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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
八章 冬期来訪
227/1638

8



「ふう。結構遠くまで来たものね。でもどこか休めるような場所はないかしら」

「………………」

 騎士は首を振る。今までそんな場所は見たことがないと。

「ええ、そうね。私たちを受け入れてくれる場所がないものね。仕方のない話だけど。前に見た宿らしき場所はどうかしら? あそこは人が訪れるような場所ではなかったと思うのだけど」

「…………」

 騎士は首を傾げる。その場所は自分たちを受け入れてくれるかわからない、と。

「確か一度行ってみたことはあるのでしょう? どうでした?」

「……………………」

「そう。訪ねてみたけどお断りされたのね」

「…………」

「寒い? 種族の問題ではなく私たちが入ることで寒くなるのが問題であると。そう、まあそうなるのは仕方のないことでしょう」


 不思議な一行が会話をしながら寒い山の中を進む。雪が吹雪く中、寒さもものともせずに歩いている。見える影は数人の騎士、一人の重厚な鎧を着けた老戦士、そして数人の従者にその従者たちが担ぐ籠にのる女性。姫、洋風なプリンセスとは違う和風な姫と言うのがふさわしいだろう女性だろう。まあ見かけは和よりも洋の雰囲気がある。騎士は洋だが戦士は和、和風の戦士、武士といった方がいいかもしれない感じである。

 しかし、彼らの奇妙さはその風体よりも、見かけの色合い。彼らの色感は統一されているといっていい。しかしその色合いは普通の人間らしくない。青く白い服、透き通るような氷のような印象を抱く服装、その体も白くまるで氷であるかのような感じだ。騎士、老戦士、従者、共に似たようなものだ。たった一人姫だけはその色合いの中でも若干人間味のある色合いをしている。最もそれでもやはり白と青を基調とした氷のような色合いだ。


 騎士は頭を上げる。何かを見つけた様子である。

「あら? どうしたの?」

 騎士は指で指し示す。そこに見えたものがある。城のようなものが見える、と。

「お城? あんなものあったかしら?」

「………………」

「やっぱり以前来たときはなかったわね。このあたりには何時きたかしら? 何年前?」

 騎士は首を振る。誰もそのことは覚えていない。自分たちにとって時間の感覚は曖昧である。そう示す。

「そうね、覚えているわけがないわね。ああ、仕方のない話だわ……私が覚えていないのに供に覚えていないか尋ねるのもどうかしているわ」

「……………………」

 騎士は首を急いで振る。そんなことはない、あなたは悪くないのだと。

「ふふ、ありがとう。でもこんなところにお城なんて誰が建てたのかしら? 住んでいる人はどんな人? 行ってみるのもいいかしら」

「………………」

「追い出されるかもしれないわね。でも、そんなことにはもう慣れっこでしょう? ならもしかしたら入れてくれるかもしれない人を探すのもありでしょう? こんなところに住んでいるならそれこそ普通じゃない変な人かもしれないわ」

「………………」

 騎士もふむ、と頷く。それはありえないことではない。あくまで可能性だけではあるが。


 意見は一致し、とりあえず騎士の見つけた城へと彼らは向かうつもりであるらしい。彼らは特に向かうべき場所はない。ただ冬の間旅をしているだけ、その旅も別に特に何かの実入りがあるというわけでもない。彼らには定住する場所がない。受け入れられる場所がない。それゆえに旅をしているだけなのである。もしかしたら自分たちを受け入れてくれる場所があるのではないか、そんな希望を求め旅を続ける。続けている。

 そんな彼らが向かう先はアンデルク山の頂上付近。アンデルク城。公也の収める領地アンデール領。下手をすれば人よりも魔物のほうが割合が多めになりうる場所。城自体もまた城魔であり、彼らのような存在も住むことができるかもしれない……そもそも彼らの正体は特に何も言われていない、現時点では不明な存在たちだが。






「雪が降ってるな」

「降ってるですね。外は寒いですよ。私は平気ですけど」

「そうか」


 アンデルク城は基本的に室内にいる限りは寒くない。ただ、扉を開けて居たり窓を開けていたりすると外から寒気が入り込むので寒い。外の様子を見ている公也とメルシーネは気温の下がった部屋の中にいることになるので寒くなるだろう。まあ、公也が事前に魔法で対策を打っているので多少寒くなっても問題ないし外気が入らないようにしておけば寒くなることもない。あるいは公也自身に対して体温維持や暖気をまとう魔法でも使えば問題ない。


「しかし……雪か。積もるとなると面倒だな」

「そうです? 基本的に問題ないと思うです」

「まあ、雪の処理はな……外で過ごすとか、そういう方面だと問題がありそうでな。っていうかフズあたりは大丈夫だろうか」

「あの鳥……警戒烏だったですか? 別に元々野生の生き物だったなら大丈夫だと思うのですけど」

「……………………………………俺が落ちていたのを拾ったんだけど。多分巣立ったか何かの。いや、それほどでは……ないか?」


 フズは飛び立つのに失敗し落ちていたところを公也が広いそれから一緒に生活しているという状況である。なのでどこまで野生で生きていたのかわからない……巣立ち失敗か、単に飛ぶのに失敗して落ちただけか。ともかくどこまで安心していいかもわからないわけである。


「ダメならダメで中に入ってくるのではないです? 別に死ぬまで外にいるとは思わないのです」

「……まあ、それもそうか。別に入ったらダメとも言ってないし」


 さすがにずっと外で死ぬまで寒さに耐え忍ぶということはない、そう考えられる。人と共に過ごしていた経験がある以上何かあれば建物の中に入って過ごす、ということができないわけではないだろう。


「それにしても…………暇だなあ」

「冬だから仕方がないのです。でも冬ならではのものも外にはあるのですよ。取りに行くのもいいかもしれないのです」

「…………確かに季節柄というのはあるか。場合によってはフーマルを連れて外に出るのもありか」


 外に冬特有のものを狩りに行く、採りに行く。それもまた一つの冬の風物詩……というかはわからないが、ただ城でずっとゴロゴロと何もしないでいるよりはいいかもしれない。

 そんな風に考えていたところにフズの鳴き声が響く。


「カアッ! カアッ!」

「……あの鳥の鳴き声です?」

「みたいだな。何か来たか……警戒の鳴き声じゃないってことは敵意があるわけではないと思うが……」

「つまり魔物などの危険な生き物ではないですか……でもここ山の上なのです。何が来るというのです?」

「それはわからないが、とりあえず何か来た様子であるし出てみる」

「ついていくのですよ」


 フズは警戒の鳴き声だけに限らず、来訪者が来たときにその存在を知らせるように言い聞かせてある。今回のこれはその一環、誰かが来た……ということだ。少なくともフズの警戒、危険、危機には引っかかっていない存在。それはつまりこの城の住人の敵でもないということになる。なのでとりあえず何が来たか、誰が来たか、対応して確認したほうがいいだろう。そういういことで公也たちは外に出る。




「白い」

「白いなのです」


 公也が外に出て見つけた集団。それは白色の集団。青く白い、白く青い、氷のような印象を持つ装備をしておりまたその肌も白め青め、氷のような感じを抱く。見た目だけで言えば動く人型の氷の集団といってもいい存在たち。籠を担ぎ誰かがそこに乗っているのだろう。もっともその姿までは確認できないが。


「……とりあえず、いったい何者か確認したほうがいいな。敵意はなくともとりあえず怪しいことには変わりないし」


 明らかに尋常の存在ではないというのがわかる存在たちである。しかし放っておくというわけにもいかない。怪しいからこそ逆にいったい何者かを調べなければいけない。仮に危険な存在なら敵意がなくとも排除しなければいけないだろう……そもそも、公也の想定ではおそらく魔物であると考えられるのだから。



※喋る人、「……」で無言だけ喋ってる人、地の文で行動を表す人の三者。

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