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フェイは一度公也とそういうことをしている。そういうことがどういうことなのかは前にそういった会話をしている場面で察してもらえればいいが、ともかくそういうことをしている。しかしフェイのそれは基本的に一切の恋愛感情を含まない。体を使われているウィタもまたそもそもそこまでの情緒、感情の発生にまでは至っていない。ウィタは成長すれば話は違うがフェイに関して言えば、彼がもともと野生の獣なのが影響しているだろう。夫婦という概念、恋愛による特定の相手という考えは彼にはない。ウィタもそもそも人間ではないのでどういった思考をするようになるかはわからないだろう。
ともかく、フェイはそういうタイプなので一切誰が相手であるかは関係がない。そもそも仮にフェイと恋愛するのであれば、フェイの精神は彼、男性的なものである。肉体が女性であれ男性が相手をするのはどうなのかと思わなくもない相手である。そんなフェイなので信頼ができる相手を欲望の発散に誘ったようだ。公也に関しては当初から自分をここに連れてきたヴィローサの飼い主、主、従える者として、そしてここに住まわせてくれるいい人として信頼があったからであるが、フーマルはここで一緒に鍛えて実力をつけ、番として認めてもいい程度に強い相手として認められた……ということなのだろう。まあ、フェイは番を必要としていないし特定の誰か一人に入れ込むということはないが。
ただ、そうだとしても誰彼構わず誘うのはどうなのかと思わなくもない。強者であれば従う、という獣的感覚でもあるのかもしれないが、一般的な人間側の感覚としては実にあれである。
「フーマル、夜のお誘いなのです。どうするのです?」
「ふええええええええっ!? どどどどどどういうことっすか!?」
「フェイにフーマルは認められたのです。フェイの溜まった欲の発散に付き合わないか、と言われているのです」
「そそそそそ、そういうのは遠慮するっすー!!」
フーマルはどうやらその手のことはだめらしい。別に恋愛できないという意味合いではなく、そういうただ体の関係だけを求めるということが苦手らしい。なんというかフーマルは若い。普通ならば欲望がたまってそういった方面に進むものかもしれないが、フーマルの場合は強くなって格好いい英雄のような冒険者になる……有名な冒険者になる、程度ではあるがその願望がある。そしてそれは別にもてたいとかそういうものではなく、少年的な強い男への憧れみたいなものに近い。要は精神的に子供だ。若いというが、若すぎるともいえるのかもしれない。
「はしって いった」
「なのですね。フェイ、フーマルはまだそういうことはできる年齢ではないようなのです。もうちょっと成長してそういったことを受け入れる年頃の男っぽさが出るまではおそらくそういうことは無理なのです。もっともあの様子だと成長してもそういうことをフェイとするかは怪しいのですけど。とりあえず今はご主人様でそういうことをするのです」
「わかった きみや と する」
「…………個人的には誰彼構わずというのはどうなのかと思うのですけどね」
ぽそりとメルシーネが呟く。基本的に主に一途なメルシーネにはそういった誰でもいいということは理解のできないことである。まあ、フェイも別に本当に誰でもいいというわけではない。少なくともこのアンデルク城においては公也とフーマルだけ、ということになる。そのフーマルがだめなようなので公也以外ではだめということになるだろう。一応フェイは公也とそういうことをした時、既に体験済みである。道中にそういうことができるくらいに認められる相手がいたのかといえばそういうわけでもない。欲求が溜まりすぎるとどうしようもなくなるので本当にやばいくらいに溜まった時点で適当な相手を選んだ。ただ、今は大分余裕があり自由もある、安全も大丈夫ということで選ぶことができるという状況である。
「しかし、あのご主人様はその手のことに疎いのです……ないわけではないのですけど、基本的にはあまりそういったことには意識を向けないのです。欲望も薄いですし……まあ、あのご主人様なのでそれはそれでいいのです。むしろ欲望があるほうがやばいのですし。仮にそういう欲望が高いのでしたらわたしがお相手しないと日常的に死人が出かねないのです。わたしもさすがにそのうち死にかねないのです……」
メルシーネは体力、耐久力ともに人間とは比較にならないくらいに高い。しかし、公也と比べると格段に落ちる。公也はあくまで人間の性能で発揮できる力が基本であるが、その総合力はメルシーネよりも上である。大本の、根本の、源である力の総量の違いだ。公也はあらゆるものを食らい、その食らったものを自分の力に変える。メルシーネは地脈の力を糧に生まれ、その力の総量は結構なものであるが、公也が食らってきた力の量と比べると下になる。なので公也の相手をすると先にメルシーネがダウンする。そしてそんな総合力があるのが公也であるゆえに、一般的な面々が公也の相手をする場合公也側が抑えないと確実に相手がダウンする。下手に公也にその欲求がありそれを満たそうとした場合、相手が死ぬ危険すらありうる。体力もそうだし精力も通常とは違う。そもそも公也の場合、失われた分は補填が入るのである。つまりいくらでもいけるということになる。流石に死ねる。そういう点で公也の欲求の薄さはある意味ありがたいだろう。まあ、その手の関係を望む思慕の立場にあるものとしては公也が積極的ではないという点で不満を持ちかねないということもあるかもしれない。
「まあ、別にわたしが気にする必要はないのです。ご主人様が頑張ることなのです」
メルシーネがいちいち公也のことを気にしても仕方がない。仕える者として主のそういった方面のことも気にしないわけではないが、気にしたところで現状が変わるわけでもない。そもそも、メルシーネ自身は気にするほど問題であるとも思っていない。現時点の面々でもひとまず問題はないし、公也の場合どこからか拾ってくるだろうという考えもある。ヴィローサ、ペティエット、アリルフィーラ、雪奈、メルシーネ、ただでさえ拾ってくる女性が多い。別に全員が公也に好意を抱いているというわけでもないが、そうやっていろいろ気にかけて拾ってくる性格なのでまたどこからか拾ってくるだろうと思っている。もっとも、拾ったからと言って公也に懐くとも限らないが。
※フーマルは初心。というか子供っぽい。
※もしも主人公に性欲が人並み以上にあったなら。まずヴィローサが既に死んでそう。




