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「まずは位置の確定を……根こそぎ掘り出せば別にそこまで気にしなくてもいいが把握したほうがいいな」
「お、おい、兄ちゃん? 掘り出すってお前なあ……」
「とりあえず穴の場所を教えてほしい。どうせすぐにやれることがあるわけじゃないんだろう?」
「一応罠とか仕掛けてあるんだけどな……まあ、いいか。どうせこっちも手詰まりって感じだったし」
罠などを仕掛けても地猫はほぼひっかからないのであまり意味はない。気休めのようなものだ。仕掛けた当初は出てこないのだがその後ある程度状況把握ができると完璧に避けて移動する。そこをうまく誘導して罠に引っ掛ける……というのが時々地猫を捕らえることのできる手法だ。もっとも成功例はかなり少ない。これまで何度も試された中でその成功例を出したのは十にも満たない。それくらいに普通の手段でとらえることができない相手である。
「こっちだ」
男に案内され公也は地猫のいるとされる穴のある場所に来る。
「あの穴の中の探索とかはされたことがあるのか?」
「人間じゃ入れないからな。中を見ように暗いし狭いし……人間以外を入れようにも大抵入れた動物が帰ってこない結果になることが多い。地猫自体全く戦闘力がないということもないらしいし、中はどうやらかなり複雑らしい。そのうえ地猫は場合によっては中を崩すみたいだ。まあ実際にどうなのかってのはあまり試されないけどな。地猫の出てくる穴がわからなくなると困る。ただ地猫のいる場所は相当深い、入り組んでいる、そういう感じみたいだな」
「へえ」
地猫もかなり用心深い生き物のようだ。戦闘能力という点では実際にはそこまでであるが自分の巣での能力は高い……というより巣の環境を利用して戦闘を行うから強いということだろう。巣そのものの一部を崩し入ってきた相手を生き埋めにする……魔物そのものの強さはさほどではないが相手の強さに関わらずかなり厳しい攻撃手段である。特に地猫の巣に通じる穴に入れる生き物は小さいゆえにより効果的だ。一部の特殊な魔物でもなければまず脱出自体できないだろう。
「……魔法に反応されると困る。だが魔法なら相手が行動する前に探れるか……?」
公也が魔法の選択をする。必要なものは相手の情報、相手のいる場所、地猫の巣と巣に通じる穴の情報を得ること。ならばどのような魔法を使うのが正しいか。
「風……水……光……火…………反応を感じるタイプは結構面倒くさいか? 構造そのもの、場所そのもの全体を把握……土、大地、地の底、一帯の土全体に? 穴の形、土と魔力の通じない地点、魔法の対象にならない範囲を魔法にて表示する……土なら向こうの警戒には引っかからない」
「おーい」
「大地よ、我が魔力を通じてその前景を表せ。大地ある場所を映し、大地なき場所を黒く示し、我が前に光の形で投影せよ。表すべきは上下左右前後、三つの軸に沿った形。表すべきは大地の形のみ。それ以外のものに関わらず。グラウンドマップ」
いろいろと考えつつ公也が魔法を使う。大地そのものを形に表す大地のエリアを示すマップを作る魔法である。構成、内容、何をどうするかをかなり練ったうえで詠唱と呪文を加えてもなお魔力消費が結構大きな魔法となっていた。とはいえ、その成果は大きい。なぜなら公也の踏みしめる大地、そのある程度広範囲の地面の下をマップとして表示することができたのだから。
「おおっ!?」
「…………こんなところか。しかし、この黒い部分があの穴の先だが」
表示されたマップは細かい小さな穴、生物のいる場所などは表示しないようにし一定の空間の空きのみを表示するようにしている物である。その結果地猫の掘った穴が黒い色で形が表示された。ちなみに地面、大地の部分は透けた白色で表示されている。
「かなり複雑だな」
「……これが地猫のいる巣穴なのか。なんつーか、滅茶苦茶複雑だ。本当にこんなんになってたなら確かにまともに地猫を引きずり出すのは無理だろうな」
蟻の巣穴もかくや、深さはまだそこまでではないが複雑さはかなりのものである。下に上に左右に。一部は道が繋がりループ構造になっていたり。結構複雑で面倒くさい形である。実際に入り込めば狭さに暗さ、道順もわかりづらいだろう。まあ匂いをたどるという手法もできる。ただ一部はやはり地猫による侵入者対策のためか、崩しやすい塞ぎやすい構造をしている。
「しかし、形はこういうもんなのかもしれないがよ。中の様子が分かったからってなんもできないだろ?」
「ああ、別に俺は中の構造を調べたいわけじゃない……知識として、地猫の生態、情報としては面白いものだったが。重要なのはそこじゃなくて地猫のいるだろう中心地点だからな」
「はあ? どういうこと……」
「大地よ。指定した場所を囲い地の上あまで持ち上げよ。内部はそのままに。アーシーズリフト」
ごごご、と軽く地面が唸りを上げる。地揺れではないが少しだけ揺れてはいる。もしその地点の真下にいれば、その者ははっきりと揺れている、押し上げられるような感じを受けていただろう。
「おおお!?」
「…………ふう」
魔法の制御。魔法としてはかなり複雑、面倒くさい、魔力の消費が大きい、やることの内容の手間もある。地図の表示の魔法とも連動している。
「こんなものか」
「……まさかこの中に地猫が?」
「とりあえず出す……というわけにもいかないか。檻か何かはあるのか?」
「いや、さすがにいきなりこんな風に捕まえることができるなんて思ってなかったしな。用意はねえよ」
「じゃあこちらで石の檻を作る……どのくらいいる? ふむ…………」
大きさ的にどれくらいいるかはわからない。さすがに全部を占めるほどいるとは思えない。しかし、十や二十もいればそれなりに大きめの檻がいるだろう。幾らかの数で分けるべきか、あるいは全部ひとまとめにするべきか。どうやって確保しておくかでも変わる。
「一度全部を入れたうえで土を除去……そういう形で外に出す方がいいか」
公也の判断は一度檻で地上に挙げた土の塊を囲い、そこから土を崩し檻の外へと排出する。そうして中にいる地猫を檻の中に残しその頭数、全体を把握することを優先した。そもそも地猫がどういうものかも詳しくわからないし、逃げる手段をもしかしたら持っているかもしれない、檻を壊す攻撃力があるかもしれない、あるいは地上に角に出ると問題を持つかもしれない。最悪一匹くらい暴食でくらいその生態、情報を把握したい。
「数がいればそうするか」
頭数が十匹以上いるのであれば、そのうちの一匹を暴食で食らっても構わないだろう。まあ雄雌の数の比が一致するかがわからない。ハーレム、あるいは逆ハーレム状態になっている可能性もある。その場合下手に潰すことになると番の問題が出てくる。繁殖に関しては公也が気にすることではないが欲しいのはお金、番は倍額以上になるのであれば考慮しておいた方がいい。まあそこまで心配しなくてもいいものだと思われるが。
その前にまず檻づくりと周りの土の排除、中にいる地猫の把握が先である。何をするにしてもまずその点からだ。
※探索系にも空気と空間によるそこに存在する物質の感知、熱量などによる感知、水分保有による生物感知などがあるが今回は大地そのものの形の感知。地猫が感知能力を持つからと言って、大地の中にまで感知能力を持っている可能性が低いと考えたのでそんな方法による探索を行った。




