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燃料が必要ない、と言ってもそれは完全な効果を発揮しているわけではない。外の下がった気温の分内部もある程度気温は下がるし、窓を開ければその分空気の流動で温度が下がる。下がった温度は一応城の能力の効果である程度回復するとはいえ、それなりに寒く感じることには違いない。それに温度が問題ないからと言って食事をするためとかにも必要になるだろう。根本的に燃料が必要なことには変わりない。
そのため燃料書くほどに森に木々の確保に公也は向かう。単純に燃料の確保だけではなく、公園用の木々の確保、フズの巣用だったり食料確保がしやすいように果実樹を探すなど、色々と目的はある。まあ現状では燃料確保のついでに近い。フズの止まり木の用意はできる限り急ぎたいが。公園に関しては池も作り魚も放ちたいところであるが、それに関しては確保自体が難しいというか面倒くさい感じなので簡単にはできない。そもそもこんな森の中で水棲生物の確保は簡単ではないだろう。餌も問題があるし、そもそもこれから冬を迎えるのだ。環境を整えること自体大変な作業になる。
まあ、そんなことはともかく公也はフーマルとヴィローサを伴い森の中である。
「そろそろ寒くなるのに森の中っすか……」
「寒くなるからこそだろう。今はまだ大丈夫だが本格的に寒くなると城から出るのも辛くなる。今のうちにできる限り食料燃料その他いろいろを抑えておいたほうがいい」
「まあ、そうっすね……」
「文句ばっかりいってると食料足りなくなったらフーマルが食料になってもらうわね」
「それはさすがにないっすよね!?」
「ないからな」
人間を食料とするのはさすがに公也もやりたくはない。知識として、経験として、実際に食したいという知的欲求がないわけではないがさすがに倫理的に、精神的にそれをやるのは遠慮したい。本当にギリギリな時、あるいはそれ以上に求める知がなくなるなどの特定の条件を満たさない限りは公也もそういったことをやるつもりはない。まあ、暴食で食しているので直接食することに忌避感があるといわれても少し疑問はある。直接食すことと暴食で食すことは全然違うのでその感覚の違いは仕方のない話でもあるのだが。
「一応獣や魔物以外にも木々を採っていくのも一つの目的だけどな」
「木っすか……斧でも持ってこないと伐るの大変っすよ?」
「いや、これくらいなら一太刀で斬り落とせるようにしよう。それくらいできるくらいにフーマルを鍛えるということだ」
「無茶ぶりっす!?」
流石に木々を直接剣で斬るというのはそこまで単純で簡単な話ではないだろう。もっとも冒険者は場合によっては木々よりもはるかに切断が難しい相手と戦うこともある。強固な甲殻を持つ魔物であったり岩でできた体をもつ魔物であったり。そういった魔物と戦うことを考えれば木々を斬ることなどできないほうが問題だ、と言っていいだろう。つまりそれくらいできなければ魔物の相手も難しい、という話だ。まあそういった魔物はそれはそれで別に斬る以外の戦い方もあるのだが。無理に斬ることにこだわらなくてもいいだろう。それ以外の手段が使えるならば。
「まあ、俺もできるといえばできるが力押しだからな……こればっかりは技を教えるというわけにもいかないし……」
「できるんすか……ひえー」
「やるだけやってダメなら無理は言わない。普通に魔物を狩る以上のことはしないでおこうフーマルは」
「そうはっきり諦められるのもちょっと納得いかないっすけど……」
「どっちがいいのよフーマルは」
師にできないのならば別にいいと諦められるのにも不満があるし、かといってやれと言われて無茶ぶりをやらされるのもどうなのか、というのがフーマルの感想である。基本的になんというか極端なことを求められている感じだからそうなるのだが。こればかりは公也が悪いと言える。フーマルも段階を考えてやっていけばそこまで文句も言わないだろう。そもそも実力自体は発展途上、修行途中である。
「いや、どちらがいいといわれも困るっすけどね……もうちょっと、普通に修行してほしいところっす……あのメルさんもちょっとあれっすし……」
「メルとはどんな感じだ?」
「おもいっきりどつかれてるっす……傷とかあっても回復できるんだからって結構ぶっ飛ばされるっす……なんか竜の威圧とか言ってすっごい恐いっすし……まあ慣れたっすけど、慣れたからって心地いいってわけでもないっすし……まあ、あれっすよね……」
結構大変な目に遭っているようだ。メルシーネはそのあたり手加減をしても容赦はしない。無理はしないが無茶はする。公也とはまた別ベクトルで面倒くさいといえる。まあ、どちらも強さで言えばまともな普通のこの世界の存在よりもはるかに強い。それゆえに本当に強い存在を相手にすることにより鍛えられるということは事実としてある。師匠として、本当の意味でちゃんとした師弟関係を築きものを教えているわけではないが強者との戦闘経験で徐々に強さを引き上げているのが現状である。やらされる側としてはなかなか厳しい状況にあるのではないだろうか。
「鍛えられるのもいいっすけど、俺としては冒険者の仕事をしたいところっす。ここだとギルドがないんで冒険者のランクが上がるっていうこともないっすし」
「……そうだな。ギルドを何とかこっちに引っ張ってこれればいいんだが」
「そういうの師匠の仕事っすしね。でもギルドが来ても仕事はなさそうなんすよね……」
「確かに。ただでさえ領地として機能してないからな」
「魔物退治だけじゃだめなの? キイ様が頼むとか……」
「それは厳しいな。お金の問題もあるし、そもそも仕事して頼むようなことでもない……結局俺がやるしなんというかマッチポンプみたいな感じだな。いちおう冒険者ギルドに素材を持ち込むこと自体はどうにか……ロムニルたちの依頼としてなら通るか?」
さすがに普段自分でやっていることを自分で頼み自分で処理する、というのはなんとなく納得がいかない公也。一応ランクを上げるだけならできないこともないかもしれないし、領主としての役割、冒険者ギルドへの依頼としては正当なのかもしれない。しかし、どうにも本来しなくてもいいことをしているような……という感じで受け入れづらい。
ただ、ロムニルたち、ロムニルとリーリェが魔法薬を作るための材料集めを依頼として頼む、ということならばまだ受け入れることはできるかもしれない。これは個人の依頼であり、公也としても領主としての仕事としては考えないもの、自分が行うべきこととはちょっと違うからである。普段は公也が森に入り持ってくる形で、ついてにフーマルが入ったときにも同じようにやっているが、これを正式にギルドに出す依頼とすれば悪いものではないだろう。
「まあ、そもそもギルドが来るかどうかだな……街にすらなっていない状態だ。領地である以上ギルドがあってくれないと困るが、そのギルドが維持できる状態にはないだろう。まずはそれができてからってことになるかもな」
「…………そうっすね。依頼を出す人がいないならギルドはあってもあまり意味ないっすもんね」
まずは人、領地として正しい経営状態を作り出す。ギルドが来て依頼を受け付けるのは人が増えギルドの必要性が出てきてから。残念ながらまだ先の話ということになるだろう。
※いろいろやりたいことはあるがそれができる環境が用意しきれない状況。そもそも山のかなり上だからできないことも多いかと思われる。
※現状冒険者ギルドがアンデルク城に来てもほぼ旨味はない。そもそも置く場所もない。




