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アリルフィーラが公也の建築風景を見始めた日から。その日からずっと、公也が作業している光景をアリルフィーラは椅子に座ってい見るようになった。別に面白みもない光景であるが何か彼女の琴線に触れる物でもあったのか……あるいは単に他に見ることもやることもなく暇で退屈だからそういうことをするようになったのか。正直言って建物を建てる公也やメルシーネにとっては資材を運んでいる途中にぶつけかねないので邪魔であると感じなくもない。もしかしたらそう感じさせて邪魔であると詰られたいのかもしれない。いや、さすがに彼女もそこまでマゾな気質ではないと思われるが。一部の貴人はなぜか性癖が特殊だったりするが彼女もそのような感じだろうか。公也は彼女のいろいろな場面で見せる怪しい雰囲気、表情を見ているのでそういったことに関する推測ができてしまう。実際にどうなのかは不明であるが。
「……あれ、邪魔ではないのです?」
「別に構わない。まあ、当たりそうになると危ないからある程度作業が大規模になると一応ここから離れるようにとは言うけど」
現状アリルフィーラの行動に対しては文句はないものの、やはり地味に邪魔であるとは感じている。なのでそれこそ本当に規模が大きくなると魔法や資材の運搬も含めぶつけると危ないのでその時は指示を出す。
「っと。とりあえず……柱はこんなものでいいか。やっぱり加工をどうするか……それに建てたあと、繋げるのも……煉瓦なら石膏とか塗ってやるのか? この手の知識がな……まあ、別に煉瓦でなくとも、和城の石垣みたいな感じでも行けるか? 別に木材でもいいといえばいいし……木材ならやはりあれ、はめ込むタイプがいいのか? 釘とか使う場合……釘はあまりないんだよな。買ってくるのもあり、加工して作るのもあり。金属の資材が心もとないが。木と同じようにはめ込むタイプを石材でやる……のは耐久が怖い。さすがに木材と違って石でやるとすぐに壊れそうだ。耐震耐久、風や雨、そのあたりはこのあたりだとおそらく大丈夫だが意識はしたほうがいい。まあこの場所は活火山でもないから耐震はそこまで必要ではないと思うが」
先に柱だけ建て、その後のことをぶつぶつと公也は呟いている。適当に柱を建てたはいいが、その後どうするかまでは深く考えていない。そもそも建物の設計図はもらったがそれを基準にするにしても、何をどう立てるのか深く考えずに実行している。失敗してもいいからといって実際に失敗するようなやり口で手を出す、何も考えずにあれこれやるというのはどうなのか。さすがに無謀が過ぎる。
ちなみにアンデルク山は火山ではないので基本的にはあまり揺れるようなことはない。
「やっぱり建築知識がないのがな……」
公也も全能万能というわけではない。様々な知識はあるし魔法で色々できるが完璧超人というわけでもない。初めて試みることはやはりうまくいくとは限らないし知らないことは上手くできない。それでも形だけでも頑張って作る、それが今の目標である。最悪最終手段をとるのもありだとは思っているが、簡単に形だけでもやるなら魔法で無理やりということもできなくはなかったりする。
「いざというときは魔法で形だけ建物を作るっていうのもありだな……土魔法の全石材製の建物を。さすがにそれはどうなんだろうと思うし、耐久性とか安定安全は全く考えずに本当に形だけになる。石材で作ると温かみとかそういう点がうまくいくかもわからないし、足元が硬いとかいろいろな問題はあるだろうからあまりやりたくはないんだけど……まあ、そもそもどうやって建てればうまく建てられるかもわからないし……」
またもぶつぶつと呟きながらいろいろと考えつつ建築現場から離れる公也。遠くから大まかに形を見てみるようだ。
「……大変そうですね」
「それほどでもない。力仕事はどうとでもなるし、ほとんどは魔法でどうにかしてる。本業の人間と比べると全然の出来だよ」
「そうなんですか? 私はそういうのを知らないので何も言えませんが……」
「まあ、リルフィは立場的にそうなんだろうな……」
アリルフィーラは皇女であるためこういったことには縁がない。だから珍しいと感じて見にきている、のかもしれない。
「難しいのなら専門の人に任せるのはダメなのですか?」
「ここまで来てくれる人はいないし、城づくりとなると規模がでかくなり大変だ。お金もかかる」
「それは……そうですね」
「リルフィも普段のことをしてくれる人がいないのは結構な負担だろう?」
「そんなことはないですよ? 今の私にはそういった仕事は十分ふさわしいものだと思っています」
「…………そうか」
仮にも皇女が言う言葉ではないと思う公也である。
「……あの、お墓に関してはどうなりますか? 場所をとりますよね?」
「あまり気にしなくていい。もしかしたらちゃんとした墓地とか作ってそちらに移す、とかはあるかもしれないが……今すぐは気にしなくていい。少なくともそこまで広範囲に建物作ることもないからな」
「そうですか」
アリルフィーラがこちらに来るとき、襲われていた時に殺された人たちの墓。それはここアンデルク城付近にある。それに関して建物の範囲を広げる際邪魔になるのでは、ということでどうなるかというアリルフィーラからの質問である。別に死者を蔑ろにするつもりはないのでそのあたりは大丈夫である。最悪ちゃんと地面ごと持って行って墓の移設とかを行うつもりである。そもそも現状はしかたないとはいえ、墓に関してはちゃんとした場所を公也は作るつもりだ。もっとも今は必要ないので放置気味になる。墓というのはやはり人の生き死にがかかわる場所ということもあり、病院などとも違い少し人の営みから離れた場所、あるいは隠れた場所とかのほうがいい。カタコンベみたいに地下に墓所を作るというのがいろいろな意味でいいのではないか、と考えている。
「…………やっぱり人が足りないか」
建築もそうだが、それ以外にもいろいろと足りていないものは多い、多すぎる。アンデール領は現状アンデルク城しかなくそこに住む人しかいないほぼ領民ゼロの土地。どこからか人を連れてくることを考慮しなければいけないのではないか。アンデール領を収める領主である公也はそういったことも考えなければいけないだろう。建物を建てるというのもまた仲間、城魔であるペティエットに対して重要であるがそれ以外にも重要なことは多い。まあ、今は建物をなんとかして建てることを成功させることこそが重要といえるのだが。
※Q.アリルフィーラの性癖は特殊ですか? A.特殊です。
※建物の設計図を作ってもらったはいいがそもそもその通りに建築するつもりはない様子。あくまで参考にしてオリジナルで作るつもりらしい。料理と同じに考えるなら失敗するのが目に見えている。
※一般の職人に頼む場合お金も問題かもしれないが何より時間が最大の問題になる。そもそも一人で大きな物資を運べる公也やメルシーネのフル参加がある意味では異常な光景を見せている。ピラミッドを二人で建築するようなもの、と言えば異常さがわかるかもしれない。
※回収したアリルフィーラと一緒にいた人物たちは埋葬済み。どこかで書いたか覚えはない。最終的にお墓関連は街を作った後か城の地下にそれっぽい何かを作る可能性がある。地下墓地みたいなもの。将来的にその地下の管理人が来るので隠す意味でもそういう場所がある方が都合がいい。墓地自体はある程度わかりやすく人が来やすい雰囲気の場所を用意し作るかと思われる。
※致命的な人材不足。誰も来れないような場所にあるので仕方がない。




