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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
八章 冬期来訪
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2



「白い」

「白いね。ここまで高いところから見下ろすのは初めてです。ああ、キイ様と一緒にこんな光景を見られるなんて……」


 ワイバーンの上に乗りながら公也とヴィローサは地上を見下ろしている。移動の最中、冬の訪れの光景が地上を覆い白い地平を作り出している。珍しい、というよりこの世界では冬の訪れたその日しか見えないもの、年に一度の光景だろう。そんな日に空に飛び立つ機会というのもまた少ないと思われる。まあ今まで見たことない者が一人もいないというわけではないが、やはり珍しい光景となるだろう。特に実際に見るとなると。


「珍しい光景ではある……んだろうな。ヴィラはそこまで高くまでは飛ばなかったか」

「飛ぶと襲われて危ないですもの。私たち妖精は飛ぶ生き物からだと格好の獲物だから……あんまり高く飛べないんだよね。今の私ならまだしも、以前の私だとまず無理だし……今の私でも急に襲われたらどうしようもないかも」

「……そうか」


 基本的に妖精は弱い。その特殊能力の厄介さはあれど生物としては強くもない生き物である。意外に耐久力はあるが、殺す気で襲えば容易に殺せる相手だ。謎の飛行能力による飛行移動の高速性と小さいゆえに見つかりづらい点、特に妖精が主に相手をする人間相手ならばそれは悪くない要素である。しかし同じ空を飛べる生き物が相手となると厄介だ。そしてその妖精の小ささは空を飛ぶ生き物、主に鳥系統にとってはむしろ狙い目。そして妖精の能力は厄介ではあるがその強さはヴィローサのような一部の例外を除けばそこまで極端に高いということもない。つまり襲われれば抵抗して襲ってきた相手を倒す前に殺されて餌にされる可能性が高い。なので妖精はあまり高く飛ばず地上付近を飛んでいることが多い。少なくとも木々より高く飛ぶことはあまりないだろう。妖精の一斉大量移動、群れて移動するようなことでもあれば話は違うかもしれないが。そもそも妖精自体それぞれ勝手に生活して過ごしていることが多いのでまとまる機会もそう多くはないだろう。たまに妖精たちが集まって過ごしている集落か何かのようなものができていることもあるが、それは比較的珍しいことである。


「しかし、冬か。大丈夫かな」

「備蓄のこと?」

「それは今から買いに行くわけだが……期間の問題とかな。冬の期間が一定でないって言うのは不安だ」

「それが当たり前なんだけど……キイ様にはそうではないのね」

「まあ、な」


 ヴィローサは公也のいろいろなことを知ってはいるが、そのすべてを知っているわけではない。知らないことは知りたいし訪ねたくもあるが、そのあたりのさじ加減は公也に任せることにしている。無理に聞こうとしない、明かされることは信頼されること。公也のすべてを受け止めるのがヴィローサの役目である。自分を受け入れてもらったのと同じように。


「…………私はべつに聞きません。そんなことよりも、キイ様と一緒に街を歩くほうがいいもの。デート、デートです! デートでいいのかしら!? キイ様と一緒、一緒なの! ああ、でも何かねだるなんて……それはちょっとはしたないわね」

「あまりそこは気にしなくていいぞ……どうせお金は余ってるからちょっと浪費するくらいなんでもないぞ? ヴィラは普段そういうわがままも言わないしな」

「う、ううううう! そういわれると欲が出ちゃう……で、でもキイ様が買ってくれるなら何でもいいし、そもそも一緒にいられることだけでも十分幸せだし……な、何かあったら、欲しいものあったら言ってもいい?」

「別にいいぞ」

「わ、わかったわ。本当はキイ様が一番欲しいけど、それは買い物で買えるものでないものね……」


 それに関してはまた後で、戻ってから。買い物とはまた別の話である。






 そんな風にヴィローサと一緒に公也は冬に向けての蓄えを開始する。買い物ですべてを賄うこともできないというわけでもないが、別に買い物だけですべてを賄う必要はない。そもそも冬が訪れるとなったわけであるが、今はまだ本格的な冬、寒くなる前の状態である。その間にやれることをやっておく、山の中に入り獣や魔物を狩り肉を確保したり、まだ枯れる前の残っている野草や果実の類を探し収穫したり。ついでに森の木々を刈って燃料として確保したりいろいろとできることはある。


「燃料っているのかしら?」

「ここ城魔なら魔法陣でどうにかできるんじゃないのかい?」

「………………確かにそういうことができる可能性もあったか」


 ただ、この城アンデルク城は城魔である。結界や帰還、遠話の魔法陣のように魔法陣を使うことで環境を快適にすることができる可能性は高い。そもそも建物自体の補強に魔法陣を用いるつもりがあったわけであり、それは建物を補強するだけに限らず環境的な補強、つまり快適な空間を作るために魔法陣を使用することもできるだろう。まあ、その場合魔法陣を作ることから始めなければいけないわけであるが。


「まあ、今のところ可能性だ。念のために用意しておくのは悪くないよな」

「そうね」

「実際どうなんだろうね? 魔法陣で温度の確保とかできるのかな?」

「……聞いてみるか」




「別に魔法陣はいらない。城は常に良い環境を維持できる仕組みがある」

「…………それはつまり、城の中は一定の温度を維持していると?」

「大体は。ある程度外の影響は受けるけど大きな変化はない。ただ、それは密閉された空間、直接城につながる部分でないと効果はない。正確には完全に密閉されてなくてもいい。窓があってもカーテンでもかければ問題ない。通路……倉庫みたいなのにつながる通路みたいに完全に閉じてないのはダメ。倉庫も城から離れ居ているから効果がない。でも宿は城から直接続いているから大丈夫。効果がある」


 つまりアンデルク城本体そのものに通じる場所で建物内部と認識する部分でないと効果はないということになる。つまり城内部、あるいは城に直接つながる建物の内部ならば効果がある、逆に城とつながってもきちんと閉じた建物でない場所には効果がない。城魔としてペティエットが移動できる範囲であっても開放的な空間では効果がない……公園部分とか、そういう部分では。まあ城の屋上が外でも快適な温度を保ち続ける空間であるというのも変なものだろう。空気の流動がないならともかく呼吸に問題ない以上空気の流動はあるわけで、ずっと快適な温度を維持し続けるようなことになれば温度は常に上がり続けることになるのではないか。それはさすがに問題がある。


「…………まさか魔法陣すらいらないとか」

「これは予想外だね」

「そうね…………意外と城魔って凄いのかしら?」

「魔物だからよくわからない特殊能力を持っているってことなんだろう。凄いね」

「凄いわね」

「すごいの一言で納得しないでもら居たものだが……まあ、体温維持と似たようなものと思えばいいのか?」


 城魔が生物であると仮定されるのなら体内の温度は常に一定を維持するようにするというのはおかしな話ではない。まあ、体温を維持するのは恒温動物であり変温動物ではできない。城魔はそもそも生物ではないのでその仮定による推論もまたおかしな話になるが。


※空中デートみたいなもの。まあデートと言うほどでもなさそうだけど。ヴィローサ的には他の女よりも先に、一番最初に一緒に主人公と見た景色だから満足している感じ。

※城魔の機能には城で過ごす人間にとってよりよい環境を提供するものがある。気温の管理もそういった部分で行われている。まああるていどの幅はあるが。

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