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「別に特に裏の理由なんかもないんだけどな。本当に……善意とは言わないが、別に悪い意味でここに留まってもらうってわけじゃない。その境遇が不憫だなと感じたのもあるし、ここに住めれば、と言ってくれたのもある。住めるかもしれないと訪ねてくれたからでもあるし、一応雪奈の知り合いで雪奈は過去に追い払ったトラウマがある。その払拭にもなるかもしれないという考えもある」
「本当ですか? 実は私たちを奴隷にでもしてこき使うつもりだとか……私を好きにするつもりだとか、そういう腹黒い理由でもあったりするのではありません?」
「それは少々邪推しすぎだと思うんだが……」
冬姫も含め人型の魔物である以上人と同様の利用方法で扱えるかもしれない……そう冬姫は言うが、そもそもからして無理である。冷気を放出する彼らはまともな人間と同じ基準で扱えない。低温下でなければそもそも活動できないし、冬将軍や冬騎士はその強さは下手な冒険者よりもはるかに強い。公也より弱いからと言って悪意を持って運用するには厳しい相手だ。冬姫も肉体的な強さはともかくその能力を考えればそういったことはしづらい。能力を封じることだってまともにできはしないだろう。温度の高い場所ならば封じれるがその場合彼女自身も弱るし使い物にならなくなる。それでは意味がないだろう。
「仮にそういうことをした場合、多分人間は体が冷えて死にかねないと思うんだが」
「……確かにそうですね」
「それだとつまりそういうことはできない。ならそういうことをすることはありえなくないか?」
「……確かにそうですね」
「冬姫以外の面々もそもそもおとなしくつかまって働いてくれるようなものでもないだろう。そもそも魔物という時点で信用はないし、騙してそういう風に扱っても抵抗される。奴隷として売り払うとしてもそもそも俺はそういう方面のつては一切ないし……といっても、そもそもそのあたりはそちらの知ることでもないか」
「そうですね。私があなたを信用するかどうかはこの短い間にどういった対応をあなたはするか、この場所の人たちがあなたをどう見ているかで判断するしかありません…………それで見れば別にあなたは悪い人間でないということはわかっているはずなのですが」
冬姫も公也が悪人であると思っているわけではない。ただ、やはりいきなり降ってわいた幸運がどうにも信じられない、信じきれないという想いがある。今もまたこうして彼女らのために公也が働くことになぜそこまでしてくれるのか、という想いがないわけでもない。なんだかんで今まで定住するようなこともできず旅をするような形になっていたということもあって人を信じるだけの下地が彼女にはない。ゆえにこの状況にある。
「こちらとしても別に冬姫に手を出す気はない……出されたいのか?」
「いえ、別に。人間の相手をするのは少々……こちらも気が引けます。ほぼ確実に相手を殺してしまいますし。そうでないにしても、そもそも私たちは繁殖を必要としない生き物。特にそういったことに興味があるわけでもありません。生の衝動は私たち冷の存在には合わないものですから」
「そうか……」
「…………思えば、本来私たちは冬が終われば消える存在です。何の因果か、生き残る選択をしてしまいそれからずっと私たちは冬の存在として死ぬことなく、消えることなく、無為に生きるだけでした。ここで定住できるという定めに導かれた結果……なのかもしれませんね」
突然運命論を話し出した冬姫。本来冬姫、冬将軍、冬騎士、冬従者という存在は冬に発生し冬の終わりとともに消え去る存在。低温下で活動できるがそもそも低温下、冬でなければ活動できない存在、生きられない存在である。彼女が生き残ったのはいつか、雪奈と知り合いな点からしてかなり前からなのだろうが、そもそもなぜどうやって生き残ったのか。彼女らに生き残るという意思がそもそもあるものだろうか。本来ならば季節のサイクルと共に生まれ死ぬを繰り返す季節の魔物。低温を維持できる環境を見つけてそこで過ごし冬以外を耐え忍ぶ……そんな発想をすること自体ある種の異常とも言える。将軍たちを含む冬の従者たちは彼女に従うのでそのきっかけとなるのは彼女自身……この地にいる多くの存在と同じように異常発生した特殊な種と言える。まあ冬姫と言う魔物自体よくわからない存在である。その中でさらに異常であるといわれても判断のしようもない。そもそも冬姫含む冬の魔物と出会ったことのあるような人間自体恐らく希少だろう。
「……まあ、納得するならそれでいいんじゃないか?」
「そうですね。あなたがどういう意図があるとしても、私たちは住む場所が提供される。安全に、問題なく、冬を超えても広く住みやすい場所で生活できる……それだけで十分なのでしょう」
「氷の利用とか、低温による冷蔵冷凍ができるならそれで十分だ。ああ、一応将軍や騎士とは戦闘経験を積むための訓練相手にはなってほしいけどな。まあ戦う場所はそちらの城の前とかそのあたりになるだろうけど……」
「私はいらないのですか?」
「別に俺はそういう目的で冬姫をこの城に招き入れたわけじゃないんだが……」
「そうですか……」
「やっぱりそういうことに興味があるということなんじゃないのかお前」
「いいえ。そんなことはありません。ただ、凍らせて殺してみるのも面白いかなと」
「物騒だぞ……」
「冗談です」
相手が相手というか、彼女が魔物であるがゆえに冗談であると笑えない。さらに言えば冬姫と言う存在自体は公也の知識にある雪女のような存在なのでは、と似たような存在の知識があるからこそいろいろな意味でそういうこともできるのではないかと笑って済ませられない。まあ、冬姫を含む冬の魔物というのもよくわからないものであるためはっきりそうだとも違うともいえないものである。まあ彼女たちについてはこの地この場所で生活していけばその様子を観察することで生態がわかるだろう……そこまで詳しくかかわるかもわからない話だが。ともかく公也は天井づくりに勤しむ。彼女たちの手助けも受けながら、なんとか形だけを、冷気を閉じ込める空間をなんとか作り上げる程度の物をどうにか作り上げるのであった。
※冬姫さんはヒロインではないです。
※冬に生まれ冬が終われば消える、冬の環境でない世界では弱りいずれは終わりを迎える彼らは本来ならば既にいなくなっている。いったいどこで彼らは生き残りたいと思ったのだろう。




