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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
267/1638

22



「とりあえず、まずなぜ俺を狙ったか話してもらえるかな?」

「………………」


 暗殺者は無言である。特に何かを話すようなことはしない。


「まず指一本」

「……………………っ」


 無言を貫く暗殺者に対し公也は容赦なく指を折る。拷問してでも知っていることを吐かせようという魂胆である。割と容赦がないが、そもそも相手は公也の命を狙ってきた。まず心臓を貫かれているわけである。公也が意図的に自分を殺しに来るように誘導したとはいえ、抵抗せずに攻撃を受けたうえで捕まえたとはいえ、やはり一度殺された……まあ死んではいないが普通なら殺されているということは事実である。自分を殺した相手に容赦などする必要はない。死ななくとも公也だって心臓を貫かれれば痛いのである。その恨みを晴らす意味も込めて容赦なく話を聞きだすつもりである。

 しかし暗殺者は何も話さない。このまま進めば待っているのは確実な拷問だ。公也の場合通常の治癒魔法という傷が癒えるのに拷問にできる手法もある。自分を殺そうとした人間相手に容赦をする人間もいないだろう。暗殺者は何も言わなければ確実に殺されるくらいに苦しいやり方で問い詰められる。それを理解できても暗殺者は自分から話すことはしない。


「二本」

「………………!」

「話す気はないか?」

「………………」

「……黙っていても何も変わらないぞ? 治癒魔法もある。折った指を直してからもう一度、というのもできる」

「…………っ!」


 公也の言葉に暗殺者も戦慄する。拷問の手法において治癒魔法を利用した無限の苦痛……直して壊すの繰り返しだけでなく、治癒魔法すらも普通ならば拷問になり得るということは知っている。普通なら、これが一般的な兵士、捕虜の類ならば口を割ってもおかしくはない。だが暗殺者は口を割ることはない。


「………………」

「何も言わないのか…………」


 容赦なく指を折っていく公也であるが、暗殺者は何も言うことはしない。指を折る以外の苦痛を与える手段も知ってはいる。しかし指を折る、治癒魔法を使う、後者はまだ実行していないがそれを徐々に実行に移している状態でも暗殺者は特に何も言おうとはしない。頑なに黙っている、黙ろうとしている、そんな様子である。

 暗殺者は自分たちのことを語らない。自分の組織に関して、依頼主に関して、身の上だって基本的には語らない。まあこのあたりのことに関しては暗殺者組織の実態であったり、その暗殺者自身の性格や学んできた内容であったり、そもそもそういうおきてがあるかどうかの問題もあるだろう。しかし大体の暗殺者組織は己の組織の抱える暗殺者に対してそういった矜持をしっかりと教え込んでいるのである。理由としては暗殺者組織が裏の組織、それも暗殺という裏組織の行う悪事でもかなりの悪事を行うが故。暗殺者を抱える人間と言えば下の人間ではなく上の人間、秘密を話しては欲しくないしそもそもその存在自体が漏れてほしくないわけである。仮にどこかに属していなくともやはり暗殺組織は後ろ暗い者。組織の人間が口が軽いとなればまず依頼が来ることはないし積極的に潰そうとしてくるだろう。誰だって殺される危険は排除したい。暗殺される側の人間は基本的にそれだけの立場のある人間でありそんな人間だからこそ潰すことに積極的だろう。ゆえに、確実に暗殺は行うし情報は漏らさない、そんな組織でなければ生き残りにくい。少なくとも情報を漏らさないことは絶対だ。

 それでも漏らす者がいないわけではない。命のほうが大事、苦痛を味わいたくないと漏らしたがる暗殺者だっているだろう。暗殺者だって一応は人の子、死にたくはない。だがそれこそ、暗殺組織は許さない。暗殺者で情報を漏らす者は確実にその者が所属する暗殺組織が殺しに行く。暗殺者が生き残る術はその暗殺組織を叩き潰すくらいだが、それができるならば苦労はしない。暗殺者とて簡単に殺されるほど弱いわけではない。そんな人間なら暗殺者にはなれないだろう。


「話す気はないか?」

「………………」

「話さなければ殺すとしても、話すつもりはないか?」

「…………口を割れば殺される。お前ではなく、我らの組織に。ゆえに我等は口を閉ざす。すべての情報を秘す」

「……なるほど」


 暗殺者は公也に情報を話すつもりはない。たとえ何があっても、殺されたとしても話さない。話せば結局殺される。どれだけ苦痛を伴おうとも、生きていれば彼の組織が彼を救うかもしれない。あるいは公也が別の暗殺者に暗殺され殺されればそれをきっかけに逃げることもできるかもしれない。どちらにしても彼は公也につかまった時点で死を覚悟するしかない状態にあるといっていい。そして依頼を受け敵として殺しに来た相手に捕まったから情報を漏らす、などと言うのはこんな仕事をしている彼の矜持に引っかかるもの。後ろ暗い仕事であるとしてもなんだかんだで彼もひとかどの暗殺者。公也に話すようなことはしない。


「……まあ、暗殺者が自分たちのことを話さない、依頼人とか組織のことを秘密にするっていうのはよくある話だしな」

「………………?」

「言わないというのなら仕方がない」


 公也としても人を痛めつけるというのは趣味ではない。殺し殺されはある意味で仕方のないことであるが別に拷問して楽しむ趣味があるわけでもない。戦うということに関して楽しむところがないとは言わないが、望んで相手を殺すことを喜ぶというわけでもない。そもそも戦いはしたいが殺しをしたいわけでもない。結構いろいろとあれなところはあるがなんだかんだで公也の感性は普通である。一部異常なところはあるが人間性は比較的普通……なはずである。


「知識を貰おう」

「な」


 相手を殺す趣味はない。しかし必要なら、自分の欲、求めのためならば。躊躇なく相手を殺す。いや、正確に言えば殺すことは手段に過ぎない。殺すことを目的とした殺しをすると言うわけではない。過程として必要だから行うにすぎない。もっともそれによって行われることは相手の知識を得る……相手の脳、相手の存在、それを食らうことによりその中に存在する知識を吸収し必要なものを抽出し自分の知識として取り入れる。ある意味ではただ殺すよりも遥かに恐ろしいことをしていると言えるのだが……まあ公也にとってはその内容の異常よりも知識の収集のほうが優先である。ある意味で倫理観、感性、精神がおかしいのだが、そういう一部以外は割と普通なのでよく知らない相手は比較的常識人に見えるのである。


「…………ふむ。そこまで詳しいことは知らないか。まあ暗殺しに来るのが事情を知る上の方であるというわけでもないだろうし」


 残念ながら公也を襲った暗殺者はそこまで細かい事情を知っているわけではないらしい。まあ暗殺に出向く人間がそこまで知っていればもしかしたら情報を奪われるかも、と考え必要以上のことを教えないということはあるかもしれない。もちろん上の人間が暗殺をしに来る可能性もないわけではないが、公也の暗殺はそこまで重要視されなかった可能性もある。優先度合としては公也よりもアリルフィーラのほうが高いだろう。

 もっとも公也の得る情報は暗殺の依頼の側に関係するものだけではない。暗殺者組織、その場所がどこにあるか、どのような構成員か。公也を襲った暗殺者に誰が命令を出したのか、そもそも組織のトップは誰なのか。普通ならば暗殺組織の構成員が話すことがあり得ない内容を知ることができる。ある意味では依頼人などの情報よりもはるかに重要なものだ。


「さて、とりあえず潰しに行きますか」


 依頼主を暗殺者が知らずとも、その組織のトップは知っているだろう。そもそも暗殺しに来るような輩を生かしておくと面倒になりかねない。すべて潰す。仮に今食らった暗殺者が知りえないとしても関係者を全員食らっていけば暗殺組織の構成員全ての情報を知りえることができる。構成員全てを食らい暗殺組織そのものをつぶせば先の憂いも消せるし重要な情報も得られるだろう。あるいは彼らそのものを生かして連れて行きそこから犯人を吐いてもらうということができるかもしれない……まあそこまで信じられるかは怪しいが、そういう手法もできる。などといろいろと考え行動に移すのであった。


※治癒魔法の使い方は治癒よりも拷問の方が多いらしい。

※暗殺者にだって組織の後ろ盾くらいある。ついでにその後ろ盾も場合によってはある。権力者が利用することも多いので。

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