くの?」

「そのつもりだ……アリルフィーラの方は内戦の場に出向く準備はいいか?」

「え……あ、はい、一応は」


 これまでアリルフィーラも内戦の場に出向く準備自体はしていた。もっともその準備もあまりしっかりとしたものではない。暗殺者がいたりしてドタバタしたり、そもそもまだ皇宮にきて少ししか経っていない。母親の方にあいさつに出向いたり、手続きの問題だったり、あるいは彼女がやるべき仕事などの問題があったり。その間にメイドの方であちこちに連絡して準備したりはしていた。


「キミヤ様。確かに準備はしましたが……アリルフィーラ様を戦場に出向かせるには少々安全の問題が」

「どういうことだ?」

「貴族は第一皇子か第二皇子の派閥について内戦の戦場に出向いています。日和見の貴族もいますがそれでもすぐに連絡がつくわけではありません」

「兵士を揃えずして戦場には出向けないということです。今皇宮にいる兵士は皇都の守り、皇王の兵であり動かすことはできません。キミヤ様一人でアリルフィーラ様を守れるわけでもたくさんの兵を相手に戦えるわけではないでしょう?」


 実は公也一人で内戦の場に出向き全兵員を殲滅できる……ヴィローサでも同様のことをやれなくもないといったら彼女たちはどう思うだろうか。まあまず信じられないというほうが先に来るだろう。それほどまでに公也達は常識外である。


「……俺だけではダメだと?」

「不安です」

「ダメに決まっています」

「……キミヤ様だけでは流石に」

「そうか……」

「キミヤ様の強さは私はよく知っています……私は信頼しています。でも、キミヤ様一人では負担も大きいですし、私を守ることに集中するのであれば他のことはし辛くなります。他の兵員、戦力がなければ戦場に出向いても……」

「それは確かにありそうだな」

「別にキイ様なら魔法で完璧に守ることはできるよね?」

「できなくはない。だが……示威戦力もあった方がいいかなと思う」

「示威戦力?」


 公也は自分一人で出向いてもアリルフィーラを守ることはできるだろうと思っている。かなり面倒は多いし手間もあるができなくはない。しかしそれではアリルフィーラの姿、威容がない。今回の戦いは公也の戦いではなくアリルフィーラの戦いだ。戦場においてアリルフィーラの意見を通すにはアリルフィーラ自身が大きく姿を見せなければならない。自分の派閥の兵士をまとめ戦場に出る。そういう形で二人の皇子は己の強さを示している。仮にアリルフィーラが一人で戦場にその身を曝け出したとして誰が彼女の意見を聞くだろうか。戦力もないただの小娘の意見を聞くほど二人の皇子も甘くはないだろう。

 ゆえにアリルフィーラが戦場に出向く上である程度己の身を立てるための戦力がいる。公也でも戦力としては十分であるが、それは公也の実力を示さなければわからない。そして公也が実力を示してもやはりアリルフィーラ自身の身は立てづらい。いや、公也はアリルフィーラの見方をしている以上彼女の戦力ではあるが……公也一人とアリルフィーラ一人、というのはやはり目立たないというか。たった二人で戦場にいるのはどうにも雰囲気的に微妙である。


「ああ。見せ札、明らかにこれは強大な戦力だなとわかるのがアリルフィーラの側にあればいい。さらに言えば実際の戦力としても十分、アリルフィーラを守れるものだとなおいい」

「そんなものがあれば苦労しません! ないから問題なのでしょう!」

「今の皇都にはそんな戦力はありません。さっきも言いましたが……」

「ああ、それに関してはそちらを頼るつもりはない」

「……どういうことでしょう?」

「俺の方で準備をする」


 皇都、皇宮には内戦に向かわせるような戦力はない。であればどうするか。単純な話である。自分で準備をすればいい。


「キミヤ様の方で準備ですか?」

「今からでは時間がかかるのではないでしょうか? キミヤ様の治める地はここ皇都よりはるか遠くでしょう?」

「ああ、連絡はすぐにつくし……あいつはワイバーンよりも移動力高いし速いからな。すぐに来るだろう」

「……あー」

「ただ、一応皇都には伝達してほしい。竜が飛んでくるだろうから手は出さないでくれ、と」

「は?」

「……竜?」

「……竜、ですか?」

「……もしかしてメルさんですか?」

「ああ。メルシーネにこっちに来てもらう。メルがいればアリルフィーラの安全もしっかり守れるだろうからな」


 今回お留守番として残されたメルシーネを呼び出して皇都まで来てもらう、それが公也の考えたアリルフィーラ側の示威戦力の示し方。そしてアリルフィーラを守る手立てでもある。まあ公也だけでも十分そうであるがメルシーネがいればさらに十分と言えるだろう。


※戦場に移動するまでの時間、戦場における安全性。守る人間も碌にいないのにつれていくのは危険。また見かけ上の戦力の問題、威嚇になるような戦力がないのはそれはそれで問題。

※出番はない予定だったけど急遽出張ることになったメルシーネ。

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