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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
八章 冬期来訪
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「懐かしい顔ですね。お泊りですか? いえ、お泊りだとしても泊められません! 泊められないんです! 宿を経営する身としてお客様の選別なんてしたくはありません! ですが、ですが! 他のお客様の迷惑になるようなお客様は泊められないんです! 泊めたいですけど宿の中がとても寒くなるんです! さすがに私もまともに生活できなくなります! 一日泊めるだけでも厳しいです! 無理です! お帰り願います! お願いですから!」

「落ち着け雪奈。お客じゃない、お客じゃないから」

「それはそれで不満です! 雇い主様ー! お客様連れてきてくださいよー!」

「飛び火した!?」


 冬姫、冬将軍たちの移動中。宿の横を通るときに人の気配を感じて出てきた雪奈が大騒ぎをし始めた。何やらトラウマ……とは違うが、彼女らに関して何かあったらしい。このあたり雪奈も冬姫たちも長生きなせいだろう。


「………………」

「私は直接お会いしたわけではないですが、あなたは確か一度訪れたのですね。お断りされたということでしたけど」

「………………」

「寒いのがダメ……それならば仕方のない話です。彼女の叫びを聞く限りでは宿の経営上の問題みたいですし」

「宿を経営する身としてはお客様を選びたくはなかったんですごめんなさい! でも、宿全体が寒くなり部屋も寒くなりあちこち寒くなると他の方が泊まれるような状況にはなりません! 私もぶるぶる震えて寒くて仕事にならないですし、お断りするしかなかったんですごめんなさい!」

「あ、あの、別に謝らなくていいですよ? 怒っていませんから」


 雪奈のトラウマ、宿を経営し人の世話を至上命題とするような彼女の生き方ゆえに、泊まりたいと思う人間を拒否せざるを得ない……まあ人間でなく魔物だが、それでも泊まりたいと思っている客だったわけである。それを彼らの性質などの都合で泊められないと断らなければいけなかった。彼女にとっては屈辱といってもいい出来事である。本人を前にその時のあれこれ、根強く残った苦い記憶が爆発して暴走している。


「おちつけ……宿は無理でも、世話はできるから」

「宿でお世話できないと意味ないんですよ……うう、私の女将としての能力、宿の経営の限界を感じます……」

「わかった、わかったから。後で改善できる点はないか話し合おう。それで今回は満足しような?」

「満足なんてできません。私の仕事はまだ始まったばかり、終わりの見えない進み続ければならない女将道なんです……」

「…………ダメだなこりゃ」


 この調子ではしばらく使い物にならないな、と思いながら一緒に来ていたメルシーネに雪奈を預け宿の中に入れて適当にどこかに座らせるか寝かせておくかするように頼む。


「何か迷惑をかけたようで悪かったな」

「いえ……冬将軍が一度彼女の宿に出向き、断られたようですが……それが彼女にとってひどいトラウマとなっていたようですね。悪いことをしてしまったでしょうか」

「そういうことはないと思う。まあ、あいつはあいつで色々と思うところがあるんだろう。何年も人の来ない場所で宿を続けるくらいだし、何か特殊な主義があるっぽいし。あまり気にしてやらなくていい。とりあえずこっちだ。案内のほうを続けるぞ」

「はい。お願いします」






 宿の裏、そこにある壁の向こう。壁に関しては魔法でずらすなり穴をあけるなりやりようはある。扉を作り道をつなげるつもりでもある。冷蔵庫冷凍庫のような仕様にするつもりならば宿の食料品を置いておくのにも都合がいいかもしれないし、移動的にもやりやすくなる。公園から回り込むのも遠い。もっとも直通の道をつなげてもいいしその隣、『囲』の上中央に道をつなげそこからいけるようにしてもいい。やりようはいろいろとあるわけでどうするか最終的な判断はまだ先だ。もっとも彼女らに関してはできれば外には隠しておきたい。仮にばれてもアンデルク城に来るような人間がいないので問題なさそうだし、他の人型魔物の存在……雪奈とか、メルシーネとか、そもそもペティエットや妖精のヴィローサも魔物であることには変わらないので今更少し増えたところで、と思わなくもないが。しかし他よりも明らかに魔物魔物しているゆえにちょっと隔離しておかなければいけないかと思わなくもない。特に冷気の害があるので余計に。


「ここになる」

「広いですね。広いというだけで悪くはありません。しかし、空が見えるのでここ全体で過ごす……というのは難しそうです。今後も過ごすのであれば」

「そうだな。天井は閉じておいた方がいいか……今すぐは無理だが、簡単に閉鎖しておくか。冬以外でも冷気を閉じ込めることができるように城壁のほうに魔法陣を書いて低温下、冬のような気温を維持するつもりだ……城のような温度維持は城と直接つながってるような範囲でないとないみたいだし、天井を閉じた城壁内なら大丈夫だろう」

「…………何を言っているかはわかりませんが、任せますね」


 冬姫には理解の及ばない話である。彼女たちにとってはずっと楽に住める環境が用意されるのであればそれでいい。そのための準備を公也の側でしてくれるというのならばありがたい……まあ、彼女たちにとってはそもそもなぜ公也がそんなことをするのかは疑問であるが。


「とりあえず小さくだが建物……簡単に住めるような場所を作るがいいか? 魔法で作るからどうしてもそれほど作りはよくないが」

「建物ですか? それなら私たちの方で準備しますよ?」

「え?」


 冬姫が手を翳す。冷気が周囲に満ちていく。少し寒くなりながらも公也はその様子を見守る。冷気が満ちるというだけではなく、その冷気が氷を生み出し、それが形を成していく。冬姫、冬将軍、冬騎士、冬従者。彼らの持つ能力はただ冷気を生み出すだけではなく氷への干渉、作成などの能力もあったりする。特に冬姫は彼らの中では一番の能力を持っている。


「……………………氷の城?」

「はい。旅をする中野宿しなければいけませんが、ある程度誰もいない安全に過ごせる広い場所のときはこういった氷の建築物を作り仮住まいにすることがあるのです。今回はしばらくここにいるということですし作っておけば問題なく過ごせるでしょう」

「この建物で過ごすのではだめだったのか?」

「見つかると問題ですし、冬の間は維持できても春を過ぎると溶けて過ごすのが不可能になりますので」


 氷でできている以上気温が上がれば解ける。冬姫たちの冷気でも維持をするには全然足りていない。冬だからこそ維持し残すことができるがそれ以外の季節は不可能。それに物理的な攻撃には弱い。魔物が襲ってくるなり様々な形で破壊されることもある。氷の城、そんな場所に住んでいる人間はいない。少なくとも中にいるのはまともな生物ではなく魔物。冒険者あたりに見つかると襲われる危険がある。ゆえにあまり活用する機会がない。

 ただ、相応の期間を旅していることもあり、それなりに作り慣れている。なのであっさりと作ることができるわけである。


「なるほど。まあ、ここならそこまで気にしなくてもいいと思うが……この建物を基に資材を利用して補強、あるいは建物に沿う形で形を作る……そのうえで氷で覆ってより強固に。今すぐは難しそうだが……ふむ……」

「では、とりあえずここを使わせて頂きます。低温の維持に関してはそちらにお任せしますね」

「ああ……冬の間になんとか準備しなければいけないか…………」


 冬の間に彼女たちが過ごせる環境を整えることができなければ勝手にどこかに行くことだろう。それはそれで別に公也側に損があるわけではない。ただ、彼女らの信用は失うし冷凍庫代わりに利用するつもりなのができなくなる、色々と考えたり用意していることが無駄になるなどいろいろな損がある。なのでできる限り方策を考えて実践し大丈夫かどうかの確認を行う。そんな風にいろいろと予定の入る冬の生活状況である。


※雪奈さんのトラウマ。宿の経営者として泊まりたい相手を相手の事情が宿側に不都合になるので泊められないと判断することになった。しかし実際には泊めたい。他の客がいないのでいいのでは、と思わなくもないがしかし宿経営の判断上泊められない。彼らが泊まり寒くなるのは雪奈自身にも影響を与えるので望ましくはない。そういった諸々で泊められない。アイデンティティーが壊れる。

※冬魔物がいる場所は自然と寒くなる。密閉さえできるのならば冬の状況下でなくとも生存はできる。ただ外の温度の影響などもないわけではないためやはり冬の低温下でなくては厳しい。逆にいえば冬という状況の環境を維持、作成できれば彼らも元々の状態のまま生活できる。

※氷や冷気の扱いと言う点ならば冬姫。直接戦闘能力で言えば冬将軍。

※氷に冬魔物の冷気を用いて冷蔵・冷凍保管庫作成の計画。

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