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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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15



 皇王の言葉にざわざわと謁見している場の空気が変化する。公也の立場、キアラートの貴族であるという事実。そのことに関して事前に気付けるものもわずかながらいたが、皇王の言葉にてそうであることを理解したものも多い。言葉回し的に完全に公也の立場を断言はしていないため一部はこの場にいても理解できなかった者もいるが、現在のざわざわとした状況のそれぞれの言葉、話を拾えば理解が及ぶ。


「……その通りです。こちらからではそちらへ連絡するのは難しい。一応私も立場がありますゆえ」

「アリルフィーラのことに関してはキアラートの総意か?」

「いいえ。私が旅の途中個人で出会い、頼みを引き受けたにすぎません」


 視線が厳しいものとなっている。まあ他国からの干渉を受けていると考えるのであればそうもなる。公也は他国に出た場合は貴族ではない、という扱いにはなっているが、それでもそれを他国が了承し認識しているわけでもない。アリルフィーラがアンデルク城に行ったのはアリルフィーラからの頼みである。しかしそれは事前にアリルフィーラと口裏を合わせればそうであるという事実にできることでもある。実際その場で何が起きたのか、本当に本人の意思によるものなのか。そこはわからない。ゆえに皇王の視線は厳しいのである。


「私はキアラートにおいては貴族として扱われる、しかし他国においてはその限りではない。国元でそのように扱う様に采配されています」

「その話は聞き及んではいる。しかしそれで納得できるわけでもあるまい。アリルフィーラの言ったことがすべて正しいとも限らぬであろう。アリルフィーラが其方の言うことを聞くと言うのであれば事前にどうするかを決めておけばいいだけのこと」

「お父様!」

「ここでは皇王である。アリルフィーラ、立場を弁えよ」

「…………」


 皇王の物言いについ口に出た言葉を窘められる。言っていることはわからなくもないことだろう。だが結局それは皇王の推測でもある。可能性があり得るというのであればアリルフィーラの語ったことも事実としてあり得る。そもそもそう思ったというのであれば話を聞く意味すらない。一方的に決めつけ捕らえるなりすればいいだけのことだ。


「……………………」

「……………………」


 ピリピリと場の空気が変化する。何時でも動けるような警戒、そんな雰囲気へと。


「皇王陛下」

「……なんだ?」

「話を聞くつもりがないのなら、私たちはこの場を去ってもよろしいでしょうか?」

「アリルフィーラ。其方は私の娘、ハーティアの皇族の一人だ。そのような勝手は許されぬ」

「私はキミヤ様に助けてもらった身です。それを私のわがままで皇国まで連れてきてもらいました。そのうえで皇王陛下に会ったため罰される、というのであれば私自身許せることではありません。私が皇族に籍を置くゆえにそう仰るのであれば、正式に皇族の中から私の名を消してもらってもいいでしょうか? 私は死んだ、もうこの世にはいない。もとより行方不明という身でどうなっているかもわからないのでしたからそうなったところでも構わないでしょう」


 敵意の籠った眼でアリルフィーラは皇王を見つめる。流石にこれには皇王も少し驚いた様子を見せる……まあ気付けるものは少ない。


「…………そこまで言うのか」

「はい」

「まったく…………キミヤよ。流石に今回は私も言い過ぎであったと認めよう。だがこちらから謝罪することはせぬ。其方がアリルフィーラを連れてこの国を出て今まで他国にて匿っていたことは事実である。アリルフィーラは私の娘、この国の頂点たる者の一族である。末子であると言え、皇位継承権を持つ。その血を狙い攫おうと画策するものもいるだろう。其方の行動は其方がそういった者であるとみられても仕方のない話である。それを心得よ」

「わかっています……皇王陛下の温情に感謝を」

「うむ」


 未だに周囲はざわざわとしているものの、若干空気は和らいだ。


「……詳しい話に関しては我等で話し合おう」


 そう言って皇王は立ち上がる。


「アリルフィーラ、それにキミヤよ。今回の謁見に関してはこれにて終了とする。公的な形での対話はこれで終わりだ。だが今後、アリルフィーラについての話もある。後でまた私を含め詳しい話ができる者と共に話し合おうぞ」

「わかりました」

「アンデール卿を客室へと案内せよ! アリルフィーラは一度私についてまいれ」

「……キミヤ様」

「行ってこい。ヴィラを付いていかせる……いいよな?」

「ええ。ところで私は話に入っていかなかったけどいいの?」

「いいんだ」


 ヴィローサが下手に話し合いに入った場合、洒落にならない喧嘩を吹っ掛けることになりかねない話し合いだった。ぶっちゃけ公也に喧嘩を吹っ掛けようとしている時点でヴィローサは確実に反発する。事前に完全に話に入らず黙っている形にしたのはヴィローサの暴走を抑えるためである……まあヴィローサも公也の判断、行動に信頼を置いていたのでそこまで大きな反抗はなかったかもしれない。ヴィローサは公也も決して敵対者には甘いわけではないことを知っている。


「いいのですか?」

「俺よりもアリルフィーラの安全のほうが優先だ」

「……わかりました」


 一応アリルフィーラは暗殺されかかったという事実がある。しかもそれはおそらく皇族関係者からの依頼によるもの。一人で行かせて暗殺されたとなってしまったら公也も彼女を連れてきた意味はない。そうなった時マジギレするだろう。皇都が消えかねない。そうわかっているのでヴィローサをつけていざというときの安全を図る……まあアリルフィーラについては後で公也も一緒に話をすることになる。そもそも公也は今回アリルフィーラの供として、協力者として行動している。そうである以上今後のアリルフィーラの行動に関わる立場である。離されても困るのである。ヴィローサをつけるのはその一環でもあるだろう。

 そういうことであり、一時的にアリルフィーラとヴィローサは公也と離れ行動することになった。公也もまた皇宮を案内され、一時的に来客用の部屋へと通される。なおとりあえず今後どうするか、アリルフィーラが何をするかが決まり行動に移るまではしばらくそこに滞在することになるだろうと思われる。


※アリルフィーラの件はある意味では皇国とキアラートの問題に発展する可能性のある事案。まあそもそも主人公一応貴族の立場だしそうなってもおかしくはない。

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