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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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「では、まず異世界についての話から。別に私の管轄というわけでもない雑多な無数にある特に管理を行う神もいない、ごく普通のファンタジー傾向の世界です。魔物もいる、戦争もある、人間もいる、亜人もいる、魔法使いもいる、まあ魔王もいるかもしれません。魔王と言っても別に勇者がいるような世界的危機があるわけではなく、単に魔物達で一番強いとかその程度でしょうが。当然危険は多く、普通の人間のあなたでは生存は難しいかもしれません」

「………………」

「まあ、そんな世界に行きたい! なんて言う人は普通はいませんね。最近の人間はこの世界に希望を見出せず、たとえわずかな可能性だとしても異世界で立志を目指す、とかいう人もいるでしょうが、大抵の場合そういう人が行った所で大したことができるわけでもありません。そもそも何処に行こうが人間の本質が変わるわけではありません。そういうのをどうにかするのが神の与える力なわけですが、それでもその力を本当に完璧に最大限発揮できてその世界で本当に身の証を立てられるほど活躍するのは極僅か、それこそ物語の主人公のような人間くらいです」

「能書きはいい。必要な情報を頼む」

「こういうのも、あなた好みの様々な知だと思うのですが……まあいいでしょう」


 話が本筋から逸れたので話を戻させる公也。もっとも、邪神を名乗る女性の言う通り彼にとってはそういう話も一つの面白み、楽しみ、貪る知である。しかし、そういった話を進めていると無駄話が長くなるし本題が話されないので話を戻す。より興味のあるのは、異世界のこと、異世界に行くこと。そちらに関わる知なのだから。何でも貪るにしても、より大きな食い物を、より食べやすい食い物を、より美味い食い物を、より長持ちする食い物を。あらゆる物を食らうにしても、できれば良いものを食べたいと思うものなのだから。


「行き先についてはいいでしょう。行き方は単純で私があなたをそちらに送るだけ……ですが今のあなたを送ることはしません」

「…………行った所で長生きはできない。そもそもなんで送る? そうする理由は?」

「それが面白いから、です。あと、暴食担当、七つの大罪の一つ、悪の要素の一つ、それを育て形にするのは私、邪神として闇寄りに存在する者として大きな力になります。まあ、全体からすると大したことはありませんが、そういった何か使えるかも、と思う力を育てようかと思ったので」


 彼女は利があると思ってはいない……いや、明確な利ではない利があるとは言える。それは彼女が楽しめること、彼女が育てることでその力を何かの形に利用できるかもしれないこと、そういった個人的なものがあげられる。もっとも、結局のところ彼女にとってこれはただの道楽でしかないだろう。ただ彼女はこの場所にいる彼……彼女の言葉でいうならば暴食者としてこの世に生きる倉谷公也を見つけた。だからそれに興味を持ち、少し楽しもうかと思って手を出した。

 その結果彼が行った世界がどうなろうと、彼がどうしようとも、彼女は気にしない。彼女にとっては彼女らを取り巻く世界の中にある、小さな世界が一つ滅ぶかする程度の話。


「理由を求めても仕方がありません。あなたも貪り生きるのはそうしなければ生きられないからですが、別に生きたいとは特別思ってないでしょう? 貪る物がなくなり死んだところで、あなたは構わない。そうなれば別に死んでもいい。いずれあなたと共に、あなたが貪った全ては消える。であれば今死んだところで同じだというのに、あなたは生きる。なぜですか? 理由はありますか?」

「………………別に」

「すべての物事に理由があるとも、意味があるとも限りません。ただそこに、それが生まれただけ、ということもあります。そういう物だと思えばいいでしょう。さて、異世界に送る理由ややり口についてはともかく、問題となるのはあなたのこと。あなたは弱い。送っただけでは獣に襲われ死ぬか、人に襲われ死ぬか、生きるための条件を満たせず死ぬか、そうなるだけ。それでは意味も面白みも価値もありません。ですから、当然送る私としてはあなたに贈る餞別を用意する、というわけです」


 餞別。先ほど彼女が話したが、異世界に送る人間が弱いのをどうにかする神の力である。多くの場合、異世界に神が人を送る時はそうすることが多い。何故なら大半の場合それは神の都合で行われること。いくら横暴が許される神と言えども、ある程度の配慮はいるし、神としても自身の欲を満たすような楽しみを成立させるにはただ人を送るだけでは成り立たないことが多い。何故なら異世界は彼らのような送られる人間のいた世界と違うことが多く、その常識の通用するところではない。そして送られた人間が力を持たない場合暴力の跋扈する世界でどれだけ生きられるか。知も力もなければそれこそ運がよくなければ生きられないだろう。

 そのため、多くの場合神は送る者に力を与える。そうしなければ生きられないゆえに。いや、そうして神の代行として、自分がやりたいことをやらせるのだろう。そうすることで神はそこに生きる人に自分を重ね楽しむことができるから。もちろんそれ以外にも世界に変革を起こし新しく発展させることや、世界に生まれた異分子の排除、問題事の解決のために送り出す例もあるだろう。神と言っても色々都合があり、仕事があり、役目がある。

 まあ、邪神にそれらの仕事は特に関係ないのだが。


「その餞別は?」

「あまり多様な物を与えることはできません。一つは強さ、今の肉体よりも強く、また持ち得る力も強く。そしてあなたの能力の発現とそれの補強を」

「…………能力?」

「はい。あなたは暴食者、それは別にあなたの生き方だけではありません。あなたの性質が、あなたの銘が、あなたの本質が、あなたの魂が、それがそのようにあなたを育て作り上げた。例えばあなたの名、倉谷公也という名前は倉は"食ら"うに繋ぎ、両方に口の字がある。公也は公という字がハムと読める、そこが"食む"に通じる、すなわち"食むなり"という形になるわけです」

「こじつけだな」

「ええ、こじつけです。そういったこじつけでも、こじつけることでその形を付与できるということでもあるわけで。同音意義語はダブルミーニングに使いやすいのですよ。激情と劇場とかね?」

「………………一体何に使うんだ」


 疑問に思ったが、小さくつぶやく程度で訊ねるつもりはない。訊ねるよりも先に気にかかる方を優先する。知識を求める欲求を持つにしては少し貪欲とは言い難い気がする行動である。


「それで、能力って言うのは?」

「あなたの場合、私が補強する形で七つの大罪の"暴食"にします。あらゆるものを食み喰らう、すべての物事を貪り己の糧とする。今までと大して変わらない、あなたの生き方と同じ能力。とはいえ、それだけでは意味がない。あなたの"暴食"は本当にあらゆるものを食らうことのできる能力とし、そして食らった物を糧としあなたの全てとする、そんな能力となるでしょう」

「………………」

「それに関しては、あなたが異世界に行った時に理解するでしょう。まあ、すぐに理解できるとは限りませんが……本能的に察すると思います」


 己の生き方、己の全て。それを彼女は彼の能力とする、と言っている。それに対して思うことがないわけではないが、別に彼としては割とどうでもいい。ただ、その内容について現時点で理解できないのが不満であるようだ。


※ダブルミーニング。日本語においてひらがなを利用すると漢字への変換時に二つの意味を持たせやすい。特に私は漢字を漢字の持つ意味をそのまま利用することも多いので余計にいろいろな意味で使いやすい。作中の"げきじょう"は切れ端の内容の一つ。またこじつけでも意味を持たせることができるのならば利用しやすい。形に表せるということはそれを有するということであり利用しやすい。

※暴食は本質的には七つの大罪のそれと同質のものではない。単純に七つの大罪を題材に能力の付与としているのはそれが一般大衆によく知られ集合的な信仰、想起があるゆえ。これはこういうもの、と一般的に認識されているほどそれはそのイメージの力として使いやすく、また力として協力になり得る。邪神は邪神という名前しか持たないがそれは邪神と言う大きな括りを己のイメージとして保有するため。あらゆる邪神と呼ばれる存在の力を彼女は有するということでもある。チート乙。

※もし公也が現実世界に残っていた場合。彼は最終的に刑務所域になる確率が高い。人殺しの知、経験もまた求める知であり、刑務所暮らしすらも求める知である。求める者が少なくなってきたら求める物、欲する物の取捨選択の結果それを選ぶ可能性が高い。社会不適合者。ゆえにこそ、邪神に目を付けられた。

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