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「ふむ、特殊能力と力の源に関してはなんとなくわかったよ。でも、その力の源に込められる力はどこから手に入れている物なのか……それはわかるのかな?」
魔力はいったいどこから来るものか。今回質問するうえで訊ねたいと思っていたことの一つ。今まではそもそも魔力を明確に自分自身が持っていると把握しきれない者ばかりに聞いてきたので直接聞くということはなかったが、今回は明確に魔力という言葉が使われている場面であるので自覚があるかどうかを調査する意味でもペティエットに訊ねてみた。
「…………正確にはわからない。マスターからもらうこともできる。外部からの供給ができないわけではない……むしろ力は外部からの取り込みになると思われる。器に水を満たすように。城の一部になっていない部分は自分のものではないのでそちらは管轄ではなく、城からは力が届かない。城魔の一部ではない普通の建物だから力が満たされることはない……城魔だから力が満たされるようになる、ということだとは思う。その力をどこから取り入れるかは正確には把握できない。でも、自分で生み出しているわけではない」
「魔力は外部からの取り込み……」
「地脈というやつが関係するのかしら? でもそもそも地脈って何かって私たちもわかっていないし」
大地の力、地脈。龍脈とも呼ばれることのある大地の力の流れ、大きな力の流れ。そもそも公也もその力に関して明確にわかっていることでもないだろう。あちらは元の世界における創作の知識にそういった話があるからこそ言葉として出てくるものだ。また実際にその力の流れを感じたこと、そしてそれがメルシーネに取り込まれていることが分かったこと、そういったことが理由でそういう話が出てきたわけである。
「…………力は大地を巡る。正確なことはわからない。でも私も大地に処理したものを還す。魔物の力は理不尽で理解できないことではあるけれど、それも力の一角、力の流れの一つを利用したものであるなら可能性としては大地からの力の吸収と大地への放出はあるかもしれない」
「……ふむ?」
大地から、地脈から魔力を吸い上げる。そもそも大地の力の流れの一角に城魔の存在が含まれ、その力の流れに様々なものを乗せて還元している……そういう可能性もあるのでは、とペティエットは言う。もっともこれはペティエットの想像が多分に含まれるものだ。少々この想像を事実として語るには事実と断定できる要素が弱い。そもそも地脈というよくわからないものをよくわからないまま話したところで何もわからないままである。
「ふむ、まあ、何とも言えないな」
「そうね。これは事実を知る人に話を聞きに行くのが一番でしょうね」
「そうだね」
「ありがとうペティちゃん。それじゃあもう一人、別の本命に話を聞きに行きましょうか」
「それで話を聞きにわたしのところに来たのです?」
「そうだよ」
「そうよ」
「暇なのですね……いえ、他の人よりも割と仕事はやっているほうなのですけど。むしろ満足して仕事してもらっている分勤勉なのです」
「ともかく、質問いいかな?」
「いいのですよ。こちらもあまりやることがないですし」
そうしてメルシーネに力のこと、その力の源のこと、特に地脈から力を得ていたという事実もあるゆえに詳しく地脈について尋ねたいといろいろと聞き込みを行う。
「わたしの力はいろいろなのです。竜化……厳密にいえば人、竜人、竜の三形態を自由に行き来できるものですね。厳密には竜の体が本体なので人化、竜人化が正しいのですけど、別に化けているというよりはどれも自分の体なのです。ついでに言えばそれぞれの形態で一部の変化もできるですし、一部だけ発生させるようなこともできるです。竜の状態でも大きさを変化させることができるです。結構いろいろと特殊ですよ。他にも飛行は竜の特殊性の翼に込める力での飛行です。ブレスも使えるのです。竜でも人でも。ほかにもいろいろとあるですが、基本的に竜ができることは全般できるですね。人の形態でいる状態でもある程度はできるのです。ちなみに人形態のときに魔法が使えるか、と聞かれるとおそらく使えないだろうと思われるのです。なんでと聞かれるとわからないですけど、あれはわたしには適正がないか……あるいは使えないように仕組まれているのです。便利ですし」
「…………基本的には竜の力、ということか」
「竜形態の変化には魔力……そういった力の使用はあるのかしら?」
「いわゆるエネルギー消費に関しての話なのですね。基本的に竜の特殊能力を使う上で肉体による部分はあまりそういった力の消費はないのです。巨大化に関しては多少力の消費があるのですけど。ブレスは特にそういった力の消費はないのです。あれは竜の特性の集める力と放出する力ですし。翼による飛行はある程度使うですけど別に消費は大したことないのです。基本的に力を扱うためにエネルギーを消費するということはない感じなのです」
能力を使うのに力を使うようなことはあまりない、らしい。このあたりの話は他の面々でも似たようなことはある。何らかの強さ、力を持っており、強力な力を有する存在ではあるのにその力を使う上で膨大な力を消費するようなことがない……それはいったいなぜか。そもそもなぜ力を有している必要があるのか。
「……じゃあなぜ地脈から力を?」
「魔力の高さは強さを示すものなのです。別に魔力に限った話ではないですけど、使えるエネルギーが多いほど強いのです。またエネルギーは能力を扱うためだけに使われるのではないのです。変換はされないとしてもわたしたちの肉体にエネルギーが巡ることでそれ自体が肉体に力を与えるのです。こちらでは特にそういった力への変換はないのです。魔法で力にすることはできるのですが、そちらはまた別物なのです」
「ふむ?」
「そもそもわたしが地脈から力を得ていたのは生まれるためなのです。生まれるときに強大な力を持っているように、ということで地脈から力を吸収していた様子なのです。なので少々特殊なのですよ」
「そもそも地脈の力って何なのかしら?」
「大地の力、世界の大地を巡る力なのです。少々このあたりの話は面倒なのです。厳密にはこれは魔力とは別なのです。ただ、魔力とは完全に別物の力ということもないと思うのです。そもそも魔力自体認識できる力は魔法に変わってからなのです。魔力そのものを認識することはないのです。それはなぜなのです?」
「……それは」
魔力というものは、例えば個人が持っている魔力量を認識する、ということは基本的にない。というよりそれが認識できるのならば、城魔の持つ魔力量を認識したり、公也の持つ魔力量を認識したり、メルシーネの持つ力を認識したりできただろう。その力の量、強大さに怯えを抱くようなこともあったかもしれない。しかしそれはない。その存在の内包する力を見抜くことはできない。力を把握することはできない。魔法から感じる魔力というものを認識することはできるのに。
「魔力は恐らく既に変換された力なのです。その元となる何らかの力の源というものがあると思われるのです。それが地脈の力……ともまた違うと思われるのです。でも、それもまた一つの力だと思われるのです。厳密には何とも言えないのです」
「ふむ……」
「魔力は既に変換された力、ね。面白い話ではあるわ」
「…………ふむ……」
「話し合うのなら自室でお願いするのです。ロムニルはもうだいぶ思考の海に沈みかけているのです」
「……そうね。ロムニル、とりあえずまとめるためにも部屋に戻りましょうか」
「……ああ、そうだね。そのあたりに立ったままだと邪魔になるしね」
話を聞き、聞いたことをまとめ、そこからの考察も記述し記録をとる。結局今回聞き取った話でそこまで大きな実入りのある話というものはなかったものの、魔法研究、魔法と特殊能力の関係の研究、特殊能力の研究、魔力についての研究など、色々な部分に使えるような情報を収集することはできた……かもしれない。もっとも肝心なことはわかっていないというか、まだまだ手の届かない部分にある。それに関しては研究し理解することこそが研究者としての仕事なのだろう。
※城魔が城内の物を分解し肥料化、大地へ返す流れは地脈の経路を通じているのでは? という推測。あくまで仮定の話。
※ある意味では地脈と言う力に関しての話が出るきっかけのメルシーネさん。でも地脈とか言い出したのは主人公だった気がしないでもない。
※竜の力に関してはおおよそ私の作品内における各作品の竜で一貫した設定が使われている。飛行は翼に魔力を込める、ブレスは集める力と放出する力。人化はできるかどうかは竜次第なので個々の竜の能力次第。
※魔力に限らず有している力はエネルギーとしてその存在の持つ力としてカウントされる。当然エネルギーの総量が多いほうが強い。生命力だろうと魔力だろうと。
※私の作品における魔力に相当するエネルギーは<希世力>。ただしそれぞれの世界において取り扱い方が違う。その世界の規格に合わせ力の形を変えることはある。この世界においては魔力として認識できるものは元となる力<希世力>を特殊能力を扱う形に変えた力……という感じの考察。厳密には設定していない。
※そもそも観測方法が存在していないものばかりなので実感、感覚などを用いての情報からの考察しかできないことが多い。なので厳密にこれはこうであると断言できることが少ない。特に見えない力、魔力など方面はどうしてもそうなる。魔法は発現して実体化、発動時間などでの計測や飛距離などの目に見える形で判断できる。そのあたりの違いがあって魔力などの研究はあまりできていない感じ。まあ魔法が使える使えないなどで持っている魔力の量の違いなどの判断はされるがそれくらいしかできていないとも言える。




