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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
九章 皇国内戦
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 春。この世界でも冬という低温冷気の満ちる生物の眠る死の季節を乗り越えた先に存在する季節。この世界においては冬と春は特徴的で、冬は寒く春はそれを超えた先の植物の芽吹く季節となる。夏秋はそこまで大差がない。春もこの二つの季節の前座で実際は冬を乗り越えた先にあるという以上の差がない。つまりはこの世界において大きな季節的な差異があるのは冬のみ、と言ったところである。

 ともかく厳しい冬を越えて春がやってくる。アンデルク城においても雪が徐々に消えて暖かくなり、外に出るのも難しくなくワイバーンたちに乗って街に物資の買い出しに迎えるようになっている。まあこれまでも外に出ることはできなくもない。ワイバーンでは厳しい場面もメルシーネであれば難しくはない。物資の購入という面では冬では難しいため無理ではあるのでそういう面では春になって物資が徐々に確保できるようになるという面ではありがたい。

 しかし、そんな始まりの季節。年に一度のわかりやすい一年の始まりとして使われる蒼夜、青夜と呼ばれるものとは違いこちらを年の始まりとする地域もこの世界のどこかにはあるだろう。それくらいに春は色々なことが始まる。雪が消えて行動しやすく、他国に攻めやすくもなり年の初めの戦いが始まることもある。他国との戦いではなく、自国の内での戦いではあるが。それがとある国では始まる。皇国、ハーティア皇国。彼の国にて内戦の気配、噂……皇位継承権をめぐっての戦いの始まりがキアラートにも伝わってきたのである。






「そういう風に情報の伝達をしているのか」

「アンデール様…………? 見られてしまいましたか」


 空から降りてくる鳥、それを受け取るクラムベルト。クラムベルトの情報のやり取りは鳥を使ってのものだ。いわゆる伝書鳩になるが、別にこれは帰巣本能を用いてのものではない。この世界における生物は特殊な生態、能力を持つ生き物もいる。その中の一匹で指定された相手、場所に送り出すことのできる特殊な性質を持つ鳥の一種を連絡用に使っているのである。もちろんその鳥が無敵の生物というわけではなく、場合によっては移動中に他の鳥類や飛行する生物、猛禽の類などに襲われることもないわけではないので何匹かを同時に送り出すことが多い。場合によってはそれでも連絡を取れないこともある。なのでクラムベルトなんかは連絡方法として一定の時期、一定の期間に必ず何匹か送りだすことにしている。なおアンデール領……アンデルク城にはこの鳥は基本的にいない。伝書鳩として情報伝達用に送り出す際に何匹か同時に連絡用ではないのを送り出し、そちらと一緒に送り返すことでなんとか持たせている。場合によっては本当に伝達できず全滅することもあるため、最悪街に降りて連絡する場合もある。もっとも今のところ大丈夫そうではあるが。


「別に秘匿しているわけでもないだろう。クラムベルトがこちらの情報を伝えていることはわかっている」

「まあ、そうですね。別に隠すこと……でもないでしょう。表に出して話すことでもありませんが」


 一応クラムベルトはスパイに近い扱いである。これ自体は必要なことであるため公也もそれは容認し受け入れてはいるわけだが、決してそれは大っぴらに表に出していいことではないだろう。一応は隠す、話題にしない、触れない、そういう内容であるはずだ。


「それで一体何があった?」

「別にこれはいつもの定期連絡です…………もっとも、今回は大きなことがあったようですが。一度まとめてあとでお話しますので今はお構いなく」

「わかった」




 クラムベルトが情報をまとめ公也に伝達する。別に無理に伝える必要はないのだが、今回のことは大きな要件、特にアンデルク城におけるある個人においては大きな要件となる。これに関して別にその人物さえいなければクラムベルトにそのことに関しての情報伝達をする必要性はないと思われるくらいのものだ。というかその人物がいるからこそ伝えられることである。いや、一応公也のいるアンデルク城は直線距離ではそこそこ近いので場合によっては情報を伝える必要はあっただろう。もっとも今回伝えられる要因はやはりこの地に滞在している住人、皇国の皇女、アリルフィーラの存在が一番大きいわけだが。


「それで……どういう情報があった?」

「以前も話した通りですね。皇国で内戦が起きたということに関しての連絡です」


 春に皇位継承の争いが皇国で行われるということは以前にも公也とクラムベルトの間で話されたことである。今回のそれは起こるだろうという話から起こったという話になったというだけのことである……とはいうが、実際に皇国でその戦いが起きたという話だから大きな話になる。他国との争いというわけではないが派閥争いのようなものとはいえ国内で大規模な戦いが行われるというわけである。それが小さな話ですむはずがない。もっとも他国の介入ができるほど余裕があるわけでも甘いわけでもないが。なんだかんだで皇国はそれなりに大きく強大な国である。キアラートにとっては山脈の向こうの話なので基本的には関係ない話になる。本来なら。


「…………結局始まったのか」

「ある意味では予定通り……いえ、そもそも継承権争いの内戦が起きるということはかなり唐突ではあるのですが」

「それで現在はどういう状態なんだ?」

「さすがにそこまではわかりません。こちらがわかっていることは……今まさに皇国で継承権争いの戦いが起きる、いえ起きているということです。それ以上のことは情報の伝達速度、そもそも皇国への伝手の問題もあるでしょう」

「……そうだな。普通はそう簡単に情報を得ることはできない」


 さすがにこの世界の情報伝達速度などを考えても、今内戦が起きたという報告がされている時点で十分以上のものといえる。普通ならばその情報を得ること自体難易度が高いことであるだろう。


「……それで、今後どうなさるおつもりですか?」

「……アリルフィーラがいるからな。それに関しては確かに気になるところか」


 皇国の内戦への干渉。実のところアリルフィーラがいる以上干渉自体はできないわけではない。それほどの強みはないが、一応アリルフィーラも継承権を持つ存在である。もっとも現状の一位と二位の争いへの直接的参加、継承権を奪うということは厳しいものだ。だがそのどちらかへの干渉、介入、手助けをアリルフィーラを通じてするということは不可能ではないだろう。


「それに関しては……本人に決めてもらう」

「そうですか」

「聞いているんだろう? 入ってきたらどうだ」

「えっ?」


 公也が扉の外へと声をかける。声をかけて少しして……アリルフィーラが部屋に入ってきた。


※この世界における季節において最も特徴的なのは低温で雪も降る冬。そこから一気に暖かくなる春も特徴的ではあるが冬から戻るという点での対比。その点で言えば秋も今までの環境から冬になるという点では特徴的か。

※鳥での連絡。この世界では特殊能力を持つ魔物や獣もいるのでそういった生き物を利用すれば普通の鳥よりも使いやすい。もっとも魔物だろうと襲われるときは襲われる。安全ではない。探せば襲われるようなことのない鳥もいるかもしれない。

※キアラートとハーティアは大きな山脈により隔てられているので陸路で行く場合迂回して遠回りになる。なので繋がりは薄め。それでも近隣国なので繋がりはある。伝手は少ない。

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