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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
七章 館城建築
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17



「雇い主様ー? 私の宿のための建物はまだですかー?」

「……そういえばそういう話もあったな。あそこの倉庫じゃだめか?」

「だーめーでーすーよー! ちゃんと私のために作ってくださいー!」

「そうか……」


 新しく建物が建った……城の一部、ペティエットの移動確認という意味もあったが、将来的に住まう場所を作るための経験のためとはいえ、一応は建物を建てることはできた。その後公也は城壁づくりに入ったわけであるが、そこに雪奈が自分の宿として使える建物はまだか、と言ってきたのである。

 雪奈の宿は別に宿として作られている必要はない。元々雪奈が経営していた宿は雪奈の力で作り出していた偽物の建物だった。ただ、それを作ることで雪奈の力は本来の彼女よりも大幅に下がっていたし、建物も柱だけを基にしていたため規模も小さくその性能もそれほどではなかった。ゆえに雪奈としてはこの地ではちゃんとした建築物、ある程度はまともで宿として使える前提ではなくてもいいからそれなりの規模の建物が欲しいというわけである。

 もともと彼女が公也についてきたのはこの地であれば宿の経営ができるという話だからである。彼女がいた場所は人のいない場所なのでこの地なら宿の経営も多少は意味がある、彼女のやりたい人のお世話ができるということで連れてきたわけである。人の世話ということで家事などはできているし、宿も一応アンデルク城にいる人間を泊まらせるということで一応の運営はできている。ただ、やっぱりそれはちゃんとした宿として、ではない。

 なので今回城壁づくりに取り掛かるという余裕のできた状態……というのはどこか違うが、そんな状態の公也に対し雪奈が直々に出向いてきて改めて聞いてきた、ということだ。


「もう、雇い主様がここに連れてきたんですよー? ちゃんと私のお世話もお願いしますねー? もちろん私も宿の経営もしますし、ここの人のために働くのも嫌いじゃないですけど。でも、私だけ皆さんのために働くのは違います。私のことは雇い主様がするべきですからねー?」

「……わかってる」


 そういうことで城壁作りは半ばでいったん中断、雪奈の宿づくりということになる。まあ、宿でなくていい。厳密な意味で宿として使える建物ではなく、ある程度建物として使える感じであればいい。ただ、これは城とは違う。城として運用するための建物とは違い人を迎えるための建物である。ちゃんとした建物として作る場合、雪奈の力による変化は建物全体には影響しない……城で使っていた場合はそうだ。柱だけのところに建物を作るような使い方をする場合はちゃんと建物も形として、彼女の力によってできるわけであるがもともと建物がある場所に宿を作り出す場合は話が違う。基本的には内装、空間の変化だけで建物の外観は変化しない。なので建物自体はちゃんと宿としてイメージできる建物を作らなければいけない。


「木製がいいか?」

「防衛力よりも包容力のほうがいると思いますね。優しい雰囲気がいいかなーって」

「まあ、人を迎える場所だしな……雰囲気がいいほうがいいだろう」

「あ、できれば大きめの建物をお願いします」

「宿だから収容人数が多いほうがいい……とはいえ、範囲を広げるのは厳しいか。三階建てくらいのほうがいいか?」

「それくらいあるといいですねー。でも、雇い主様、そんな大きな建物作れるんですか?」

「………………規模に関してはあとから増築という形にするほうがいいか。まず一階部分だけを作るつもりでやろう」


 公也は一応建築自体はできたわけであるが、それは決していい出来ではない……建築経験は未だ足りておらず、大規模の難易度の高い建物を作るのはまだまだ難しいと考えるべきである。作ろうと思えば作れるが、しかしその安全性安定性に関しては別。宿として使う場所なのだからちゃんと安全に過ごせる建物のほうがいい。その点に関して公也の実力では微妙なところ。もちろん雪奈の力による変容の影響もあるので建物としては微妙でもそこまで大きな問題とはなりえないと思われるが、かといって手抜きして作るのも公也自身気分的によくない。だが複数階層の建物を作れるほどとは自分自身思っていないということで今回は一階部分のみを作る、ということである。後に増築すればいいし場合によっては魔法の補強などやり口はいろいろとある。


「城には繋げる方がいいか?」

「もちろんです。むしろ城の皆さんのお世話もできますしそちらのほうがいいですよ」

「そうか……宿を作った後もそれはいいのか?」

「もちろん! 皆さんのお世話も好きですからね。それに……どうせ宿ができても人は来ませんしねー? ですよねー?」

「…………」


 現状アンデルク城には特に誰かが来るということはない。つまり雪奈が宿を経営しても人が来ることはない。それこそ城でやっていた時のように城の人間が来るくらいであり、それだとわざわざ建物を作り上げて宿を大きくする必要はないわけである。一部屋分くらいの大きさがあればいい。雪奈の能力による変容は基本的には内装関連でさすがに空間を広げるとかは……できないとは言わないが必要とする力が大きくなるのであまりできない。そもそもそういうことをする必要があるわけでもない。それならそもそも柱を作り建物を作るほうが手っ取り早い。まあ、それでもその力の大部分は使われ失うわけだが。建物を作るのは雪奈自身の力を失わずに活動できるようにするのに重要、あるいは別の部分にリソースを割くために必要なこと、ということになる。


「別に人が来なくてもいいです。どうせ元々いたところでも来ませんでしたしー」

「……まあ、せめてもう少しこの場所が大きくなるまでは待ってくれ」

「いいですよー。雇い主様、いい人ですし。ちゃんと私のやりたいことを認めてくれますしー。ここにいる皆さんもいい人多いですからねー。でもー、待つのは構いませんけどー、ちゃんと宿は作ってくださいね? すぐに」

「わかった」


 雪奈は魔物でかなりの長生きをしている存在である。ゆえに気が長い。待つことはかなり許容する方である。人の来ない場所でも宿を経営し続けることができる程度には。それでも、ある程度は相手のことを考えて行動してあげるべきだろう。具体的にはすぐに宿にする場所を作るべき。彼女の目的、やりたいこと、それが宿という人の世話をする場所なので現在の部屋の状態から変えることは必要なことだろう。別にそこまで急がせるつもりはないが、それでもそれなりに早めにやっておくべきこと。そういうことで公也は宿づくりに勤しむことになった……まあ、一階部分だけなのでそこまで極端に広げる必要もない。城とつなげるという形になるのでその部分で少々手間取ることにはなりそうだが。


※雪奈の宿はほぼ自前で作れるがその代わり雪奈の能力、自由度がダウンする。ちゃんとした宿の場合雪奈はかなり自分が震える力に余裕を残した状態でいられる。

※ぶっちゃけ雪奈は人里に下りれば楽に宿を経営できると思う。問題となるのは雪奈が魔物である点。魔物である彼女を受け入れてもらえるかわからないということもあり、魔物でも問題なく人の世話のできるアンデルク城に留まることを選んでいる……のだと思う。

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