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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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「っと、止まれ」

「え? でもこっちっすよ? もっと先でぶわっと……」

「ダメよ? もうこれ以上は無理だわ」

「……足元に気配があるな。巣穴は……あそこか」


 フーマルの案内で飛巣甲虫のいる場所の近くまで来たが、そこで公也とヴィローサが歩みを止める。フーマルはかなり戸惑った様子だが、公也とヴィローサに関してはかなり特殊で生物の気配を把握できる。そういうこともあり、地下にいる存在を把握できる。フーマルも獣人で身体能力や気配を察知できる能力は高いのだが、残念ながら山一つの生命を取り込みその身体能力を有することになった公也と、妖精という特殊性か周囲の把握が極めてしやすい自然寄りの存在のヴィローサと比べるとそこまで高いとは言えない。


「これ以上行くとまた巣穴から虫たちが出てくるぞ?」

「それはやばいっすね……あれ? でもキミヤさんの方で対処できるんじゃないっすか?」

「まあ、出てきたところで対処はできるが、変に近づいて襲われるよりもましだと思うが?」

「そうよ。大体出てきたところを倒すなんて面倒よね。キイ様、私が毒で全滅させましょうか?」

「いや、さすがにそれはダメだろ……毒抜きは?」

「ちょっと土の中は難しいかしら。毒を出して毒に侵すなら問題ないけど、それを抜くのはあまり」

「ならやっぱりだめだな。まあ、そこは俺がやる」

「……キミヤさんはそこまでできるっすか?」


 飛巣甲虫はそれ自体はそこまで脅威ではない。単体あるいは少数の群れならば、容易に倒すことができる。しかし、フーマルを追っていた群れや、巣にいる飛巣甲虫を倒すのはかなり厳しいだろう。そもそも巣にいる状態の飛巣甲虫を倒すのは巣に近づかずに倒す必要性がある。巣に近づけばその気配、足音、振動、匂いなどでその存在を把握し、縄張りに入った獲物を襲い巣から飛巣甲虫たちがでてくる。巣にいる飛巣甲虫を倒すにはどうしても近づかずに倒さなければいけない。まあ、一部の冒険者が囮となり、出てきた一部集団を相手している間に近づいて入口から中に攻撃する、ということは不可能ではないが、どちらにしても結局のところ内部への攻撃手段は必須。魔法使いなどの広範囲全体攻撃能力がなければ極めて難しい。

 そもそも普通の冒険者は縄張りの把握自体が難しいのだが、公也に関しては飛巣甲虫の群れを食らい、その知識や情報、生態などを知り、どこからどこまでが巣穴からの縄張りで、どうすれば安全なのか、どういう理由で外に出てくるかを知っている。そのため危険を容易に回避できる。流石に遠距離からでも中への攻撃を仕掛ければ中から飛巣甲虫が外に出てくるのは間違いないが、出てくる前に倒しきれれば問題なく、公也ならばその火力をひねり出すことができる。それこそ文字通り相応の火力を。


「ああ。魔法を使う。ヴィラとフーマルは念のため周囲の警戒を頼む」

「ええ、わかったわ」

「え? あ、う、うっす!」


 流石に公也と言えども、飛巣甲虫の巣を完全に燃やし尽くすには必要な魔力量は多く、その魔法の構成に時間がかかる。威力の上昇、効果時間の延長、必要魔力の現象と込める魔力の加増、様々なことを意識しなければならず、必然的に詠唱も長くなる。もしかしたらその気配を察知し何かが襲ってくるかもしれない。飛巣甲虫も別に近づく存在がなければ外に出ないというわけではないのだから外に出てきた飛巣甲虫の一部が襲ってくるかもしれない。そういったことを考慮し公也は二人に危険への対処を頼む。

 二人はあっさり公也の頼みを了承し、公也は杖を構え詠唱に入る。


「業火よ唸れ。其は全てを焼き尽くす灼熱。捻じれ飲み込み食らいつくす龍。炎龍よ我が声に答え、我が意思に従い、我が力となって我が望む敵を焼き尽くせ。我は望む、我は願う、我は其に請う。舞い踊り唸れ、全てを焼き尽くす灼熱の龍よ」


 渦巻く炎が生まれ、それは炎でありながら一つの形をとる。それは龍。竜種のような蜥蜴のような形ではなく、蛇のような形をとる龍種の形態。巣穴に入り込むという性質上、その形は細長い方が都合がいい。もっとも巣穴に入り込む際にその形態は巣穴のすべて焼き尽くし燃やし尽くしそこにある全てを灰にするために分散するためあまりそこまで形態にこだわる必要はない。まあ、侵入のための特性、性質的な意味合いでそういう性質を持つことは必要になる。形をとるということはその存在に似通るということで、その形である意味がある。


「其の力を持って、彼の者たちを焼き尽くせ! 龍炎の舞踏!」


 その詠唱の終りをきっかけに生まれた炎の龍は穴へと入り込み、その中に存在するすべてを焼き尽くす。そこに存在する飛巣甲虫の群れ、その幼虫や卵、あるいはその中に持ち込んだ獲物たちの死肉、土の中に残っていた生命や巣穴に入り込んでいる木の根なども含めすべてを燃やし尽くす。逃げることはできない。逃げようにも巣穴全域に炎は延び、入り込み、全てを灰にする。

 何もそこから出ることはできず、巣穴は炎に飲み込まれて壊滅した。


「………………ふえー」

「ああ、やっぱりキイ様は凄いわ、ええ、とても凄いわ……素晴らしいわ、さすが私の王子様」


 それだけの力を見て、フーマルは驚きヴィローサは恍惚の表情を浮かべ喜んでいる。ところで、巣穴は壊滅したが外に出ている飛巣甲虫は全滅しているわけではない。戻った時に巣穴がなく困惑するだろうが、そうした飛巣甲虫たちはどこかへ飛び去り別の巣に入り込むことになるだろう。そうする前のそれらが戻ってくる危険を彼らは考えていない。


「……凄いっす、キミヤさん! いや……師匠!」

「……いきなり人を師匠にしないでもらえるかな?」

「いや、あなたみたいにとてもすごい人を俺は師匠にしたいっす! だめっすか!?」

「…………いきなり弟子を持て、と言われてもこまる。そもそも俺は何の師匠だ?」

「う……そ、それは…………」


 フーマルの戦闘能力は物理戦闘、剣を使った近接戦である。一方で公也は剣など近接武器を持ってはいるが、基本は魔法を用いた遠距離戦を主体にした魔法戦闘。つまり師匠として仰ぐようなものではない。


「…………えっと、冒険者の師とか」

「冒険者歴ではフーマルの方が長いだろう。まあ、そこまで大きな差はないかもしれないが……」

「実力的に、冒険者として師匠の方が強いっすから!」

「…………まあ、それは否定できないか」

「キイ様、弟子なんていらないでしょ? 放っていきましょう?」

「ちょっと!? ええ!? 師匠、どうにかしてくれないっすか!?」

「…………はあ、とりあえず街の方に戻ってから話をしよう。森の中だと面倒だ」


 流石に森の中、虫たちを倒した直後でのんびり話をというわけにはいかない。森に起き大変、業火で燃やされた虫たちの匂いを他の動物が嗅ぎつけて向かってくるかもしれない。安全に穏便に話をしたいのならばこんな危険のある場所ではなく、街の方でというのは当然だ。そこはフーマルも同意する所だからか、公也の意見を受け入れロップヘブンへと三人は戻った。


※詠唱は意味を多く持たせることで魔法の性能が上がる。なので威力の高い魔法程詠唱が長い。そして無駄にいろいろとあれな言葉を含む。

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