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「……それでこんなところに連れてきて。いい話とは?」
「へへっ。まあ稼げる仕事だよ。時間はかかる可能性もあるけどな」
「俺は急ぎだからできれば時間がかかる仕事はしたくないんだが」
公也はアリルフィーラの頼みを受け内戦を止める、皇族の争いをどうにかすることが目的である。馬車は必要だがそのために時間を費やすことはできない。即金でお金が欲しい、すぐにお金が欲しい。そういうことで話を聞きたいところなのだが、男の言うところによると時間がかかるかもしれない仕事であるらしい。さすがにそれは困る。そもそも男はここまで連れてきてからそういうことを言い始めた。それはどうなのか?
「いや、時間がかかるかもしれないって話だ。別に絶対に時間がかかるわけじゃねえさ。あんた、闇組織をぶっ潰すとか言ってただろ? それくらいできるならよ、こんくらいの仕事なら時間がかからずにできるだろ? それくらいの実力はあるんだろ? それともただの大言壮語だったのか?」
「む」
公也の言った闇組織を潰してお金を奪うは手っ取り早い手段ではある。だが普通はたった一人でできる仕事ではない。できるかどうかで言えば余裕でできるのだが、問題がないわけでもないだろう。闇組織といってもただの悪党もいればある程度裏の法を束ねる組織もある。そういった見分けをするには半ば潰して知識を得てからでなくては難しかったりする。
「…………そこまで言うのなら、やってやろう……と言おうと思ったが。そもそも俺はどんな仕事をするのか一切聞かされていないんだが?」
「はは、それもそうだったな。なに、金になる仕事っていうのはつまり金持ちから受ける仕事ってことだ。貴族さんとかそういうところからな? 貴族ってのは面白いもんで珍しいもんとかいろいろと集めるだろ? この仕事はつまりそういうことだ」
「……珍しいものを集める。具体的には?」
「ここらへんにいる魔物だ。額に宝石のような綺麗な玉石を付けてる魔物だって話だ。それを生け捕りにする。それが仕事だぜ。あ、言っておくがこの仕事受けたのは俺だからお前さんが持っていくのは難しいぜ? まあアポがあれば話は別だろうけど、そんなことはないんだろう? そもそも誰がそんな仕事を頼んだかもわからないだろうしよ」
「確かに」
公也に持ち掛けられた話は貴族の依頼による魔物の生け捕りである。相手が魔物であるということやその魔物の探しにくさ、様々な要因がこの仕事の値段を上げる要因となっている。何よりも一番は貴族がその依頼人ということが大きい。金のない人間が頼む以来よりも金のある人間が頼む以来のほうが報酬が高いのは当然のこと。優先的に受けてほしいし早く仕事を達成してほしい。まあ正式に冒険者ギルドに出された以来というわけではなく、個人に持ち掛けられた依頼である。もちろん貴族から直で持ち掛けられたのではなくその手先として使っている連絡役の人間から持ち掛けられた話。
貴族本人から話を聞けていないという点では心配なところはあるが、嘘ということはおそらくないだろう。仮に嘘だったとしても、魔物の生け捕りをした人間から魔物を受け取るという行為に齟齬がでれば生け捕り自体が無駄になりかねない。裏切ったときに魔物を殺し意趣返しすると言うことだってあり得る。それでは意味がない。そもそも冒険者ギルドの冒険者との関係を築く上で重要なのは信頼である。ギルドを介しないとはいえ頼んだ仕事に報酬を払わず権力や暴力で奪うのは信頼を失う。そんなことをすれば冒険者に依頼を出すことすらもできなくなるだろう。
ゆえに特に問題はない。それ以上に今回の仕事はその難易度、要求内容の問題もあって値段が高いのにも納得がいくところである。
「今回の仕事はできれば番を持ってきてほしいってことだ。別に単体でもいいらしいが、雄雌の番を持ってこれば倍以上の金額を支払ってくれる」
「繁殖狙いか。せこいな」
「ははは。まあ貴族さんもただペットでほしいってだけじゃねえんだろうよ。貴族間で見せびらかすとかいろいろと目的がある。綺麗な玉石を持つ生き物を繁殖して増やせるならそれこそその玉石を魔物を狩らなくとも増やせる。支払った金額以上の価値があらあ」
雌雄で持ち込んだ場合一体の時以上の額を払う。そしてそれは別に一組でなければならないというわけではない。数を持っていけばいくほど支払う額は増え、また雌雄の組数が増えればその組分倍以上の額になる……正直言ってかなりの大盤振る舞いになると思われるところだが、それだけの価値があるということだろう。魔物自体をペットにすること、繁殖した場合余所に売れること、綺麗な玉石の確保ができること、様々な理由がある。毛皮や肉もそれなりの価値はあるだろう。額の玉石に比べれば端金といってもいいくらいだが。
「それでその魔物は?」
「地猫だ。ここの近辺に深い穴を掘って住んでいる。滅多に外に出てこない上に穴の近くに生物がいれば絶対に出てこないくらいの魔物だよ。餌は地面の中にいる虫とかそういうものらしい。稀に地上に木の実とかを採りに来る。まあそれがわかっていても、他の生き物が触れた木の実とかは匂いで判別するらしいんで罠に使ったりできないけどな。罠とかもなぜか察知されるしよお……匂いが残るのかねえ?」
「なるほど…………ロボ並か?」
公也は昔読んだ本の狼王のことを思い出す。人間が触れたすべてをほぼ判別した野生の獣、そのお話。この世界では魔物としてそれと同じくらいの能力を持つものが存在するということだ。その魔物の独自の特殊能力か、あるいはただ生態としてそれほどの力を持つか。その魔物が特殊な玉石を額に持つという話であるしその玉石が何らかの力を有している可能性も否定はできない要素かもしれない。
「まあ、そういうことでな。遠くから観察して出てきていたところを急襲して捕まえる、それがこの仕事のやり方だ。まあ成功したことはねえけどな! 逃げ足が速くてよ。匂いに敏感っていうだけじゃなくて音にも敏感、視力もいいらしい。とんでもない魔物だ。逃げ足だけは素早い」
「穴ごと取り出したりはしないのか? 場所はわかっているんだろう?」
「はははは! それができりゃ苦労しない。魔法使いでも簡単にゃ掘り出せないだろう。そいつらがいるところは深いらしいからな。魔物だけ取り出せりゃ楽だけど、住んでる住処を丸ごとは無理だろう」
普通は掘り出して全部回収する、というのはまず無理な話である。もっともそれは普通の場合、だが。
「大丈夫だ。全部掘り出す」
「え?」
魔法使いとして確実に大成できるような膨大な魔力を持つ公也であれば、地面を丸ごと掘り出すことは可能である。
※他国に来て冒険者らしい仕事。内戦を止めに来たはずなのになぜこのようなことに。
※地猫。魔物としてはかなり特殊で地面の下に穴を掘って住む普通の魔物よりも温厚な魔物。逃走、隠遁、他の敵と関わらない、逃げることに極めて高い能力を持ち、臭い、気配、魔力、様々な物を感知する能力を持っていてそれにより安全を確保している。もしかしたらそれは額の宝石にその特殊な感知能力の要因があるのでは、と思われている。額の宝石自体は宝石としての価値が主でそういった要素は特に考慮されていない。魔法使いの研究次第では何かわかるかもしれないがそもそも出回る機会が少ないので現状では不明。




