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白い集団の前に公也が出る。彼らがいるのは城の前なので城から出たら彼らの前に出ることになる。
「…………すまないが。ここは俺が治めている領地、その城だ。ここは特に何もない場所だが、いったい何の用でここに来たのか尋ねてもいいだろうか」
「………………」
公也が問いかけると老戦士……周りの騎士、籠を担ぐ従者よりもはるかに貫禄のある、歴戦の戦士のような雰囲気をまとう白い老人が反応する。その雰囲気から感じるのはおそらく彼らの中でも一番の強者、メルシーネといい勝負をしそうなくらいに強いと感じるくらいのものである。もっともメルシーネならば恐らく勝つだろう、それくらいの強さでしかない……といっても、ランクで言えば冒険者でBランクは確実にあるといった具合である。そのあたりにいる騎士もフーマルが戦うならば勝つか負けるか、というくらいの強さだ……まあ、フーマルの現時点での強さの区分で言えばCにはまだ及ばないくらい、といったところなので微妙ところである。
強さに関してはともかく。老戦士は公也のほうを見たわけであるが特に何を言うでもない。ただ困った様子で無言のまま籠のほうを見る。そうすると籠から女性が姿を見せる。こちらは老戦士や騎士たちのように白い見た目をしながらもまだ人間味がある……ただし見た目はやはり同じ白さや青さ、氷っぽさがないわけではない。しかし、それでもまだ人間味があると感じられる程度には人間に近い見た目、印象を抱く存在である。
「はいはい。私のお役目ですものね…………よいしょっと」
籠から女性が降り、公也の前に進む。来ている物は和服であり顔立ち、見た目の印象もこの世界の一般的な住人よりは和寄りの印象を抱く。敢えて言うなら、雪奈に近い印象を抱く女性である。もちろん見た目は全然違うわけであるが。
「初めまして。あなたがここの城の城主ですか?」
「そうなっている。土地を収める立場としても、城自身からしても、な」
「城自身?」
「この城はちょっと特殊でな。まあ、詳しい話はいいだろう。それよりもそちらは……いったい何者だ? ここに来た用事は? はっきり言って見た目からしてどう考えても怪しい集団にしか見えない。こちらに対する敵意は特にないようだが、さすがにこのまま迎えるというわけにもいかないし放置するというわけにもいかない。怪しすぎる」
全員が普通の肌色をしていないうえに着ている服の色まで一緒、というのは明らかに怪しい。まともな集団には見えない……いや、一応統一された衣装、装備というのは一つの集団としてはあり得る。ただ、それが真っ白、肌色も一緒というのは少し奇妙に映るかもしれない。しかしここは異世界、ファンタジーの世界に近い世界。そんな世界であれば種族柄、宗教柄、色々な形でそういった集団ができることはないとは言えない。ただ人間の集団でそれを見た覚えはなく、またそういう話も聞かない。ゆえに公也としては怪しいと判断するしかない。もしかしたら公也以外の人間ならば知っている誰かしらがいたかもしれない。
しかし残念ながら今回はそうではないので誰かわからない怪しい集団には相応の対応だ。まあ、これでも大分落ち着いているほうだと思われる。
「怪しい…………そういわれると少し傷つきますね。どこが怪しいのでしょう?」
「白い。全体的に」
「………………確かに怪しいと言われたら仕方ないでしょう。少なくとも人間の方にとってはどうしても不安に思うことになるでしょう。私たちが人間以外の種族、それも危険な存在であると思われているということですか」
「まあ、概ねそんな感じになる……それで、そちらはいったい何者なんだ? 何らかの種族、集団、あるいは魔物であるにしても、一応その正体に関して教えてもらいたいところなんだが?」
「そうですね。まずはこちらから自己紹介と行きましょう。私は冬姫です。こちらは冬将軍。私の周りにいる騎士は冬騎士、私を運んでいたのは冬従者たちです」
「………………………………」
一瞬なるほど、と公也は思った。しかし……その名称はいかがなものか、と思った。冬姫、冬将軍、冬騎士、冬従者。役職に冬を付けただけの名前。
「え? もしかして、その冬姫とか冬将軍というのが名前なのか?」
「はい」
「…………種族名とかそういうものか?」
「もしかしたらそうなのかもしれません。冬騎士と冬従者はともかく冬姫と冬将軍はここにいる私とこちらの冬将軍だけですので実質名前と思って構いませんよ」
「…………そうか」
それが名前であるといわれてもどこか納得がいかない。役職名、立場を示すものであって名前とは言い難い。まあ、神のようにほかに同じ存在がいなければその存在以外に呼ぶ相手がいないので実質個人を示す名前と同義と考えていい、ということなのだろう。だがそもそもその名称の時点で微妙に納得いかない。役職に冬とつけただけ、いったいどんな存在だというのか。
「私は名乗りました。私たちは何者であるかを示したと思います。あなたのほうはどうでしょう? あなたは何者ですか?」
「…………公也・アンデール。このアンデルク城、その周囲を領地として持つキアラートの貴族。この城の主でもある。ああ、冒険者でもあるな」
「……人間の方ですよね? ここに城を建てたのですか? そして今も住んでいる?」
「そうだな。住んでいるといえば住んでいる。城を建てたかと問われれば、元々ここに城が建っていた……この城は誰かが建てたものじゃなく発生した城、城魔だ」
「城魔…………突然発生したお城なのですね。なるほど」
「まあ、何でもいいだろう。それより、そちらはいったいなぜここに? 冬姫、冬将軍、冬騎士、冬従者……恐らくは魔物であると思っていいと思うが、こちらにいったい何の用できた?」
魔物である彼らが一体何のためにこの城に来たのか。それがわからない。フズの鳴き声により敵意はない。しかしかといって安心してもいいわけではない。敵意がなくとも暴れる危険性はある。今は敵意がなくとも後で敵意が生まれれば敵対する可能性がないとも限らない。そうでなくとも魔物というものの時点で何らかの脅威があるかもしれない。
まあ、相手は人型の魔物、公也の知る人型の魔物、雪奈やメルシーネ、ペティエットなどのことを考えれば話し合いもできる。そこまで危なく思う必要性はないと思うし、そもそも今もこうして話せている以上敵対する可能性は低い、フズのことも考えれば敵意もないのだから危険はおそらくない、そのはずだ。
「用事ですか。そうですね……敢えて言えば、用事などはないのです。旅の途中、この場所に城が建っているのを見つけたのでそれに興味を持って訪れたのです」
「……なるほど。特にこれといって理由はない、見つけたから来ただけ、か」
「はい、そうなります。ただ、私たちの旅の目的から全くこの場所に来る理由がないというわけではありません」
「…………旅の目的とは?」
旅の目的。魔物が旅する理由は何か……まあ、人型であるので理由があってもおかしくはないが、そもそもなぜ旅をするのか疑問だ。魔物は基本的に一定の縄張りを持つことが多い。放浪魔のような存在ならともかく……あるいは彼らは放浪魔なのかもしれない。いや、放浪魔でも彼らは理由を持って旅をしているのだろうか? なわばりを持たないことと、理由あって旅をすることは同一の意味合いではないだろう。公也としては理由とは何か、それが気にかかった。
「定住する場所を持ちたい、それが旅の理由です。つまり住むことのできる場所がないかを探すのが旅の目的なのです」
「…………住む場所を探す?」
「はい。そうです」
理由としてはよくわからない、そう思わざるを得ない理由だった。公也は彼らの事情に明るくないためしかたのない疑問であるが。そんな疑問を浮かべた公也に彼女は細かく理由を話す。今までも何度か似たようなやり取りはしているのだろう。だから彼女らはそれなりに慣れている様子であった。まあ、ここまでずっと何年どころか何十年くらい旅をしている。その間に何度か人との交渉をする機会もあっただろう。しかし今も旅をしていることから定住はできなかったのだと推測できてしまう。ここではどうなのか。それに関しては事情と公也の判断次第になるだろう。
※対峙しただけでわかる強さは戦闘中の強さとは一致しない。そもそも見かけの強さ詐欺は主人公が一番やっているのであまり感じる強さはその相手の厳密な強さを把握する当てにはならない。
※冬魔物。冬の期間にのみ発生して生きる魔物。冬姫冬将軍は主としては一体しか生成されない特殊な個体。冬騎士は冬姫の僕として生まれる複数個体。どちらにしても魔物としては一塊で生成される群体としてみれる存在。




