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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
八章 冬期来訪
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 ロムニルたちがいろいろと聞き込みをしている間、公也は冬姫たちの住む氷の城の上、城壁の間に天井を作ろうとしている。冬の間は建築はしないという方針であるがこれに限って言えば冬姫たちが活動できる期限が冬の間だけということもあり、その間にどうしても作らなければいけない。そうでなければ彼女たちはアンデルク城から出て行ってしまい彼女たちの力を利用することができなくなる。いや、利用したいからという理由もあるが冬の間旅して安住の地を探す彼女らに対して不憫に思ったという理由もなくはない。この場所が安全かは怪しいが、この地であれば比較的魔物である彼女たちも安穏と過ごせるだろう。公也としては冬将軍や冬騎士たちから剣技を学べれば嬉しい話である。ほかにも冷蔵庫冷凍庫の役目を担ってくれればかなりお得だ。

 と、そういった理由もあり、冬の間に天井づくりである。これに関して言えば彼らの滞在期間でなければできないというのもあるが、公也が新年前後に貴族としての仕事があるため忙しくなるということもあり今のうちに急いで作るという感じである。


「……冷気を閉じ込めるからできる限り厚めに、二重にするか。天井、柱は木で掛ける、でも城壁だけを支えにするのはちょっと不安だな……冬姫たちに話して真ん中あたりに柱を置かせてもらうとか? あるいはあの氷の城を支えに利用させてもらう……ちょっと不安があるからできれば何か柱を作らせてもらうのが一番か。そうなると氷の城も作り直しになるかもしれない。まああの氷の城は作るのにとう手間でもないみたいだし別にいいのかもしれないが……」


 冬姫の作り上げた氷の城は建築にほとんど時間をかけない瞬間建築の代物。彼女がこれまでずっと旅生活をしてきたゆえの成果ともいえる代物で作り慣れているからこそできるもの。いらないならすぐに解体してもかまわないもので、作り直すのも余裕。必要ならば場所を移動することも簡単にできる。もっとも城は彼女らの住む場所であるため、場所の移動自体は少々住める場所問題や景観的な美観だったりと作る作らないとは別の問題であまり移動させたくないという理由はあるかもしれないだろう。そのあたりはアンデルク城が公也の物、領地であるという事実から多少譲歩してもらうつもりである。


「資材を積んで……縦横、斜めに配置するのは流石に? いや、斜めも決して悪くはなさそうだが……二層目分だな。まず柱を結構な数掛けて、その上に石壁の天井。そこからその上にさらに柱……これ柱は意味あるか? 石壁の間に柱を差し込んで少し石壁の頂上よりも下から作らないとだめか。そこに天井を乗せて、また柱、天井……そこからはある程度木材なりなんなりで覆う形にしてさらに冷気がのがれないようにするか。これ天井だけでは効果はないよな。魔法陣を使うにしても、壁の側の漏れを少なくする……そうしておいた方がいいな。天井を作ると光が入らなくなる。窓はダメ、無理。冷気がのがれる要因になるから窓は作らず魔法陣かあるいはヒカリゴケみたいな自発的に光る物を配置。松明とかは温度があるから使えない……とりあえずある程度形を作ってから考えないとだめだな。明かりも今のうちに考慮しておかないと作業中に光がなくて見えにくくなりそうだ」


 作業を行う上でいろいろと予定していたものとは違う問題も出てくる。実際にやってみないとわからないこと、想定できていないことなどいろいろとある。






「どうですか? うまくいきそうでしょうか?」

「まあ、とりあえず形だけはどうにでもなりそうだな。ただ、元々俺は建築知識があるわけでもないから完璧に作り出せるかといわれるとちょっと怪しい」

「そうですか……私たちとしてはその姿勢だけでもありがたいものです。ただ、ちゃんと住むことができないのであれば私たちは安全のために移動しなければなりませんが……」

「最悪穴を掘ってそちらに冷気を貯められる場所を作るつもりだ。氷室みたいな感じでな。一応魔法陣なども併用するから住まうことができるだけの環境を作れるとは思うが、確実なものじゃない。だがそれでもここに残れるだけのものはどうにかして用意する」


 そこまで彼女たちにこだわるのも……と思わなくもないが、彼女たちはある意味で言えば自主的にこのアンデルク城に来てくれた旅人であり、自らこの場所にとどまりたいといってくれた新しい住人、つまりは領民になってくれるかもしれない存在である。もっとも通常領民として扱われるだろう人間ではなく魔物であり、クラムベルトあたりも彼女たちを領民として書き加えることはないだろう。公也も別に本気で領民にするというわけでもないが、しかし領民ではない、というのも少し公也の心情として憚られるものである。

 まあ、そんなことを思っているからこそできる限り彼女たちをこの場に留め住んでもらうつもりであるということになる。


「あなたはそこまでしてくれるんですね」

「これでも一応領主だ。領地に住みたいという相手に心砕いて対応するのは当然だろう?」

「少々やりすぎなような気もしますよ? それに私たちは人間ではなく魔物です。そこまで本気で取り組む必要もないと思いますが」


 一般的な領主は魔物を領民扱いしないだろう。しかしそこは公也だから、というかそもそも彼のところにはいろいろと魔物がいる。これまで彼が新たに連れてきたのが人間なのがたった一人でほかが魔物という時点で人間が住むことに関してはあきらめたほうがいいのではないかと思うくらいである。そもそも人間を引っ張ってこれる環境にないから問題になっているのでもあるが。そのあたりを新年前後に王国側に打診するのもありではないか、と思わなくもない。


「気にするな。これくらいは仕事の一環だ。どうせ暇でやることもなく穴掘って建物の範囲を広げるくらい、地下に部屋を作る以上のことはしなかっただろうし。ああ、でも新年あたりは俺はしばらくいないから結局ある程度間は空きそうだな」

「…………?」

「そっちこそここに留まる形でよかったのか? もっと別の場所を……」

「見つけられたのであれば苦労はしません。私たち魔物はどこに行っても扱いは悪いのです。人型の魔物でも害がないのであればともかく私たちは冷気を発しますから。有効利用でができないわけでもなさそうですけど、そもそも冬以外は過ごすことも大変な存在です。通常ならば春はまだいても夏には確実にいなくなる存在です。そんな存在を安定して住まわせるというのは大変でしょう。実際あなたも結構大規模なことを行っていますし」


 冬姫としては自分たちのためにそこまで労力をかけさせるのは、と思わなくもない。もちろん定住できるのであればありがたい話なのだが、それだけのことをしてもらうことに対する恩を返せるかというと、彼女らができることはそれほど多くない。せいぜいが冷気を利用しての氷の生成などだろう。それもそもそも彼女たちが過ごせる環境を作るの必要な分の冷気、氷があれば必要とはしないだろう。今回の場合氷などではなく魔法陣などの利用による低温状態の維持になるので少し話は違うのだが。


「私たちは恩を返せるでしょうか。いえ、そもそもここまで私たちを優遇するのは……何か裏の事情でもあるのではないですか?」


 冬姫が危惧するのは公也達が実は何か彼女らに隠して彼女たちを利用、悪用しようとする理由があるのではないかという点。まあ、色々な意味で彼女たちはかなり優遇されている。それが彼女たちが何か特別なものならばともかく本来ならば人間にとっては敵である魔物であり、冬にしかまともに生きられない性質、使い道も薄い。そんな優遇に何か裏があると思ってもおかしくはないだろう。そう思い彼女は公也に問いを投げかける。


※主人公は基本的に受け入れた相手には寛容的……というよりは領民を増やしたいという考えから魔物でも領民となってくれるなら、と助けている感じ。

※深読みする冬姫さん。別に完全な善意ではなく住まわせた場所を冷蔵庫・冷凍庫に利用する気満々だから。後は冬将軍とか冬騎士を鍛錬相手にしたい程度。そこまで大きな理由はない。

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