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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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 森の中遠くから響く何者かの悲鳴。ただそれだけならば単純にホラーじみていると思うだけなのだが、それが近づいてくる場合、それは単なるホラー感覚ではなく、何かが来るという危機につながると確信するものである。


「あああああああああああああ!!」

「……何か来た」

「来たみたいだな。さっきからずっとあの悲鳴を上げているし」

「気づいてたなら離れればよかったと思うのだけど……」

「いったい何が来るのか、少しは興味を持たないか?」

「……ちょっとは」


 ヴィローサは妖精であるため、公也の言うようによくわからないもの、知らないもの、動き回るものなど、他の何かに興味を持つことはある。ただ、ヴィローサはちょっと妖精としては壊れており、その情熱はすべて公也に向かっているためそれほど公也以外の物に対する興味はなく、それゆえにあれこれ見て回るつもりはない。自分自身の興味は優先するつもりはないが、公也のためになるならばそれはそれで何か興味を持つことはある。

 公也の場合はその貪欲、食欲にも等しい知識欲、あらゆるものを欲する暴食の欲求ゆえに、未知の存在に対する興味は強い。悲鳴自体は男性が何かに追われてあげているような悲鳴、という推測はつく。ここで問題となるのは悲鳴の主ではなく、その悲鳴の主が悲鳴を上げる原因になったもの。この世界であればそれは獣か、あるいは魔物か。悲鳴を上げている要因は何か? 相手が未知だからか、あるいは自分では敵わないような脅威だからか。公也は他者の強さを知らず、どれくらいの冒険者でどれくらいの魔物を倒せるのかもわからない。公也自身は先ほど蟹のような蜘蛛な魔物を倒しているが、それに対してほぼ苦労と言えるような苦労はしていない。だが公也は少々特殊な在り方をしている。普通の冒険者では倒しにくい存在なのかもしれないし、そうではないのかもしれない。公也は他の冒険者と交流がないのでそのあたりがわからない。

 仮にこれから来るのが先ほど倒した蟹のような蜘蛛な魔物に追われた初心者冒険者だったとしても、これくらいの冒険者ではこの程度も倒せないのか、という基準になる。それはそれで公也としては一般的な冒険者のレベルを把握する要因になり得る。それもまた知である。


「来たか」

「獣人ね」

「……そういえばそういうのもいたか?」


 街の中で見た覚えはあっただろうか。意外と公也はそういう部分は疎い。あらゆるものに興味はあるのに、情報として一度得た後は処理した記憶はまとめてどこかにぽいっとしまってしまう。解りやすい例が山一つ食べたというのにそのデータに関してまとめていない、という点。基本的に公也は自身の目的を優先するため、別の目的で活動している過程で得た目的にそぐわないものはあまり気にせず蓄積し底に押し込んでしまう。おかげでゴブリンの知識を改めて回収したりと無駄なことをしていたりもする。まあ、それ自体は肉体を暴食で食らうことによる還元もあるため損ではないのだが。

 この世界に獣人はいる。ただ、全体数としては人間よりは少なめ、あまり人間の多い街にはやってこず、基本的には独自の集団を形成しそちらで過ごすことが多い。とはいえ、国という形態や街という形態、小さくとも村という形態で過ごす彼らであるが、別に人間と特別仲が悪いというわけでもなく、群れである自身の所属する団体から離れ各地で過ごす獣人も少なくはない。とはいえ、彼らはあまり分散しないため最終的に自分の住んでいたところに戻ることが多い。基本的に外に出てきているのは若い集団であることが多い。外部で嫁を見つけた場合はそのまま彼らが過ごす近辺のコミュニティに属すこともある。

 一応奴隷や愛好家などのせいで獣人から人間に対しては一部評判が悪いこともあるが、別に人間は獣人のみを奴隷にするわけでもないし、獣人も人間を奴隷にすることはあるのでそのあたりはお相子、愛好家も獣人の中に人間を愛好する存在もあるのでそちらもまたお相子。まあ、総数の関係で人間の方が獣人よりその手の存在の数は多いため、獣人側からの当たりの方が強かったりする。

 そんな話はさておき、公也たちは迫りくる逃亡中の獣人を発見した。


「あああああああああああ! 逃げ、逃げてくださいっ!!」


 獣人はまっすぐ逃げてきており、それゆえに公也たちと確実に合流するコースになる。横に逃げたりすれば回避できるのだが、彼の後ろには彼を追いかけてきた虫の群れがおり、それらが公也の方に向かう……いわゆるモンスタープレイヤーキラー、あるいはトレインなどと呼ばれるようなあるゲーム用語に近いことを起こしてしまうため、彼はそれができない。ではそれ以前に横に逃げればいいのだが、そもそも彼は猪突猛進のまっすぐ進む気概が強く、そのため横に逸れるという考えがなかった。獣人はどちらかというと理性よりも本能で動くタイプであり、そのため脳筋が多いという話である。いや、感覚重視と言っておくべきだろうか?


「今から逃げても間に合わないと思うけど……どうするのキイ様?」

「あれを倒す……とは少し違うけど、なんとかする。ところでヴィラはあれが何か知ってるか?」

「飛巣甲虫だったかな? ごめんなさい、よく覚えてないの。でも確か、そんな感じの名前だったと思います。巣を作る飛行する甲虫の群れ、そんな感じの虫だったと思うわ」

「……あの大きさで単なる虫か」


 巣を作る飛行する甲虫……という単純な名前で語られる生物だが、甲虫と呼ばれる通りその外殻は中々強固であり、性質上群れることが多く追われると今逃げてきている獣人のように複数に追われまずまともに戦うことはできない。巣から離れている時に飛んでいるのを一体一体倒していくのが基本であり、群れを相手にするような存在ではない。もし群れに襲われれば、噛みつかれその肉をかみちぎられることだろう。毒などはないのだが、群れに全身を噛みつかれ対抗できるというのならば問題はないという話で、普通はまともに相手はできない。


「なんで逃げてないっすかあああああ!?」


 獣人は公也たちの横……をすり抜けたかったが、公也たちに虫を押し付けることになるため止まってしまう。


「そのままいけばよかったのにな」

「そんなことよりもキイ様? どうするの? どうやって倒すの? 毒を使えばいいのなら私がやりますよ?」

「ああ、そこは安心しろ。ちょっと魔法で目くらまししてから倒す」

「…………ああ、そういうこと。わかりましたわ」


 公也は杖を構える。


「炎よ薄く幕を張り彼らの視界を遮り給え」


 魔法を発動。特段威力のない、炎のカーテンを作る魔法。虫たちに対しては多少の目くらましになるだろう。しかし、それは彼らをこちらからも見失うという事態になるのだが。


「魔法使いだったっすか!?」

「杖を持ってるし?」

「剣もあるっすよ?」

「剣を使う魔法使いがいてもいいと思うけど……っと、消えたか」

「ああ! 虫がまた追って……あれ? いない?」


 公也の発動した魔法、その魔法により起こされた炎のカーテンが消えた先……そこには虫たちはいなかった。いや、いないだけならばまだいい。そこには死骸の一つも残っていない。まるですべてが先ほどの炎のカーテンに焼かれ消え去ったような、と公也たちの傍にいる獣人はその光景を見て思っただろう。


「あ、あの魔法で倒したっすか!? 凄いっす!」

「…………まあ、魔法みたいなやり方で倒したかな」


 魔法の凄さを褒められるが、公也はどことなく小声で返答するだけだ。

 今回の飛巣甲虫を倒した手品の種は暴食の力である。暴食の力は対象がどこにいようと、視線が通った場所、あるいは空間的に認識できる場所であればほとんど自由に発動できる。あの時公也は炎のカーテンで目隠しをしたが、それでもその向こう側に対する認識はできている。であれば暴食の力を使うことは容易。飛巣甲虫は暴食の力に飲み込まれ、食われて消えたのである。ちなみに炎のカーテンを発動したのは相手の目くらましというよりはこちら側の獣人の目くらましのため。さすがに暴食の力で目の前で消されれば魔法と断言したとしても完璧には信用してくれないかもと思ったためだ。まあ、この様子であれば仮に暴食の力を見たとしても凄い魔法だな、と思っていたかもしれないが。

※獣人。この世界に存在する人種の一種。複数の種の特徴を持つものは一般的に魔物だが人型の存在の場合一部特殊な例がある。あるいは過去魔物だったが今では魔物として認定されていないというだけかもしれない。

※主人公は情報は蓄積する。しかし積読タイプで蓄積した情報は整理されずに積まれたまま。それを整理し必要な情報をまとめ引っ張ってこないと過去に蓄積された情報は中々思い出せない。ただし一切思い出せないわけではなく。その気になれば時間をかけて必要な情報を引き出し思い出すことはできる。時間がかかるのでやらないが。

※主人公の能力を魔法と偽る場合。空間魔法が一番適切。もっとも魔法使いにはそれが嘘であるとバレる可能性は高いので能力はやはり人前で見せないのが一番。

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