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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
八章 冬期来訪
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「とんでもない……強さっすね…………」

「そうだな」


 フーマルとキミヤが冬将軍を前に大きく息を吐いてゆっくりとしている。現在は先ほどのように戦いの様相を見せていない。


「………………」

「そちらこそなかなかやるものではないか、と言っていますよ。お強いんですね」

「……冬将軍は喋れないようだからな。騎士もそうだが冬姫たちのなかで話ができるのは冬姫だけというのはどうにも手間がかかるものだ」


 冬将軍、冬騎士、冬従者、冬姫以外の氷の城の住人は基本的にしゃべることはできない。一応冬将軍は言葉を発しないながらもなんとなく雰囲気で言っていることを感じることはできるかもしれない。騎士もある程度体の動き、意思表現で把握することはできるかもしれない。しかし、基本的に彼らは一切言葉を発しない。なぜか冬姫は彼らが言いたいこと、言っていることがわかる様子ではあるが。なので基本的に彼らとの会話をしたい場合冬姫の翻訳が必須で実に手間がかかる。こちらの言葉は普通に通じるので会話したいというほどでもなければ特に問題はないが。


「………………」

「騎士たちでは相手にならないようで不甲斐ない。申し訳なく思う、と言っています」

「彼らも決して弱くはない。フーマルくらいなら十分な訓練相手になってくれている。俺だと力押しでどうにでもできてしまうから技を覚える以上の鍛錬にはならないけどな」

「……こっちとしては冬将軍さんよりもあの騎士さんたちのほうがいいっすよ。冬将軍さん全然俺じゃ届かないっすからね」


 フーマルでも冬騎士たちには技術、力、経験、全面的に勝ち目はない。ただ追いつく目標としてはちょうどいい相手である。追い抜くにしても騎士たち相手ならばなんとかできそうな目標になる。冬将軍は明らかに段違い、桁違いの強さで正直相手にできないくらい恐ろしい相手だ。公也と戦っている光景を見ていたが見ても理解できないくらいに次元が違うといっていい。フーマルにとっては全く手の届かない範囲である。

 一方公也は冬将軍の相手くらいが己を高めるのにはちょうどいい。騎士たち相手では技術的なものを学ぶならばともかく、戦闘訓練としては少々物足りない感じだ。もともとのスペック、基準となる強さが公也の場合は騎士たちよりも上になるからである。スペック面で言えば冬将軍といい戦いができるくらいだろう。技術面、経験で冬将軍に負けているので今のところ勝ち目はない。

 冬将軍はその攻撃全てが必殺になるようなとんでもない強さで正直言って技術的な面で学ぶところがない。というより学べない。完璧に経験に裏打ちされた技術といっていいものである。もし何かを学ぶつもりがあるのならば冬将軍相手に長時間戦い続けられるだけの実力がいる。そういう点では公也はどうにか学べるにしてもフーマルは一太刀で負けるレベルなので何も学べない。公也は将軍を、フーマルは騎士を相手にするのが戦闘の訓練としてはちょうどいいのである。


「そうだな。だがフーマルは何よりもハンデを背負うのが厳しい面だな」

「……寒いっすからね」


 冬将軍、冬騎士、冬の魔物である彼らが活動するには低温下でなければいけない。いくら着こんでも、体を温めていたとしても、彼らの活動できる低温下で戦えばどうしても公也たちの体温は下がる。元々彼らは冷気を発することで相手を弱らせる性質を持つ。意図的か、あるいは彼らの生存に必須な要素ゆえか、ともかく彼らがそういう特徴を持つゆえに彼らの相手をする公也とフーマルは冷気によって身体能力が落ちる。一応公也は補填によるある程度の弱体への耐性はある。だが一度、一時のものならばともかく常時体温を下げ続ける冷気にさらされる場合、ある程度の能力ダウンの影響は受けるのである。公也でそれならばフーマルならば戦えば戦うほど弱体化する。その状態でどれほど訓練を積めるか怪しいところである。

 対策はないわけではない。公也であれば魔法による体温維持、暖気の幕を体に纏わせることで冷気への耐性を持つことができるだろう。フーマルの場合は一時的な効果は出せても常時効果を発揮するのは厳しい。維持に必要な魔力量の問題があるからである。ゆえにフーマルが戦う場合は冷気による影響を受けざるを得ない。戦う場だけでなくその後に関しても影響が出るためあまり長期はできないという弱点がある。まあ訓練をつけてもらえるというだけでも十分なくらいだ。公也もある程度はフーマルに回復、耐性をつける方策を練って入る。一応公也はフーマルの師匠なのでそういった面で少し手助けしているということである。


「まだやるか?」

「……正直いい鍛錬にはなるからやりたいっすけどね。でも今日は正直もういいっす。師匠と冬将軍さんの戦いを見ると……なんというか気疲れしたっすから」


 やばい、そう言いたくなるような戦いの場面を見せられてフーマルも精神的な疲労を感じている。それに寒さに耐性を持たせてもらったり回復してもらったりしているが寒いと感じないわけでもない。なんだかんだで疲労事態は蓄積する。戦いも緊張感ある戦いをずっと行うのは厳しい。フーマル自身冒険者として実力もそれなりにあるし命の危険も経験がないわけではないが、ずっとそれに曝されるのは慣れないし辛い。ましてや騎士たちだけならばともかく今回は冬将軍も相手だ。冬将軍相手は公也ですら精神的な疲れを感じるくらいに恐ろしいものであり、フーマルであれば蛇を前にした蛙のような気分だったかもしれない。動けただけまし、といったぐらいの状況だった。


「そうか。なら今回はこれくらいにしておくか」

「そうするっすよ」

「そういうことなので。今回はありがとうございました、冬将軍。冬姫も通訳のためにいてもらって悪かったな」

「いえ。私も世話になっている相手の強さを確認できたのは決して悪いことではありませんので」


 親しき中にも礼儀あり。彼らの場合親しいといってもある程度仲はいいといっていいが別にそこまで仲がいいというほどでもない。これから長い付き合いになるだろうとは思われるがそれでもまだ相手のことを詳しく知っているというほどでもないし、そこまで長い付き合いでもない。そもそも彼らが出会ったのはこの冬の間……まだ一年どころか一季節も過ぎていない。いつの間にかかなり親しい関係ではないか、と思うくらいなのに実際はまだ知り合って少しである。ゆえにこういう硬い画面もまたあるのだろう。


「それじゃあ戻るぞ」

「はいっす」


 そうして氷の城の住人、冬騎士や冬将軍相手にこの冬の間に鍛えられることになった公也とフーマル。この冬以後も鍛えることはできるが、その場合場所が極めて限定された狭い空間内になるので冬の間ほどの自由がないのが少々面倒くさいことになるだろう。


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