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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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「さて……」

「凄いっす! あんな魔法、よくできるっすね!」

「…………まあな」


 興奮した様子で公也に寄ってくる獣人。その姿を見てヴィローサは笑みを深める。悪い方向に。


「あなた、あんな虫たちを連れてきて、助けてもらって謝罪や感謝の気持ちもないの? ねえ?」

「うえっ!? あ、そ、その………………申し訳ないっす!」


 土下座。文化としての土下座というわけではないが、謝意を示すために自身の体を伏せ、相手に謝罪するという手法はある。彼らは獣人であるためどちらかというと腹を見せる方がそれっぽいのだが、まあそこは獣人ゆえに本当の意味で獣っぽくならないよう土下座のようなスタイルになったのかもしれない。

 公也としては別に獣人が自分の所に来たことは損ではないためそこまでは気にしていない。公也にとって今回のことはトータルで見ればプラス、利の部分が多い。損と言えば他人のために魔法を使い、他者に自身の特殊な能力がみられる危険があったというくらいで、利と言えば甲虫たちを食らいその分の生命力や生体物質、魔力量、甲虫の存在に関わる知識などが加算されており、色々と得である。実質的に損な部分はほぼなく、公也自身にとっては利が大きいのである。まあ、見も知らぬ誰かに連れてきた虫を押し付けられ、その対処をやらされた、と考えればいろいろと複雑だが、逃げられたのに逃げる選択を選ばなかったのは公也であるためヴィローサの言うような感謝や謝罪が欲しいと思うほどではない。

 とはいえ、相手方も今回のことは悪いと思っているらしく、公也としても下手に相手が悪くないと言って相手を増長させたり逆に畏まられたりしても面倒なので素直に謝罪を受け取ることとした。そのほうが後々面倒にならないことが多いので。


「ああ、悪かったと思ってくれてるならそれでいい。別に大した相手ではなかったし」

「大した相手ではない……か」

「……自慢する、あるいは嫌味になるか? とはいえ、実際にそちらの見た通り、俺はあいつらを倒すのが苦ではないわけだし」

「ああ! 確かにそうっすね! いや、本当に凄いっすよ!? あいつらあれで結構面倒な相手なのに。しかもあの数を。それも一瞬で……凄いっす、凄い魔法使いっす!」

「持ち上げすぎ……」

「そうよ、キイ様は凄いのよ?」

「ヴィラまで……」


 面倒を避けるために素直に謝罪を受けたわけであるが、これはこれで面倒なことに発展しているような気がする。公也はそう思った。ヴィローサを調子づかせてはいけない……いや、ヴィローサは公也が言えばその言うことに従う分むしろ対処はしやすい。それよりも面倒なのは公也自身が直接関わっていたわけではない目の前の獣人の方……と、そこで公也はそもそも相手のことを知らないまま話していることに気づく。


「ところで、そちらは? 俺は倉谷公也。いや、公也、でいいのか? まあ、公也、冒険者になったばかりの魔法使いだ」

「……冒険者になったばかり? ああ、でも魔法使いなら……いや、そもそも冒険者になったばかりでも特に問題はないっすよね、冒険者になったばかりだから弱いとかそういうわけじゃないっすし……」

「……そちらは?」

「え? あ! えっと、俺は……フーマルっす。見た通り猫の獣人っすよ」

「フーマルか。とりあえず……あの虫たちとどこで出会ったのか教えてくれないか?」

「……ええ? なんでっすか?」


 自己紹介をしたばかりでいきなり自分を襲った虫とどこで出会ったのか教えてくれと問われる。フーマルとしてはいろいろとどういうことからわからないだろう。公也としてはいろいろと理由がある。まあ、別に公也自身が無理に何とかする必要性はないが。あの甲虫はそれなりに厄介で面倒な存在である。数を揃え群れで襲ってきて、その上倒しにくい、相手をしづらい、巣を作り数を増やす、増えやすいなど。甲虫たちを食らい、その生態的な知識を得たからこそ、公也はさっさと倒しておいた方が後々面倒がないと思うわけである。

 まあ、別に絶対に倒さなければならないということもない。多くの冒険者にとっては面倒で厄介な相手であるが、そもそもそこまで群れに出会うようなことは多くなく、巣の場所さえ分かっていればそこに近づかなければ、単体で飛んでいる虫を相手にする程度で済む。それでも複数を相手にすることもあるが、ある程度の冒険者とそのパーティーであればそこまで厳しい相手でもないだろう。

 とはいえ、公也のような新人冒険者……本来の新人相応の実力しかない場合などは苦しいことは間違いない。それこそフーマルのように何かのきっかけで近づき襲われる、ということもあるだろう。また、同じくフーマルのように逃げている途中で誰かを巻き込む危険性もないではない。別に絶滅危惧種というわけでもなく、生き残りを作ること、巣を残すことを推奨されているわけでもない、普通にいるところにいるタイプの虫であるため、それなりに利用できる存在だったとしても倒したところで何ら問題はないわけである。それこそ素材としては公也と戦った魔物の方が使いやすいし食用にはしやすいだろう。倒しやすさで見てもそちらの方がやりやすい。まあ、繁殖の問題があるが、魔物の多くは既存の繁殖方法とは違うことが多いのであまり気にするほどでもない。


「全滅させるため。またあんな風に巣に近づいて襲われたらいやだろう?」

「ええー!?」


 確かに嫌だが、フーマル自身は巣の場所をある程度理解したため近づかなければいいだけである。しかし、公也はわざわざ自分から巣に近づき相手を全滅させようという。いくら公也が凄い魔法使いとわかっていても、フーマルとしては冒険者になったばかりの公也がそんなことができるか、と信じるのはなかなか難しい。流石にそれは無理だ、考え直してほしい、自分もあまり近づきたくない、怖いと訴え公也の行動を止めようとする。もっとも、公也の近くにはある毒々しい存在がいる。


「ねえ? キイ様の素晴らしい行いを止めるつもり? 私があなたの相手をして差し上げましょうか? 毒で此方の言うことを聞かせるようにしてもいいのよ? いっぺん死んでみる?」

「い、いや、さすがにそれは……って!? よ、妖精?! なんでこんなところにいるっすか!?」

「さっきからいたわ。私はキイ様の物だもの。いて当たり前でしょ? ところで、返答は? はいと答えて連れていくか、いいえと答えて私に洗脳支配操作されるか、どちらか選んでいいのよ?」

「それ、選択肢一つしかないじゃないっすかー!?」


 ヴィローサは公也の敵に対して容赦はしない。公也の得にならない相手は無視をする。公也の損になるようなことはさせるつもりがない。公也が望んでいることはそれが叶うように道を作り上げる。公也が望んでいることを阻もうとするのなら……排除する、あるいは公也にとって都合がいいようにする。それがヴィローサの思考である。仮にこれで意地になって断ろうものならば、フーマルの意思はヴィローサの毒によって殺され、その肉体はただ情報を引き出すための人形とされただろう。まあ、事前に選択肢を提示してくれるだけましであると言えるだろうか。もっとも、この選択肢をハッタリだと思い拒否しようものなら、容赦なく本人が言ったとおりにするだろうが。その場合の後の対処を公也がどうするかは……なってみなければわからないだろう。


※持ち上げすぎ。特にヴィローサ。

※流石にヴィローサの毒でも洗脳支配はできない。認識を麻痺させるとか意識を朦朧にさせるとかはできるかもしれない。その状態で言うことを聞かせる、みたいなことは可能……かもしれない。なおこういった行為に関しては主人公が止めるので本当に実行する機会は……恐らくない。

※仮にヴィローサの試みが成功した時は暴食で食らい証拠を隠滅すると思われる。

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