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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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9



「珍しい生き物を捕まえて貴族に売る、ですか。冒険者はそういうこともするのですね」


 宿にて公也が今回の仕事とその成果に関しての報告をする。まあ仕事の成果と言っても正式な仕事ではない。そのうえ話を持ち掛けてきた男が仕事を受けているということであり公也が受けたわけではない。相手側がその気になれば成果を奪い得た報酬を持って逃げることもできるだろう。


「冒険者だもの。なんでもするわよ。でもキイ様、話を聞く限りその男は信用できるのかしら? 貴族相手のお仕事なら報酬は高額なんでしょう? 欲に目をくらんで逃げたりしないの? 必要なら私が毒を仕込むけど」

「ヴィラ、そこまでしなくてもいい。まあ今日あったばかりの相手を信用できるとは言わないが……そのあたりはおそらく大丈夫だと思う。何かあれば容赦なく叩き潰すだけだからな」

「何もないのが一番ですね」


 アリルフィーラはのほほん、とヴィローサと公也の話している不穏な話に反応しない。


「その地猫、というのはどういう生き物でしょう?」

「地下に巣を作る生き物だ。警戒心が強くて殆ど捕まえるようなことはできないくらい逃げが上手い。地下暮らしだからか夜目も聞くようで基本的には生物の寝静まった夜に出てきて食料を確保することが多いみたいだな。匂いも含め様々な要因から罠などの危険を察知、音にも敏感で近寄ろうとする生物の微かな足音でも気づく……余程巧妙に足音を隠せる生き物でもなければ近づくことも難しい。魔法への反応もかなりのものだ。今回俺は大地に対して魔法を使ったから取り出せたが……風の魔法などで地図を作ろうとしたらおそらく感知されて穴を閉ざして別の場所に穴を作ったか、巣ごと移動した可能性もあったな」

「詳しいですね…………」

「一匹でも捕まえられれば情報を入手できる手段はあるからな」

「番で、ということですが……増やすのですよね? 彼らの希少性は失われるということですよね……」

「まあ、価値は下がるだろうな」

「価値が下がる…………」


 ふっ、とアリルフィーラが顔を下げる。


「…………ねえキイ様?」

「なんだ?」

「この子、大丈夫なの?」

「……多分大丈夫だ」


 アリルフィーラの持つ性質、公也が知っているそれをヴィローサも察する。ヴィローサの場合毒の存在でそれを察知したのだろう。


「まあ、ともかく明日報酬に関して支払いしてもらえるそうだからそのお金をもらって馬車の準備だな……一番は馬、動力源になる。乗る方、車のほうは買えればそれでいいが自分で作る可能性もある」

「ふーん……馬って森とかにはいないの?」

「いや、さすがにいないからな? 草原とかそういう場所ならばわからなくもないが……こんな街の近くにいてくれるかは怪しいな」

「馬車は自作するのですか……」

「可能性の問題だ。お金が十分あれば買うだけだからな」


 今回稼いだお金で馬車を買う……馬と車のセット、馬のみ、車のみ、どうなるかはわからないが最重要は馬の方だ。


「キイ様。馬の方は作れないの? 魔法とかで」

「…………不可能ではないが、ちょっと無茶すぎるな」


 公也はヴィローサの発言で思案する。仮に馬車を作る際、馬側、つまりは動力を魔法で作る場合どうするか。


「馬車、馬、車、自動車と同じと考えれば車の外郭に馬のような運動する生き物……ゴーレムで作るとすると運用の手間の問題がある。自由性の問題もある。命令を聞くにしてもゴーレムがどの程度こちらの意思を汲んで命令を聞くか。命令を聞くにしていもその命令の範疇、例えば樹々などの障害物の回避はどうするか、どの程度の段階で回避をするか、自分は回避しても車側を気にしてくれるかは不明。そう考えると自動車のように乗り手が加速、減速、操縦をできる方がいい。馬側に任せるのではなく自分で運用する方がいい。ならば自動車のような機構を作る場合はどうする? 実際の機会で作る機構を模倣するのはここでは厳しい。精密機械がいるしそもそも俺は仕組みに明るいわけでもない。ただ魔法があるからな。魔法を使えばどうにでもできなくもない……単純にエネルギーを放出する反動を狙うのもありか。反動、反作用、吹き出す風の勢いの反動……吹き出す風? 魔法で風を吹き出す場合その反動はあったか? そう考えると厳しい。風の操作。車輪を風で操作? それも難しいか。そもそも魔法を使う手間も維持する手間も必要労力が……」

「キイ様! ここにはロムニルもリーリェもいないから! キイ様が考えるのを止めるのはちょっとダメかなとも思うけど、止める人も止まる要因もないから止めさせてもらうからね!?」

「……ああ、悪い」

「キミヤ様は本当にいろいろと考える人ですね…………言っている内容が全然わかりませんでした。ヴィローさんはわかりましたか?」

「私もそこまではわかってないわ。あなたよりはマシだろうけどね」

「私もわかるようになった方がいいでしょうか……」

「…………アリルフィーラは魔法を使えるだろうか? 知識として魔法を学ぶのはありだが、魔法を使えるほどの魔力はない、かもしれないな。まあそういうものは才能だから何とも言えないし、試して確認してみないとわからないところだが」


 そもそもこの世界における魔法使いの魔力量の把握とはどうやっているのか。基本的に魔法をどれくらい使えるか、どのような魔法を使えるかで大まかに把握している感じである。魔法は詠唱と呪文を使い放つもの、魔力を使うがその運用さえある程度理解していれば簡単にだれでも使える。まあそもそも魔力を扱うということがまず訳が分からないといった感じである。とりあえず詠唱と呪文を唱えて魔法が使えれば魔法が使える、魔法が使えるほどの魔力があるということになるだろう。割と大雑把な魔力測定になるが、基本的にその程度の感覚的なものが主である。もう少しちゃんとした測定や魔法の知識を教えるような機構でもあれば魔法使いの学校でもできるかもしれない。キアラートではまだ研究者などの存在もあって比較的魔法の知識が高いほうではあるが。図書館もあるし。


「それは………………一度試してみましょう。いずれ」


 アリルフィーラは一瞬考える。自分は魔法を使えたほうがいいのだろうか、と。自分の感覚では魔法を使えないほうがいいだろう、と一瞬思い、しかし使えたら使えたらでそれはそれで意味がある、とも思ったりする。ただ、どちらでもいいにしても使えないほうがいいかもしれない、と思っている。彼女が気にかかるのは使えると判明した時。それがある意味では一番都合が悪いと思っている。

 まあ、彼女の考えはさておき。とりあえず方針は決定している。今は宿でゆっくりとしているが、翌日お金が手に入れば馬車を購入、足りないものは自前でどうにかし、その後に皇都へと向かう。おおよそそんな感じである。

 そして翌日。件の話を持ち掛けてきた男は問題なく公也にお金を払う。番が多くその分だけ金額は増え、そもそも今回の件においては捕まえる際公也の活躍のほうが多い、という点から六での報酬受け取りとなった。向こうは四、穴の場所を教えたことと貴族とのやり取りとした程度だが、そもそも彼の話がなければ得ることのできなかったお金であるので特に問題はない。その金額にて馬車を購入……馬も車もそれほどのものではなかったものの、まだ見られるものではあった。まあアリルフィーラを乗せて皇都に行くと考えるとちょっと微妙なところであるが、この際仕方ない。場合によっては馬車を降りてアリルフィーラを連れて行けばいいや、程度の考えである。



※魔法による動力源は少々無茶。不可能ではないが仕組みが複雑で手間も多く、簡単に作ることはできないと思われる。そもそも魔法は現象を起こすもので意思を作り出すものではない。魔法を使った物事の中にはそういうこともないわけではないが、単純に詠唱と呪文で魔法を使う場合は難しいと思われる。仮にそういう物を作る場合、魔法陣の利用をした方がいいかもしれない。それ以上にそういった使い方をする場合魔力の消費の問題も出てくる。結局生物を使う方が安上がりになるだろう。

※まあ風の魔法で馬車を動かすくらいならできなくもない。操作は難しいのでそこはどうにかする手段がいるだろうが。そういった点も含め結局魔法では難しいという話になる。

※流石に額が額で欲に目がくらんで……と言う前に公也の方がはるかに恐ろしい。伝手はあったが自分では何もしてないわけだしあまり欲をかくとやばいと考えちゃんと報酬を支払った。まあ地猫をあっさり見つけ、また地面から取り出す魔法を直で見ていたわけだしそれだけの魔法が自分に向けられるかもと思うと……お金も大事だが命も大事、命の方がより大事である。

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