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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
七章 館城建築
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26



 叶わなくてもいい。届かなくてもいい。受け取ってもらえなくてもいい。それでも主は主であり、自分は、自分のいる場所は主の帰ってくる場所、所有者と所有物の関係は生涯変わらない。どちらかが死ぬまで。だからペティエットは断りの答えであっても問題はない。ただ、想いがかなわないというのは少々彼女としても辛いかもしれない。それでも、結局離れることがないのならば、絶対にかなわなければならないわけではない。その点ヴィローサよりも彼女はまだ安心できるところであった……まあ、女性、女の子としてはやはり想いが叶わないのは嫌なのだが。答えを待つ彼女の表情は彼女が意識できない感情を含んでいる。焦燥、不安、いろいろである。

 そんな彼女の表情を見かねてか、公也は撫でるように柔らかく彼女の頭に手を置く。


「………………」

「なんといえばいいのか、どうにも俺には答えづらい」

「………………」

「はっきりというのは苦手なんだが…………」

「………………」

「ああ、もう、そういう目で見るな。言うから、答えるから」


 じっとペティエットは見つめ答えを返してくれるのを待つ。その視線に公也は何とも言えない感じではあった。ただ、公也としては……答え自体は決まっている。


「…………俺はこういことは苦手だ。ちゃんと受け取ることができるかもわからないし、受け取ってどう返せばいいか、どう対応すればいいのかというのもわからないというか、苦手というか、相手の気持ちを考えるのが苦手というか……」

「………………」

「ともかく、俺はどう受け取った物に対して返せばいいかわからない。ペティはそれでもいいのか?」

「………………」


 はっきり言って、公也は恋愛関連は鬼門と言って差し支えないくらいに苦手なことである。その経験がないというのもあるし、公也自身対人関係の構築が苦手なのもある。とんでもなく苦手で、相手に対して応えられない……そう思うところがある。そもそも無償の想い、与えられるということに対する苦手意識もある。だからどうにもその手のものを向けられて受け取りづらいのである。まだ恋愛感情の関わらないウィタとフェイや雪奈との関わり方のほうがやりやすいと思えるくらいに。ゆえにこういった答えしか返せない。いや、まだ肯定の答えを言ったわけではない。ただ、この時点でもうほぼ受け取ることを選んでいるようなものではあるが。


「かまわない。元々今受け取っているものだけでも十分なくらい。私は無理に求めない。マスターがマスターらしく、私にしてくれるものだけでいい」

「………………本当にそれでいいのか?」

「いい。私はそれでいい。そう選んだから、それでいい」

「…………そうか」


 公也は結構身内に対しては甘い。少なくともペティエットを見捨てるようなことはない。そもそも彼女がこの城の意思、城魔の意思であり、城の管理をその特殊能力で行える以上捨てるということもない。それ以前に公也とペティエットは主従関係があり、それを断つ手段がどちらかの死以外にない以上、その関係が断たれることもない。ならば関係は続く。城が彼の所有物である以上、その所有物を最適な状況に、最良の状態にするだろう。それはつまり彼女のために何かをしてあげるということになる。それだけでもペティエットには十分だろう。自分のために何かをしてくれる主であるというだけで、自分のために頑張ってくれた主であるがゆえに。


「わかった。なら俺はペティエットの想いを受け取ろう。どう、すればいいのか……ちょっとわからないけど」

「…………ありがとう。嬉しい」


 普段特に表情を変えない感じの彼女であるが、自分の想いを受け取ってもらえる、それが彼女にとってはとてもうれしいことであり、めったに見ることのできない笑顔を公也に向ける。とても綺麗で可愛らしいものであった。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


 無言になる。男女二人きりで見つめあい、何を語るでもなく無言なままだ。別に想いが通じ合ったから、というわけではなく、ただ何を話せばいいのか、どうすればいいのか、という状態だからだ。公也も男女関係は得意というわけではなく苦手なわけであるが、ペティエットもそういったことに長けているわけではない。むしろ知識はあるが疎いといっていい。ゆえに何もしない、何かすることもできない状態が出来上がっているのである。


「………………」

「………………」

「………………」

「…………あ。そうだ」

「……どうした?」

「一つ、頼みたいことがあった」


 ペティエットが公也の部屋に来たのは自分の想いを告げに来たというのも一つだ。しかし、それに伴いもう一つ目的、やることがあった。


「建物、増えた。そちらに回す魔力は今のままじゃ足りない」

「足りない?」

「城の一部として認識し、自然と供給は増えるようにはなる。でも、今はまだ足りない。魔法陣を書いて動かせるほどの魔力はない。時間がたてば馴染んで魔力は浸透して使えるようになると思うけど、今は無理。今はまだ城だけの魔力が魔力の全部」


 肉体が増えたが、肉体が増えればすぐに魔力の許容量が増えるというわけではない。馴染みその肉体がちゃんと機能するようになってから本当の意味で城魔の体となり、その分の魔力総量が増えるという形だ。実際宿や倉庫のほう、城壁などには魔力は回っていない。そちらに魔力が回る、魔法陣を書いて機能するようになるのは城との接続がちゃんと認可され、馴染み、正式に城魔の一部となることが必要になる。それには基本的に時間がかかる。

 だが、それ以外に魔力を確保する手段はないわけではない。持ち得る魔力は城の分の魔力しかないが、外から魔力を供給する分にはその分が過剰分となり他の部分に回すことができる。城からは城の維持、城の能力を使う、魔法陣の維持などで回せないにしても、とどめるにしても、他所からの供給ならばその分を供給しても問題ない。ペティエットはその無心をしに来た。


「でもマスターから魔力をもらえれば、その魔力をほかの部分に使える」

「なるほど……」

「その魔力をもらいたい」

「魔力をもらう、か。まあ、それは別にかまわないが……」

「ん」

「えっと?」


 公也の魔力は魔力総量が通常の人間と比べ桁違い、城魔に魔力を回しても全く問題ないくらいにある。しかし、供給方法については知らない。すでに主従の契約は成っているが、そちらから魔力が送られるというわけではない。ならばどうやって、という話になるわけであるが。そう思っているところにペティエットが体を寄せてくる。


「こういうの、初めてだから。私上手にできるかはわからない」

「……………………え? 魔力の供給ってそういうのでするの?」

「ん」


 短く答えるペティエット。公也としてはいきなりそういう話に持ち込まれて少々困っている。そもそもペティエットがわざわざ夜に公也の部屋に訪れ、先の話をした理由はつまりこういうわけである。昼にはできないことをするつもりもあったから夜に来たのだ。そして先の話を断られたにしても、魔力供給という名目で関係を結ぶつもりでもあった……意外にあくどい。

 もっとも、実際にはそれに関して言えば、本当の意味で名目であったりするのだが。実はこういうことをしなくとも魔力供給はできないわけではない。接触を通じての魔力供給というだけであり、手を触れあう程度でも問題なく供給は可能である。まあ、魔力供給のやり方など公也は知らないわけであるし、ペティエットの言い分に従う以上の判断ができないのでペティエットがどうすれば供給できるか、といえば言われた通りに動いただろう。害がない限りは。


「………………えっと、いいのか?」

「さっき言った。この身を尽くして捧げる、って」

「………………」

「だから大丈夫。問題ない。あなたなら、あなたがいい」

「…………………………わかった」


 そうして公也は魔力供給を行う。ペティエットの言うままに。






「……………………」

「何を出歯亀してるです?」

「……別にいいじゃない。止めたり乱入したり毒を仕込んだりとかしないわよ」


 扉の前、ヴィローサが扉を憎々しく睨んでいるところメルシーネが訪れる。ヴィローサはおそらく今日ペティエットが来るだろうな、ということを予測していたので公也の部屋には入っていない。ただ、やはり気になりこの場に来たわけである。そしてその部屋の先で行われているやり取りにすごく眉をしかめている。それでも本性は出していない。不満はあるしすごくイライラしていても、公也が他の女性と仲良くなることは認めている。ヴィローサにとって公也は王子様であり、王子様ならば複数の女性を娶るのはおかしな話ではない。だから問題はないのだ。ただ、嫉妬しないわけではないというわけで。


「おとなしく部屋に戻るですよ。慰めになる程度に話し相手くらいにはなるですよ?」

「ふん。別に捨てられたわけじゃないもん。後でキイ様が一人でいるときに会いに行って相手してもらうもん」

「はいはいなのです。なら今はおとなしく部屋に戻ってるといいですよ」

「わかってるわ。今日は見届けに来ただけだもの……あなたも同じじゃないの?」

「わたしは単に扉の前で悔しそうにしている子がいるなーとおもって見に来ただけなのです。わたしは一切悔しいとも思わないのですよ。ご主人様のためになるのならばそれが一番なのです」

「ふーん、そう」


 ある意味で言えば、ヴィローサ以上にメルシーネは異常、おかしいといっていい存在だろう。生まれ持って誰かに仕えることが決められている生き物、仕え魔。その独特さ、異常さはただの忠誠、忠心ともまた違うものである。もっとも、それを異常という存在はこの場にはいない。他から見てもそれが異常であると気付ける機会は少ないだろう。

 異常な二人が扉の前で言葉を交わし、扉の向こうにいる二人の結果を見届ける……いや、この場合は聞き届けるだろうか。ともかく結果を確認し、それで満足……一方は満足しているが不満という微妙な感じだが満足し、その場を去る。なお、この二人の気配に公也は気づいて地味に精神的に気まずい感情を抱いていたりするがそれはまた別の話。



※主人公は受け入れる性質は強いが応えるのは苦手。だからそういう方面に関しては遠慮気味。

※魔力補給は接触していればある程度はペティエット側で制御できるので本気でそういうことをする必要はない。

※ヴィローサだって空気くらい読める。読んだうえでぶち壊すことの方が多いけど。

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