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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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「………………ん、朝か」


 公也の泊っている宿屋の一室、ヴィローサもいるしフズもいるため少し狭めながらも二人部屋をとっている。ヴィローサから言わせれば一人部屋でいい、自分は床でもいい、公也の使うお金が少なくなる方がいい、という意見がでてくるが、さすがにそれは公也も気が咎める。それに一人部屋の狭さだとたとえ床で寝るにしてもやはり狭いことに変わりはない。荷物はまだどうにかなるが、やはり狭いのはいろいろと面倒くさい。フズもいるゆえに。別に公也自身は自分の元々の自室がそれほど広くなく、いろいろとあって狭かったので別に広い部屋でなければいけないというわけでもないのだが、まあやはり他の者がいる以上ある程度広さはとって余裕を持っておきたい。公也はすこし頭のおかしいところはあるが、倫理観や心情部分ではやはり人間的な部分が強い。


「……ヴィラ、起きろ」

「…………はあい」


 公也が起き、ヴィローサに声をかける。若干眠そうな声ながらも、ヴィローサは返事をした。公也の眠っていたベッドの中から。


「また入り込んだのか?」

「…………キイ様と一緒に寝たいんだもの」


 ヴィローサは公也のベッドの中にほぼ毎日の頻度で入り込んでいる。いや、ほぼというか毎日。もっとも毎日と言ってもまだ公也とヴィローサが出会って数日なので母数が少ないのだが。それでも毎日入り込んでいるのは事実である。まあ、ヴィローサの性格を考えれば同じ部屋にいて入り込まないはずがない。彼女は公也にぞっこんなわけであるのだから。


「……まあ、入り込むだけならそこまで咎めないが、変に手は出すなよ」

「ええ、もちろん……キイ様は私の王子様だもの」

「どういう理屈だ……」


 ヴィローサの公也への想いはいろいろと複雑で面倒で変な形になっている。ヴィローサの言う通り、彼女は公也を王子……お姫様を救けに来た白馬の王子のようなもの、という見方で見ている。少々頭のおかしい内容である。そのためか、姫と王子なのだから本番は初夜だろう、という思いで手を出さない。もう一度言う、頭がおかしい。少々というレベルでなく頭がおかしい。まあ、今の彼女は壊れて狂って毒されているのでおかしくて当然である。

 まあ、その頭のおかしい思考のおかげで公也はいろいろな意味で手を出されることはない。その点では公也としてはありがたいところだ。もっとも、仮に手を出されたところでそれほど咎めるつもりもないと思われるが。そのあたりは精神的に複雑な感じだ。公也もヴィローサのことを嫌っているわけではない。ただ、公也は公也で自分の考えがある。貞操観念やら恋愛観やらは元の世界のものがベースになるのでどうしても積極的ではないというだけだ。まあ、知識として、感情や感覚、その経験を欲しがるという部分がないわけではないが。ちなみに大きさの差や年齢的な点でも倫理観的にはアウトである。まあ、それを気にする性格ではないが。


「……ところでキイ様、今日はどうするの? ゴブリン以外の魔物を討伐するのかしら?」

「いや、その前に……買い物だな」

「カアッ!」

「…………ああ、いたの」

「カア…………」


 なんとなく、フズは二人の会話中には入れない。いや、なんとなくではなく、フズが鳴くとヴィローサが睨んでくるからだ。なお、このヴィローサのフズへのにらみに対し、フズは警戒音を鳴らさない。ヴィローサは本気で殺すつもりで睨むが、恐らくは絶対に手を出すことがないからだろう。フズが公也の役に立つ限り、フズが公也に飼われている限り。それでも怖いものは怖いのでヴィローサに睨まれないようフズは静かにしている。時折鳴いて存在感を示さないと忘れ去られるので時々鳴いて睨まれるお約束をしなければいけないが。






「それが欲しかったの?」

「ああ。一応持っておきたかったからな」

「でも、使わなくてもいいよね? 剣でも魔法は使えてるし、杖が必要とは思えないけど……」


 忘れてはいけないこととして、公也は魔法使いである。実際ゴブリン退治も公也は魔法を使い行った。しかし、魔法を使うといってもその形態は剣に魔法を纏わせ使うという形や、単に魔法を使うだけの時もあったが、ともかく魔法を使っている。しかし公也は見た目的に魔法使いには見えない。その最大の理由は普通の魔法使いは剣を持って戦う前衛のスタイルをしていないからだ。

 基本的に魔法使いの戦闘スタイルはローブを着て杖を持った魔法使いが後ろから魔法を使う、という古典的なスタイルである。もちろんそういった戦い方をする魔法使いばかりではないが、それが一番多い。別にそうしなければいけない、という理由があるわけではなく、装備の都合上そうなりやすいというだけだ。特に杖を使う理由は魔法使いゆえの独自の理由が強い。


「杖があれば魔法を使うのに効率が良くなるんだ」

「……そういうものなの?」

「そういうものなんだ」


 魔法使いが杖を使う最大の理由は杖を使うことで魔法の効果が上がるからである。

 魔法はそもそも公也が理解したとおり、魔力を使い現象を起こす仕組み。つまり魔力があればどんな現象でも起こせる、ということになる。火で言えばその現象を起こすための熱量、酸素、燃焼物質を魔力で代用し、炎を発生させる。しかし、ここで重要なのがこれらでは魔力がどうしてそれらに変換されるのか、あるいは必要な魔力量というのが不明である。そこで出てくるのが魔力を魔法を使うために必要なものに変換するための式だ。

 魔法使いが持つ杖はここに関わってくる。魔法を使う上で、魔力を魔法に変換するための式、それを代替する仕組みを持つのが魔法使いの杖、ということになる。これは杖に限らず、魔法陣や魔法の詠唱などが代替となり、それらを使うことで魔法を使う際の必要魔力量を少なくしたり、魔法の発動難度を下げたり、あるいは魔法の発動速度を上げたりと様々な恩恵がある。その理由が魔法の発動に関わる式、変換式が効率化されるから、ということだ。

 ゆえに杖があったほうが魔法の発動はかなり楽になり、効果も上がる、ということで魔法使いは杖装備していることが多い。公也の場合魔力量と詠唱である程度どうとでもできるが、やはり杖があったほうが魔法を使う際の効率は上がるわけである。購入しない理由がない。


「……杖を買ったのなら、剣はいらないんじゃないかしら」

「いや、近接戦を杖でやるのはつらいし、魔法以外もある程度使えたほうが都合がいいし。それに剣で戦う経験も欲しいし」


 公也は別に特別魔法に傾倒しているというわけではない。利便性や威力、遠距離可、多様性などの点で魔法が使いやすいから使っているというだけで、剣を使う場面なら剣を使う。そもそも、公也としては魔法以外もいろいろとやってその経験を得たい。それに魔法と剣を合わせたスタイルの戦い方、魔法と剣を合わせた疑似的な魔法……魔法剣のようなものができるかの試しなど、いろいろと公也は試してやってみたいことが多い。知識を、経験を、何もかもを公也は求めているゆえに。


「装備も買ったしギルドに行こうか」

「……防具はいらないの?」

「必要ない」


 ほぼ死ぬ危険がない……という自覚もあるし、肉体の防御性能が高いのも事実、回復能力が高いのも事実。ゆえに公也は防具を買うつもりがない。一応盗賊たちから得た既にある分でも十分というのもあるが、武器というわかりやすいものに対し防具はどういうものかわかりづらい。周囲の視線をごまかす意味合いで買っておいた方がいい、というのはあるかもしれないが別に公也自身はあまり興味がないので買わない。とはいえ、やはりどういう物か知っておくべきなのでいずれは手を出すだろう。ただ、お金の問題もあるので今は手を出さないと思われるが。


※特に何も起きていない。一緒に寝ていただけ。不純行為は一切なし。

※ヴィローサの理屈に常識的な物を求めてはいけない。

※防具軽視。死なない人間はむしろ肉体が消滅したときに一緒に消える服の代わりの方が不安になる。もっともこの判断は後で問題があることに気づく。防具はその時に購入する……かもしれない。

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