24
城壁と城をつなげる石壁、作成は『囲』の字のように、中央に城を置き四角の壁に城の壁部分、端からまっすぐ壁につなげる形にしている。城も含め城壁内部の空間は九区画に分かれるように……いや、片側、入り口部分にならない部分とその反対側の壁、『囲』の字でいえば上下の壁ではない左右の内の片側は通路と倉庫らしい建物が存在している。そちらは奥側……『囲』の字の上側方面、つまりは右上にペティエットが出られるような閉鎖的な空間を作ることにしている。ほかの区画に関しては不明だが、倉庫側の反対には宿がある。つまり『囲』の左中央部分に宿がある。それ以外の部分上側左と真ん中、下側左と真ん中、右側下半分の空間は現状どういった形にするかの目途はたっていない。
しかし、一応それなりの形にはできた。まあ、一度に全部をやる必要性はない。ペティエットが外に出るというだけならばそもそも右上部分だけさえ作れればそれでいいわけである。まあ、城と城壁とのつながり、城魔の城としての認識の関係の問題があるためつないだほうがいいのは事実であるが。なので全部の部分ではないが、ある程度はつなげている。将来的に全部繋げるようにするかは今のところ特にこれといって予定はない。そもそも城自体はこの城壁を作った状態が完成形ではなく、これからも増築改築する可能性が高い。最終的に小さな街……とまではいかないにしてもかなり大きな規模にするつもりである。
もっとも今のところあくまで予定、将来的な話であり今は城壁と城をつなげた程度の話である。しかしペティエットが外に出るだけならば、隔離した箱庭的な公園でも充分であると推測し、それを作り実際に外に出られるかどうかを試す。
「どうだ?」
「…………………………………………で、出られた?」
ペティエットは確かにその足を大地に踏みしめることができている。通路や倉庫からではなく、城から直接。一応通路から抜けられるよう、倉庫の側から抜けられるようにという考えもあるがやはり城から出るのが一番いい。もともと彼女自身基本的に城にいる身である。そちらから出られるのが一番いいだろう。公園としての機能は池も植樹もできていないため、城壁しか見えない殺風景な光景でしかない。何もない、地面しかないただの城壁に囲まれただけの空間。
しかし、その程度でもペティエットにとっては初めてのものだ。ペティエットは城から外に出ることができなかった。城の外を見ることができても、城から外に出ることはできない。もともとペティエットは城の一部屋に閉じ込められていた状態だ。何も見えない暗闇、外から入ってものがいなければ外を見ることもできない、明かりすらない。そして本来ならば城魔につながれその部屋から移動することすらできない、部屋の中すら自由に移動できない立場だった。
それを公也が解放し城の中を自由に移動できるようにし、部屋には外を見れるように窓を作った。もっともその窓から外に出ることは彼女にはできなかったが。入り口からも見えない壁のようなものがあり外には出れない。彼女は城の内側にしか存在できない城の意思、城とつながった特殊な存在。城には絶対に彼女は必要というわけでもないのに彼女は城から離れられない。ゆえに外には出れない。空の下に出ることはできない。それが彼女の常識だった。
「……これが…………城の外………………」
「正確には城の外ってことではない……けどな」
「わかってる。私は城から外には出ることができない。そういうものだから。でも、ここは私にとっては……城の外と言っていい場所だと思う」
しかし、それを公也がまた常識を打ち破る発想で解決する。城の外に建物を伸ばし、中庭、城壁などで隔離された限定的な空間を作ることで外に近い環境にペティエットが出られるようにした。流石にもっと開放的な空間に出られるわけではなかった。最初にした城壁の内側の空間、というのはうまくいかなかった。まああの時は城壁に城魔、アンデルク城自体をつないでなかったのも理由にあるかもしれない。つないでいたら出られたかというと怪しいが。ともかく、最初はうまくいかなかったがその後もなんとか考え、うまく空間を作り、どうにか外に出られるようにした。そしてペティエットは城の外に出ることができた……彼女にとっては城の外と言える空間に。
「ありがとう、マスター」
「…………」
「ありがとう、最初に出会った時のことも、その後のことも、私の頼みを聞いてくれたことも、外に連れ出してくれたことも。私には、この城しかなかった。この城だけが私のいる場所だった。もっと狭い、私が最初にいた部屋から外に出ることも本当はできなかった。でも、マスターはそこから私を連れだしてくれた。自由を与えてくれた。最初に来た人は助けてくれなかった。私に会いにも来てくれなかった。自由にしてくれなかった。でも、マスターは…………」
「……ペティには世話になってるしな。これくらいなら別に気にしなくていい。城自体が成長して、ペティがいろいろとできるようになるのはこちらにとってもありがたい。一緒に同じ場所で暮らしている仲間でもあるしな。ああ、俺の場合はペティとは主従……に近いのか?」
「多分所有物と所有者のほうが近い」
「そうか。まあ、それでもな。道具の手入れは持ち主の責任だ。そういう意味では今回のこれも俺がやるべきことの一つでしかない。そこまで気にしなくていい……まあ、喜んでくれるって言うのはこちらも嬉しいかな」
公也としても努力の成果を喜ばれるのは嬉しい。所有者と所有物、道具の手入れとは言っているがペティエットは意思を持つ存在、人間と同位に見てもおかしくない存在である。そんな彼女が頑張った結果喜ぶのであればそれはいいことである。
「わたしもがんばったのですけどね」
「いいじゃない。キイ様のためになってるんだもの。メルもキイ様のためなら別にそれでいいでしょう?」
「…………まあ、そうなのです。ペティのためにもなるですし、ご主人様のためにもなるのです。別に褒められるためにやっていたわけでもないですし」
「そうね。ああ、でも、キイ様が褒めてくれないのならキイ様の代わりにめてあげるわね? いい子いい子」
「すごくムカつくのですよ? 羽虫のように叩き潰してもいいのです?」
「あら、せっかく褒めてあげてるのに。毒殺しましょうか?」
ペティエットと公也のやり取りを陰から見ていた二人……なぜか喧嘩に発展しかけている。まあ、この二人は独特な相性をしている。相性が悪い……いや、相性がいい、そのどちらでもあるというか、よくわからない関係である。まあ、本気で殺し合いするような喧嘩に発展することはなく、口喧嘩程度で済むのだが。
「まあ、気になるのは……今後なのです」
「ふうん? まあ、私はどうなったとしても気にしないわ。キイ様のためになるならそれでいいもの」
「そうなのですか。ヴィローサは自分が一番でなくてもいいのですね」
「…………その言い方には不満があるけど、そうね、わたしはキイ様のためになればそれでいい。たとえ殺されることになっても、キイ様のためになるならすべてを捧げるわ。あなたもそうじゃないの? ねえ?」
「わたしは少し違うのです。わたしは仕え身命を捧げるのです。ヴィローサとは在り様、やり方が違うのです。行きつく先は同じだとしてもです」
「ふうん、そう。ならあの子はどうだと思う?」
「わからないのです。決めるのはペティなのですよ」
二人が話すのはペティエットの行く末。ペティエットの決断。ペティエットは城魔の意思、公也と契約した、公也が死なない限り公也を主とする存在。その公也は死ぬことはない。普通の手段では殺せない、寿命も今はもう存在しないといっていい状態。永遠かどうかはわからないが長い時間、ペティエットは公也を主として仰ぐ。そんなペティエットの公也に対しての態度、向ける意思のスタンス。彼女の心にあった城に縛られること、それからの部分的なものではあるとはいえ解放、彼女の心に救いを与えたこと。それによって彼女がどういった行動をとるか。それについて話していた。
まあ、どうするかはペティエットの意思次第。どうなるか、どうするか、それは現時点では二人には見えてこない。公也も知らない。どうするつもりなのかを知っているのはペティエットだけである。
※最終目標は城塞都市。内容はともかくそんな感じを目指す。
※ペティエットが外に出られたが実質的には中庭みたいな空間と大差はない。
※ペティエットがいける範囲は城の中のみ。つまり外に出たつもりでも城魔にとっては城の中という認識になる。それでも大地を踏みしめ空を見上げることのできる空間に出られるのは彼女にとって初めてのこと。おそらく城魔でも世界初。




