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「……いつの間に。もしや最初からいたのですか?」
クラムベルトが入ってきたアリルフィーラに一度視線を向け、それから公也に訊ねる。以前に一応どうするか、という対話を公也とクラムベルトは行っていた。そのことから今回アリルフィーラに聞かせるつもりだったのでは、と思ったのである。
「いや。彼女はどうやら途中から聞いていたみたいだな……途中から、というほど長話でもないが。事前に彼女に話して待機してもらったわけではなくおそらく通りがかりだったんだろう」
「通りがかり……偶然にしてはできすぎていますね」
「………………えっと、その」
「まあ、なんにしても本人がいれば話しやすくもなるだろう。リルフィ、今話していることは聞いてたな?」
「……皇国のことですね」
「リルフィにも関係のあることだ。どうするかに関しては改めてクラムベルトに細かい話を聞いてからにしよう」
「細かい話も何も……大体知っていることは話しましたが」
とりあえずアリルフィーラが入ってきたということで改めて詳しい話を行う。
「私のことは知られていたのですね」
「クラムベルトはまあ、仕方がないかもな。この城ではあとはリーリェがリルフィの正体に気づいたくらいだ」
「……そうですか。別に知られても構わないのです。知られていないほうが都合はよかったのですが」
何に都合がいい、ということに関しては特に聞き取らない。
「……皇国で継承権をめぐる争い…………私の家族同士の戦い………………」
「…………思うところはあるか」
「当然です。私自身も残っていれば参加したかもしれません。でも…………」
アリルフィーラも最下位ではあるが皇位継承権はある。ただ彼女の場合皇位継承権とは別の問題もあっただろう。民衆との付き合いのある彼女の場合味方につけたほうが民衆の彼女への信を得ることができた。だから事前に殺しにかかった……ということもないわけではないだろう。現時点でその問題がどうなったかは分かったものではないが、とりあえず再度狙われることなく済んでいる。まあ何処にいるかわからないのだから仕方ないといえば仕方ないかもしれない。
「……切っ掛けはアリルフィーラ様がいなくなったことにあるでしょう」
「え?」
「継承権を持つ子がいなくなる。誘拐されたか、殺され死体を隠されたか……どちらにしてもその影響は大きい。特にアリルフィーラ様の場合は国民に人気があったのです。その問題解決に関しての各所での行動もありました」
「聞いたことがないが」
「言っていませんので。実際アリルフィーラ様がこの城にいることに関してはこちらに来ることになった切っ掛けのことを聞いていますので仕方がないことと思っています。この問題に関してはどうしようもないでしょう」
「……まあ、帰して問題が解決したかといえばわからないからな。戻した途端再度暗殺、なんてことになれば」
「同じ問題が勃発したかと」
アリルフィーラを皇国に帰した場合、暗殺される可能性は低くない。このあたりは帰し方にもよると思われる。ただ今回の場合公也だけの問題ではなくアリルフィーラ自身が連れていかれることを望んだというのがある。アリルフィーラがいなくなったことにすべての原因があるが、戻した場合とそうでない場合ではその問題の在処が変わっただろう。すなわち誰が殺したか、誰が攫ったか。まだ生きているという問題と、だれがアリルフィーラの暗殺を行ったか。前者はいろいろな問題があるが後者の場合誰かにその責を押し付けることができる。暗殺を行ったとして、その相手に責を与え、継承権を持つ立場から引きずり下ろす。家族を暗殺しようとするものに皇位を得る資格はないと。マッチポンプ。
「…………私のせいですか」
「そうは言わない。アリルフィーラが生き残ったのは偶然でだからな。まあそのあとの行動が影響してないとは思わないが……元々は予定通りなんじゃないか? 向こうの」
「………………」
「それに関してこちらで考えても仕方がありません。私としては他国の出来事でそもそも介入するようなことではありませんし」
本来キアラートとしては皇国とのつながりは特にこれといってない。ゆえに別に皇国で何が起きても気にする必要はないだろう、という話になる。しかしこのアンデルク城にはアリルフィーラがいる。唯一その点でアンデルク城、アンデール領、公也・アンデールはアリルフィーラを通じて干渉することが可能だ。またアリルフィーラ自身がどうするかという問題もある。彼女ならば今更だが戻って関わることも可能である。もちろん一人で戻ればどうなるか今後のことは一切わからないのでいくらか手助けはいるだろう。
「……アリルフィーラ。君はどうするつもりだ?」
「それは……」
「望むことがあれば、助けよう。元々アリルフィーラを拾ってきたのは俺で、その世話をするのは俺の役目だろう」
「私はペットじゃありません……」
「そうだな。だから自分で物事を決めることができる」
皇国で起きた内戦に関してどうするか。アリルフィーラ自身が決めなければならない。
「…………私は家族同士で争っているのを見たくありません。どうにかして、止めたいです」
「そうか」
「……キミヤ様。止めることは、できるでしょうか」
「……できるとは言わない。ただそれを望むというのなら、手を貸すことは構わない」
「では………………お願い、できるでしょうか」
「いいだろう。貴女の望むままに」
「…………!」
どこか芝居がかった雰囲気で公也はアリルフィーラの言うことに従い内戦を止めるために皇国に向かうことを決める。そんな公也に傍から見ていたクラムベルトは大きくため息をつく。一応公也はキアラートの貴族であるのだから本来ならあまりこういうことをやってほしくはないところである。まあ公也を止めることは簡単にはできないことであるので仕方がないと思うしかない。またアリルフィーラに関してのことであることも大きい。公也はどこか彼女に対して気を使っているから……それが何を発端とするのか、公也自身理解はしていないだろう。そしてアリルフィーラ自身もどこか公也に頼るところが大きい。それもまた、どこに発端があるのか理解できていない。意外と似た者同士なのかもしれない……というのは今回の話とは少し別の話になるだろうか。




