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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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12


 そうして公也たちの皇国内の移動は順調に進み…………割とあっさり皇都に到着する。


「とりあえず……一度宿をとるか?」

「え? すぐに皇宮に行くんじゃないの?」


 せっかく皇都についたのだからすぐにアリルフィーラを連れて皇宮へ。そう思ったのだが、どうやら公也の判断は違う様だ。


「アリルフィーラ…………いや、念のためリルフィと呼ぶがいいな?」

「はい。そもそも私のことはリルフィと気安く読んでも構いません」

「今はとりあえずリルフィが皇女だとわかりづらくするように愛称で呼ぶ。公の場ではさすがに普通に名前で呼ぶが」


 一応彼らのいる場所は皇都である。アリルフィーラと名前を出せばその名前を聞きつけアリルフィーラに視線が行きその正体に気が付くかもしれない。そうでなくともヴィローサがいる関係上周囲の人物よりも視線を集めやすいこともあり、アリルフィーラが目に付けばその正体に気付く可能性がないわけではない。まあリルフィの愛称も民と触れ合う機会の多かったことからそこからアリルフィーラの正体に行きつく可能性がないわけでもない。本名よりははるかにましであるというだけで。


「リルフィ、仮にいきなり皇宮に訪れたとして、皇王に会えるか?」

「……いえ、面会の目的やこちらの身分の証明など、手順はあります」

「ならリルフィの正体につながるものを見せた場合……皇女の証を見せたりすればすぐに会えるか?」

「……会う機会はすぐに作られると思います。ですが、証の確認もそれなりに準備がいりますし、お父様も……家族の皆もいろいろと忙しいでしょう。特に今は内戦中ですからここに残っているのはお父様方、継承権争いに関与しない人になると思います。ならばいくら私が訪れたとしても、すぐに会えるかと問われると難しいかもしれません」


 皇王はこの国における最高権力者である。いきなり会いたい、といって会えるような立場ではないだろう。他の皇族と面会しアリルフィーラである確認をしてから会うにしても、結局のところなんだかんだで手間はかかる。面会という時点で手続きなりなんなりいろいろとやることはある。事実確認だって必要だし皇女である証に関してもそれが本物かどうかの確認も必要だ。その準備、道具、確認を行うことのできる人物だってすぐに用意できるだろうか。特に今皇族は皇子皇女の方は継承権争いで忙しい。もしかしたら完全に継承権を放棄し残っている者もいるかもしれないが。父親以外の母親方もいると思われるが……そちらはそちらでまた扱いは面倒だろう。立場上、扱いの問題、色々とある。

 まあ、ともかくなんにしてもまずアポを取ることが重要である。事前にいつ会うことができるか、急を要することではあるが内戦をすぐに止めたいとしてもすぐに止められるものでもない。事前に準備なりなんなりして、そうしなければ止めに向かうのも難しい。アリルフィーラの現状の確認、行方不明から正式に生きていたとして皇族への復帰、そもそも今までどこにいたのか、何をしていたのか。アリルフィーラにもそうだが公也にも聞かなければいけない。場合によっては責任の追及すらあり得る。

 そういった準備以外にも、そもそも公也たちはここに来るまで結構な距離を旅してきた。いきなり旅着のまま会いたいといっても難しいだろう。行方不明の娘に早く会いたいという気持ちはあるかもしれないが皇王はこの国の最高位、相応に会うための場が必要である。皇宮にて着替えをできる可能性もあるが、そうではないかもしれない。念のためそれなりの服に着替えておいた方がいい。また疲れもある。旅の疲れ、ここまでの距離を移動してきた疲れ。馬車での移動とはいえ相当な苦労をしている。また馬車に関しても。預けておくのもいいが、馬車に乗って乗り込むことも考える必要があるのならばある程度見栄えは気にしたほうがいいかもしれない。簡単に変えることはできないがそのあたりは魔法で見た目だけ、ということはなんとでもなる。最悪馬車はしまって馬を売り、徒歩で出向くのも考える。

 諸々のことを考え、今すぐ皇宮に乗り込むことはしない。


「……なるほどー。人間って面倒くさいのね」

「そういうものだ。とりあえずまずリルフィの生存報告……見つけた、という報告をする」

「信じてもらえるでしょうか?」

「皇女の証だが、向こうに渡しても問題ないものか?」

「…………いえ。流石に手放して渡すわけにもいきません。キミヤ様が悪用するとは思ってはいませんが、手放していいものではありませんから」

「ふむ……ただの戯言として処理される可能性もあるか」


 アリルフィーラが生きている、それを見つけた。そういったことを皇宮に報告したいといっても、それをまじめに取り合ってくれるかは不明である。特に一冬越えてからの生存報告、行方不明になってから結構な月日がたっている。そもそも、行方不明ということがまた面倒くさい。殺されたわけでないとすればどう考えても誘拐なのである。


「供についていた者の装備などがあればよかったのですが……」

「身分証明になった可能性はあるな。残念ながら持ってきてはいないが」


 供についていた彼らの持ち物に関してはアリルフィーラの預かりになっていたが、まあ基本的に墓に一緒に埋葬したりで残されてはいない。アリルフィーラとしてはそもそも皇国に戻ってくるつもりはなかった。彼らの生きた証、その装備、持ち物は彼らとともにと埋めた。


「んー、何か他に証明手段はないの?」

「そう……ですね……手紙、とかはどうでしょう?」

「偽の手紙だと思われたりはしないか?」

「…………あ、そういえば。私の皇女の証であるものですが、これを印にできるのではないでしょうか。そのような使い方があると聞いたことがあります」

「………………封蝋とか判子みたいな形か? 確かにそういう使い方をする可能性はあるか」


 皇女の証であるものを使い印を押す。それがアリルフィーラのものであるという証明になる……かもしれない。


「まあ、とりあえず……面会の申し込みとその日程を書いたうえでリルフィの証で印をつけたうえで封蝋をして皇宮に提出、そのうえで明日会いに行く形にするか。ああ、リルフィの服装もちゃんとしたいいものに着替えたほうがいい。さすがにここまで旅をしてきた状態の服装はちょっとな」

「私はこれでもいいのですが……そうですね、皇宮に入るのですから仕方ないのでしょう」

「まああまりいい服は買えないが……それこそリルフィの生活状態を考えるとそこまでいい服を着せているほうが怪しまれるかもしれないし」


 アリルフィーラの正体を知った上での監禁、と思われては困る。本当にアリルフィーラをただ拾ってきただけであり、その正体を知り連れてきた、そういう感じのほうが好ましい。まあ相手方がどうとるか次第でもある。最終的にどういう形で向こうに会うことになるのかは今のところ分からない。最悪の場合アリルフィーラを無理やり奪還すると兵が襲ってくる可能性だってあるだろう。公也としては全力で抵抗するが、それはそれで今後困りかねない。できれば穏便に生きたいところである。

 とりあえずまず行動から。特に今回はアリルフィーラの行動が重要である。手紙、押印、封蝋、時間はさほどかからないが手間はかかる。服の準備もある。まだ余裕はあるが、それでも急いでやった方がいい。皇宮に提出するにしても。兵だって夕方提出されたものをその日に持ち込み、夜に中で見分とかは難しいだろう。この世界では夜も明かりを灯し仕事をするとか基本的にはないのだから。


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