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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
258/1638

13



「お、王! 大変重要なご報告があります!」

「……ふむ。此度の継承権争いに関してのものか?」


 皇王の仕事中、それなりの地位の文官と思われる者が執務室に入る。


「い、いえ」

「では一体何事か? 他国からの侵略か?」

「そうでもありません。いえ、重要なことですが、今回の件とは関係のないことなのです。ですがとても重要なことで……」

「はっきりと内容を告げよ。重要だ重要だといってもその中身がわからなければ意味がないであろう」


 何度も重要だ、といって中身が話されないのではわからないままである。その中身を告げて理解を促さなければ話は進まない。何も言わずに理解できるなど心の読めるものでもなければできない。そう言われ入ってきた文官は本題に入る。


「は、はい……それが、これが届いたのですが……」

「書簡? いや、文か。誰からのものだ?」

「それが…………印からすると、アリルフィーラ様から届いたものであると」

「なに? アリルフィーラからだと?」


 反応は静かながらも、皇王はかなり驚いた様子を見せる。今まで行方不明であった娘からのものだから当然だろう。


「アリルフィーラはどこに?」

「い、いえ、これが届いたのは兵士に届けられたものが回ってきたからで……兵士もアリルフィーラ様の皇女の証の印までは知りえないので本当にただ受け取っただけなようで。これを届けたのは冒険者らしき男であると……」

「ふむ。少なくともアリルフィーラの皇女の証をその男が持っている、あるいはそれを使える状況にあるということか……文の内容については?」

「まだ、中身を検分しておりません」

「今すぐその中身を確認せよ。ああ、何か仕込みがしてある可能性もある。念のため毒や魔法の危険を精査してから確認せよ」

「はい!」




「それでどうだった?」

「はい。文はおそらくですが、アリルフィーラ様が書いたものであると。手紙の最後に封と同じ印が記されていました」

「筆跡を調べたか。ふむ、少なくともアリルフィーラが健在である……ということを示したいということか?」

「……実は文を調べたところ、少し前に……本日書かれたものであるということがわかりました」

「なんと。今日書かれたということか……つまりこの手紙を書き、すぐに出せる位置にアリルフィーラがいるということではないか?」

「そうなります」


 アリルフィーラの書いた手紙が出されたのは今日。またその手紙が書かれたのは今日。つまりアリルフィーラがいる場所は手紙を書いてすぐにその手紙を出せる位置であるということになる。この皇都周辺のどこか……いや、出された時間まで加味すればかなり近い場所、それこそこの皇都内にいるのではと思われるくらいである。


「……その男について調べることは?」

「いえ、この手紙を出した後すぐに去っていったようで……」

「無理か。いや、調べようと思えば今すぐにでも…………いや、流石に今からでは夜になろう。であれば明日、ということになるか。そういえば文の内容は如何様なものであったか?」


 まずは調査をする……という前に、そもそも文の内容の方を確認していない。その内容がどのようなものであるかで今後の行動は変わるだろう。彼女の現状が記されているのか、それともただ生存報告だけをしたいのか。あるいはもっと別の何か、意図あるのか。


「それが……明日、王にお会いしたいと」

「なに?」

「まずこの皇国へ帰還と生存の報告をしたい、と。詳しい話はそれからしたいと」

「…………ふむ」


 大雑把ながらも内容の要約、明日皇王と会見し話をしたい、という言葉に対し皇王は考える。


「……今この時に話をしたい、か」

「…………」

「明日と言ったな? ただ皇宮に訪れるというわけではあるまい」

「馬車に乗り、今日あの手紙を持ってきた者と共に皇宮に向かうと書いてありました」

「なるほど。その者の入れ知恵か? 少なくともアリルフィーラ単独で考えたものとは思えぬしな」

「……皇王、お会いになるつもりでしょうか?」

「娘が戻ってきたのだ。無事を確認せねば安心できぬ。そも、本当にその者が我が娘であるかの確認も必要であろう。皇女の証を持っていればアリルフィーラであると断定できるものではない。それに娘の側に何者かわからぬ存在がいるのだ。本当に娘が戻ってくるのであれば、その共にいる男も如何様な者か判断せねばならぬ。私が見定める必要はないやもしれぬが、相応に目の良いものでなければわからぬこともあろう」

「ですが……」

「なに、その者が如何に危険分子であろうとも今の状況であるならば話も違ってこよう。仮に私がその者に討たれようとも継承権争いの真っ最中である我が子らが決着をつければそのものが皇位を継承するのだ。多少の危険があろうともそこまで大きな問題にはならぬ。もっとも私も無為に討たれるつもりはない。当然兵らを配しその者らが蛮行に走らぬよう気を付けて然るべきではあるがな」


 皇王の思考において現時点でアリルフィーラを連れてこの皇都にきて皇王に会う、という目的に関してはいくらかの可能性を考えられる。

 一つは皇王を討つこと。そのためにアリルフィーラを餌とすること。可能性としては低いしどれほどの意味があるかはわからないが、今の皇都における兵数、貴族、皇族関係者などは少なくなっている。皇王を守るために残っている物は多いがそれでも平常よりは少ない。数が少ない今ならば討つこともできる……まあ、継承権争いの最中であるためそれほど意味を持つかと言えば怪しいところである。

 一つはアリルフィーラの皇族への復帰、そこから皇位継承権争いに参加すること。アリルフィーラを誑し込むことで皇位継承させこの皇国における実験を得る。アリルフィーラがいなくなった時に一番考えられたことである。アリルフィーラ、皇族で皇位継承権を持つ人間を誘拐する理由などそういった目的が可能性としては高いほうにある。まあアリルフィーラがいなくなることにおける利があるものは決して少なくない。またアリルフィーラ自体の皇族としての価値ではなく、その血筋、立場、容姿などを目的に誰かに供する、あるいは売り払うなども考えられていたが。今回わざわざ皇都に来ることになったことを考えるとそういうわけではないだろう。やはり皇位継承権に関わるつもりである可能性が高い。

 一つは単純にアリルフィーラを皇都に戻しに来た……つまりは拾った彼女を元の家に帰す、ということ。可能性としては一番低い。そもそもアリルフィーラが今までどこにいたのかもわかっていない。ゆえに可能性としては低い……が、アリルフィーラの書いた手紙、しかも今日書かれた手紙を持ってこられたということは別に悪い扱いではない可能性がある。また内容を検分すればわかるがそれほど扱いが悪くないし、そもそもわざわざ皇宮に馬車で訪れるという話だ。それを持ってきた男が冒険者らしい、ということからどこかでアリルフィーラを見つけ連れて戻しに来た……と考えられなくもない。とはいえ、やはり可能性は低い。


「わかりました。では謁見の準備をしておいたほうがよろしいでしょうか?」

「うむ。明日の仕事に関してだが……」

「わかっています。入っていた予定のいくつかを中止、謁見の際にいるべき人員の予定も調整が必要ですね」

「頼む。少々忙しくなるな……」

「ただでさえ内戦中ですから仕方のないことですが……」


 内戦中は皇宮に人がいない。貴族も皇族もその多くが皇位継承権争いで出払っている。その分必要な仕事も少なくなるが、同時に仕事をする人間も減るので結果的に仕事量が増える。


「まさかこれを狙ってきたのではあるまいな……」

「それこそまさかでしょう。あちらがこちらの状況を把握しているとは思えませんので」

「それもそうだな」


 変に邪推する皇王であった。まあそうしたくなる程度には仕事が多いのだろう……謁見の準備にその間仕事ができないで余計に増えるというのもあるし。



※別に殺されても大きな問題にはならない、と言っているがそんなことはないと思う。まあ皇位を継ぐのが誰かは明確に決まっているのでその点で争いにはならないかもしれない。

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