23
「……………………」
「……………………」
二人の人物が共に剣を構えている。両者に動きはみられず。一人は剣を構え常に相手の動きを見逃さずに行動に移ろうとしている。一人は剣を構えいつでも動けるよう常に殺気を放ち続けている。攻撃側は殺気を放っているほうだ。それを受けるもう一方は攻撃側の気配に冷たい汗が流れるほどに緊張と警戒をしている。これはあくまで模擬戦、本気の殺し合いではないがそれでも恐ろしい気配が放たれている。一種の訓練であるとはいえ、実戦さながら本気での戦いだ。殺し合いではないというだけで剣は全力で振るわれるし殺し合いでなくともケガをして死ぬ危険はないわけではない。もっとも両者とも多少のケガでは死ぬようなこともないと思われるが。
「…………」
現在は冬、外であれば冷たい、寒い、そんな状態だ。もっともこの場は普通の冬場の環境よりもさらに寒い。しかしそんな環境でも、汗は落ちる。動いてすらいないのに相手の剣気、殺気、目に見えない圧力を受けての緊張でだ。恐れるべきものなどもうない、死など怖くもない、多少のケガも気にならない、ただ力で押してくるのならばどんな相手にもそう負けることはない、そう思う次第であるはずなのに。目の前の相手の放つ殺気、それだけで彼は身を竦めるくらいに恐ろしい気迫を感じている。その状態でもまともに立ち迎えるのはもっと恐ろしい存在を知っているからと、自分の力を信じられるほどに自覚しているからだろう。
戦えば勝てる、そのはずだ。少なくとも剣の腕で負けるにしても勝てないことはない。力ならば勝てる、魔法を混ぜれば勝てる、殺される覚悟があれば勝てる、身を犠牲にすれば勝てる、相手は結局その程度の強さだ。断ち切ることは不可能ではない。だがそれはつまりそれだけの犠牲を覚悟しなければ勝てないということでもある。剣同士の戦いでは負ける、技術を考慮すれば勝てない、相手の力が発揮できる土俵を破壊しなければ勝てない。そういう物事は多いが、自分も使う、自分も振るう力であるがゆえにその土俵で負けるのは気に入らないだろう。
年季が違う。経験が違う。培ってきた物が違う。今までほとんどの時間剣を振るうということもしなかった人間に何ができる。力を得た。知識を得た。たったそれだけで年月を積み重ね得た者に敵うものか。歳月の末に生み出された力は並大抵のものではない。
「……………………」
「っ!」
無言のまま、しかし殺気だけは明確に動く。視線も、表情も、何もかも変わらないまま、ただ殺気だけが動き、その殺気が動くそのままに相手の体は動き剣を振るってくる。恐らくだが相手は剣気も殺気も発することなく、予備動作、動く流れを感じさせることなく剣を振ることができるだろう。それをしないのは結局のところこれがただの模擬戦であり殺し合いではないからだ。敵ではない。むしろ見方である。だから己の全力を見せ力を振るい経験を積ませる。これは修行である。
「はっ!」
「………………」
「く」
「………………」
「おおっ!」
「………………」
「っ!」
流れるように剣が振るわれる。鋭く、速く、的確に。無駄な動きは見えない。ただ斬る、ただ殺す、そのためだけの動き。洗練された剣の技だ。それに対応するように受け手の剣が動く。剣を剣で防ぐ、というのは少々奇妙ながら、この世界では比較的珍しくもない防御手段である。実際に受けることができるものか、少なくともこの世界では可能な物事であるが普通ならば盾を使うことではないだろうか。そんな風に思わなくもないが、実際……というよりはこの世界以外ではどうであれこの世界がその理に従わなければいけないというわけでもない。この世界では可能であるという話でどうでもいいことである。
受け手の剣は相手の洗練された動きとは違ってかなり雑だ。しかしそれは慣れていないから、経験が積んでいないから。格闘技を行う際に型を習うように、攻撃だけでなく受けもまた経験を積めば洗練され的確に、無駄ない動きができるようになる。攻め手の動きはある意味それに近い。相手の動きは極めて洗練されたものである。もっともそれは型にはまったものではないのだが。結局のところ型というのもまた無駄なく的確に動くことを極めれば一つの形として出てくるものなのかもしれない。
「はあ……っ!」
「………………」
「……っ!」
「………………」
「とっ!
「………………」
攻め手は一切心の動きを見せない。焦りもない。攻撃する側だから当然といえばそうだが、それでも防がれ続けることに対して一切の心の動きがない。相手が自分の攻撃を防げる、その実力に、自分の攻撃を学び受けられるようになることに対しても一切の心の動きがない。それはまるで氷の心といって差し支えないものかもしれない。別にそこまでのものではなく、そもそも自分の剣に自信があってもそれが最強ではなく、防ぐことができないわけでもないということを理解しているからこそ。そして防がれたところでやるべきことは変わらない。放つべきは必殺。一つ目の必殺が防がれれば二つ目の必殺を、それが防がれれば次は三つめの必殺を。ただ必殺を放ち続ける。相手が死ぬまで必殺を放ち、相手が死ねばそれが必殺の剣の技だ。殺すまで剣を振り続ければいい。普通ならば実現できないことでも攻め手はその強さ、培われた技術、能力ゆえにそれができる。何とも恐ろしい話である。
「こ、ここまでだっ!」
「………………」
ピタリと剣が止まる。このまま振り抜けば首が落ちる、そんな風に首筋に剣が立てられていた。受けてもそれを予測していたわけではないが、これ以上は戦えないと感じての宣言である。その宣言があったため動きを止めた。降り抜こうと思えば振り抜けた。宣言によって止めたからギリギリで止まった……ということに間違いがないが、別にその状態になる前に止めたのではない。本当にギリギリまで迫って宣言を聞き止めた。攻め手の放つ攻撃は常に必殺。それはつまりこれもまた本来なら必殺の攻撃だった。しかしそれを殺さずに止めた。必殺の攻撃ですら止めることができる。それほどまでの剣の技。
「…………剣の技を経験させてくれてありがとうございます、冬将軍」
「…………………………」
攻め手は冬将軍。アンデルク城において城の一角に滞在している居候の冬の魔物。受け手は公也。アンデルク城における最大戦力にして最強クラスの魔法使い、強大な肉体を持つ強者。今回冬将軍を相手に公也とフーマルが剣を学んでいる。これはその一戦の光景の一つ。なおフーマルは公也ほど戦えないため公也よりもはるかに手加減されている。公也の場合フーマルと違って斬り捨てても死なないのでそういう点でも本気で戦えるのが冬将軍としてはありがたいところであっただろう。
※冬将軍との修行風景。冬将軍は「……」で話し翻訳できるのが冬姫だけなので話自体はできない。ただ行動や雰囲気である程度何を言いたいかはわかる。




