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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
七章 館城建築
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28


 ペティエットの部屋。城魔、アンデルク城内に存在する城魔の意思である彼女がいた部屋。今そこはそれなりにあれこれと物が置かれていたり、壁に魔方陣が書かれていたりするそれなりに賑やかになってきている部屋である。一部は改装、壁を弄り窓を作られて外が見える、そんな色々と以前から変化している部屋。将来的にペティエットとしては少し部屋を広げたい、と思わなくもないがそれができるかどうか、それをして安全かどうかペティエットとしては不安もないわけではない。城の部屋であるが、この部屋はある種特別、特殊な部屋。城魔の意思であるペティエットが生まれ閉じ込められていた閉鎖されていた部屋である。もちろん外とのつながりは扉があった以上ないわけではないが、元々は窓もなく明かりすら入っていないところ。それをペティエットを縛っていた鎖は失われ、窓が作られるという元よりも大きな改造がなされている。その時点で城魔に何らかの影響があるのではないか、と思わなくもない微妙に不安になるところである。まあ今のところ特に何もないということは問題ないということなのだが、将来的にもっと改造を加えたとき問題が起きないとも限らないわけである。ペティエットも現状の把握はできても将来的にどうなるかということに関しては何でもわかるわけではない。城のことは彼女の能力の管轄ではあるものの、そのすべてを理解できるわけでもなく。城魔と彼女は厳密には違うもので可能性まで完璧にすべてを把握できるわけではない。


「………………あなたは誰?」

『私?』


 ペティエットの部屋に一人、どこの誰とも知らない存在がいた。薄っすらとその存在はペティエットですら把握しきれない……城魔の場内の把握能力で存在は把握できるが、ペティエット自身としては把握できないような、うっすらとした存在感の存在だった。いや、存在感が薄いというより、存在が薄いというか。薄くて透けているくらいに薄いというか。透けた体をしている何者か。敢えて言うなら幽霊といってもいい、そんな存在である。


『私……だれだっけ?』

「覚えていない? その透けた体、人の姿、元人間の幽霊?」

『うーん……多分そう? 私はちょっと記憶がないからわからないけど……』


 どうやら記憶がないらしいその存在。なぜここにいるのかも彼女はわからないだろう。そして普通に見る分にはペティエットすら把握できない存在の薄さゆえにほかの人に見せようにも見えるかどうかもわからない……ペティエットですら城の把握能力なしではおそらく把握できなかっただろう。教えられてもそこにいるとわからなければわからないような、そんな誰にも知られることのない、見られることのないような存在。


『でも、わかることはあるかな』

「…………」

『私はここの子みたい。よくわからないけど、ここに私はいられるみたい』

「確かにそうみたい。私とは別の形でこの城に縛られている……そういうことらしい」

『縛られる? 私別に縛られてないよ?』

「この城から外に出ることはできない、離れられない、この城にその存在を依存するという意味」

『うーん? よくわからないけど、でも私は本当ならいなくなってるから別にいいよ?』

「そう……」


 本来ならばその幽霊はいなくなっていたはず、らしい。ある意味今の存在感の薄さは本来ならいなくなっていることが要因だろうか。


「………………いつからここに?」

『私がここにいたのは、多分朝からかな?』

「……光は大丈夫?」

『よくわからないけど、大丈夫みたい。多分私は幽霊とも違うのかな?』

「そうかもしれない。アンデッド、というわけではないのかも」


 幽霊の少女、正確には幽霊とは言えない存在であるらしい。幽霊は光に弱い。一応窓が作られることでここペティエットの部屋は光が入るようになっている。ペティエットが戻ってきたころには少女がいたが、その少女が光で消えるようなことも、特に光に対して忌避するような様子も見せない。この存在の薄さであれば光を浴びればあっさりと消え去っていたはずだ。光のせいで薄くなったのではなく、元々それくらいに存在が薄い。

 まあ、存在が薄いといっても消えるような存在であるため存在が薄いというわけでもなく、そう簡単に認識されるような存在でもない、という意味で存在が薄いようだ。これで物理的作用を起こせれば卓越した暗殺者にでもなれそうなくらいだが、霊的な存在である彼女は物理的な作用を起こせない。またアンデッドとして他者に害意を与えることもできない。そういう点でもアンデッドとは少々違う。霊的ダメージすら与えることができないのだから。


「……どうするつもり?」

『私はここにいてもいいの? 本当なら消えていたかもしれないわけだし、このまま消えてもいいのかも、そう思うんだけど……』

「……私からは何とも言えない。それはあなたの自由だと思う」


 そうペティエットは言う。しかし、どこかペティエットは彼女に憐憫を抱く。


「でも、私はあなたが残ってくれるほうがいい」

『そうなの?』

「狭い中だけど、自由に見て、何か楽しみを抱いて欲しい。この城の中で、好きに生きて、面白いと感じてほしい。城に縛られているという点では、あなたは私と同じだから」

『あなたも同じなの?』

「存在としては違うけど。あなたも私も、この城に縛られているのは同じ。あなたが何もすることがなく、楽しみを抱くこともなく消えるのは……私は嫌だと思う」


 それは自分に重ねての言葉だろう。この城に縛られたものが、生きる理由もなく、ただ無為に消える……それは自分がそうなっていたかもしれないことでもあった。公也に助けられなけらば、公也が来なければ、希望を抱くこともなく、救われることもなく、ただいずれ部屋の中で消えるまで過ごすだけだった……そんな彼女であるがゆえに、同じ城に縛られる幽霊のような彼女に自分を重ねてしまうのだろう。だからその少女にも、形は違えど救いを。


『そっか。なら残ってもいいのかな』

「ぜひそうして欲しい」

『そっか。なら残るね』

「…………それで、あなたの名前は」

『うーん、やっぱり思い出せない、覚えてない……記憶もない感じかなあ? 全然昔のこととか思い出せないよ』

「…………そう」


 幽霊のような彼女はどうやら記憶喪失であるらしい。そもそもなぜここにいるのかもわからないくらいであるし、消えるかもしれないはずだった存在……そもそもまともな自我を持って残っているだけでも奇跡的であるのかもしれない。忘れているのではなく本当に記憶を失っている、そういう感じなのだろう。何かに奪われたかのような感じとも言える。


「なら、名前、決めたほうがいいと思う。呼びにくい」

『そっか。なら、決めよ。一緒に』

「…………わかった。一緒に決める」


 そうしてペティエットは幽霊の少女と彼女自身の名前を決める相談をする。自分の名前を付けるときは公也に頼んだことを思い出しながら、名前を付けるっていうのは結構面倒なんだと感じながら。少女にイースと名前を付けるまでにそれなりに時間がかかりながらも、しっかりと二人で考え名前を付けた。幽霊少女、正確には幽霊のような少女。城に取り込まれ存在の薄いほとんど誰にも見られるようなことのない存在、ペティエットでなければ把握することすら極めて難しい秘匿の城霊はそれから城で過ごすことになる。隠れて城の中を見回りそれぞれの行いを覗きながら。その報告をペティエットは受け、色々と情報をため込む。別に何に使うでもないが、何かに使えればいいかもしれないと思いながら。


※幽霊みたいな少女はヴィローサの中にいる例の女性と似通った存在。

※イースの命名元は薄いから。名前適当に付け過ぎじゃない?

※イースのやってることは基本的に覗き。なお別にやらなくても困らない。

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