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「…………しかし、アリルフィーラが表に出たり人に見られてもバレないんだな」
現在馬車に乗り移動中の公也、アリルフィーラ、ヴィローサ。本来アリルフィーラは皇国の皇女であるためその存在は知られているはずである。特に彼女の場合他の皇族と違って一般市民との関わりも大きかった。それゆえに普通ならバレても仕方がないと思われるところだ。しかし実際には全くアリルフィーラがアリルフィーラであると認識されない。むしろアリルフィーラよりも一緒にいるヴィローサのほうがはるかに目を引いているといえる。まあヴィローサは見た目が目立つ存在であるがゆえに目を引くのは仕方ないと思われるが。
「なんで?」
「なんでと言われても……ちょっと困ります」
正確になぜバレないかはアリルフィーラもわからない。しかし推測はできる。
「多分ですが、私が関わったことのある民といっても、あらゆるすべての民ではありません。街に移動するにしても大きな街、移動しやすい範囲であり全部の街をめぐるということはできていません。それに私の顔を正確に覚えている人ばかりではないでしょうし、今の私は当時とは全く印象が違うでしょう。皇国ではなくアンデルク城で過ごしていたこともありますし、身近なことは多くは自分でやって……」
「自分でしてたっけ?」
「結構リーリェやペティに任せてたよな。場合によっては雪奈がしてくれることもあったか?」
「そ、それなりに自分でやるようになりましたから。料理とかもしています。皇国にいたときはそういうことは全くしませんでした」
「皇女だからな。メイド、従者、召使い、執事、料理だってコックとかそういう人間がやるわけで……具体的に何か皇国にいたころにはしていたのか?」
「あまり…………何も…………一応皇女として必要なことは学んでいましたが、大分甘やかされていたとは思います……」
一番下の、確実に皇位継承できないような末妹であったためか、アリルフィーラはそれなりに甘やかされていた。彼女が暗殺される要因にはそんな彼女に対する妬みもあったかもしれない。ともかく、アリルフィーラはのんびり優雅に苦も無く皇族生活を過ごすことができていた。当時はそういうこともあって時々民のいるところに出向き触れ合いや施しをしたりすることもあったが、ほとんど何かをするようなこともない生活である。それゆえに甘やかされ皇女オーラと言うのがあったのだろう。実に皇族らしい人間、皇女っぽい女の子だ、そう思われる雰囲気があった。
しかし今はアンデルク城で時々家事をやる程度には城のことを手伝っているし、外に出向き畑仕事を簡単にしたりもしている。小さいながら自分の菜園を作ったりとか。そして今の彼女は皇族であったころよりも見た目でも雰囲気が違う。ある意味では彼女が皇女らしくあれたのは服装や周りの供の存在もあったと思われる。
「民の元に出向くときも兵や従者はいましたし、皇族の使う馬車を使ったりもしていましたし、服だってもっと綺麗で煌びやかで……」
「つまり今のアリルフィーラは皇族っぽくない、皇女と思われないような感じということか」
「…………そう、そうなのですね、ふふ」
少し嬉しそうにアリルフィーラは笑う。皇族としてみられないことが嬉しいのだろうか。
「……キイ様? これ大丈夫なの?」
「特に問題はないと思うが。まあ、アリルフィーラが皇女とバレないのは正直移動に面倒がなくてありがたくはある……だが皇都で皇王のいる場所にいる場合大丈夫か? アリルフィーラがアリルフィーラである、とわからないと入れない可能性が……」
「それは問題ありません。皇族である身分証明に関しての物は私自身が所有しています。あ、今も持っていますよ? これに関しては常に所有していないとダメなのでアンデルク城にいるときも持っていました」
常に身に着けている皇族であることの身分証明の物品。これだけは彼女がアンデルク城に行く際も常に持ち、アンデルク城でも常につけ続けている。なんだかんだで彼女は皇女であるという証明だけはできるようにしていたらしい。
「そうなのか。なら問題はないな」
「はい」
移動中にアリルフィーラのことに関してはそういう風に話し合いをしていた。
「しかし、馬車……風で押すべきか? 馬無しで操作をする手間が……」
「キイ様はどうやって動かしたいの?」
「行き先を自分で操作する、馬車自体の動きを自分で操作できるように、動力の加速減速を自力で調整できるように」
「消費する魔力は?」
「操作者が魔力消費を担うしかない。おそらくだが魔法じゃできないから魔法陣の使用になるが、燃料となるような魔力を確保する手段がなければそうなる」
「ふーん……」
「会話が、よくわからないのですが」
「魔法に関しての話だから。話に入りたかったら自分で学んできなさいな?」
「俺としてはヴィローサがある程度詳しくなっている方に驚きだけどな」
「こう見えても学んでいるんです。キイ様の話についていけるように! まだまだ知識は足りていないけどね」
馬車で移動しながら、公也は自動車の開発に関して思案する。実際に馬車で移動するからこそ、自力でどうにか操作できる自動車の可能性を考えたいと思う。まあ乗り心地が悪いというのもある。買った馬、買った馬車に問題がある。流石にそれなりのお金を得たとはいえ、安値での購入では質のいい馬に車は買えない。両方買うならば両方とも質は格段に落ちる。質のいい馬だけで馬車は自作、でもよかったが、結局どちらも購入した。購入した車はのちの車の作成に参考にするつもりである。いずれは自作して今よりもはるかにいい馬車を作るつもりである。
そして馬がいなくても動ける車、自動者の開発が最終目標だ。別に馬を買って、でもいいしそもそも自動車のようなものはワイバーンやメルシーネがいるので必要がある物でもないだろう。しかし空からいけない場所もあるかもしれないし、場合によってはメルシーネやワイバーンを使えない場面もあるかもしれない。そういう場合でも異空間にしまっておける馬車は使用の自由度合が高いだろう。
まあ、その開発がそもそも難問である。単純に車を動かすというだけならば魔法でもなんでも使えばできる。問題は自由に移動できる、移動の制御を行える、そういう点だ。特に操作と加速と減速の調整などは面倒が多い。魔法を使うにしても手間だろう。魔法陣の利用も考えるが消費する魔力の問題が出てくるしその機構の構築もまた難点が多い。
「………………わかりました。後で頑張ります」
「あ。ちっ、火点けちゃったか。やだなー。私やだなー」
「ヴィラ」
「はーい。魔法を使える人物が増えること、魔法の知識を持つ人間が増えることは悪いことじゃないものね。キイ様の役に立つ可能性もあるし」
アリルフィーラが公也の役に立つことがそんなに嫌いか。いや、それ自体はヴィローサは悪いとは思っていないが、アリルフィーラが重宝されるようになることは望ましくないというのが彼女の意見なのだろう。そこまでヴィローサはアリルフィーラが嫌いか。
※今のアリルフィーラには皇女オーラがないので皇女であるとは思われにくい。そのうえ周りに騎士やら従者やら、普通皇女についているだろうお付きがいないのも理由の一員。顔で覚えられている可能性もあるが直接関わった人間でもなければなかなか覚えてはいなさそうである。
※ヴィローサが魔法の話についていけるのはとある女性魔法使いの意思がバックについているため。




